第二章

第16話

 力。

 それは制御を誤れば、人を傷つける事になる。

 見極めなくては。

 連は誰にも見られない様、誰も居ない自宅の自室に籠る。父親は今日も帰って来ない。夜勤なのか、どこかで酔い潰れているのか解らない。どちらでも構わなかった。

 連は右手に意識を集中させる。

 右手は刀へと変貌した。鋭く強く、光にかざせば刀身は鈍く輝いた。形状は日本刀のそれだ。

 ふと思い立って、袖をまくり、刀に変化させた部分と生身の部分の継ぎ目を見る。

まるで刀が皮膚の中から生えているようだ。右手の手首より先はなくなり、刀へと形を変えている。そして、その継ぎ目の部分は、刀と同じ厚さまで皮膚が収束していた。まるで、芯を極端に伸ばしたシャープペンシルの様だ。腕がペン先なら、刀が芯だ。

 そうやって改めて観察すれば、不気味な光景と言えるが違和感や嫌悪感はなかった。これは紛れもなく自分自身の身体だ。

 あと気になるのは、この刀がどの程度の長さまで伸ばせるのかという事。部屋の中では、伸ばすのに限界がある。外で伸ばせばいいのだが、誰かに見つかって騒がれるのは本意ではなかった。

 とりあえず解るのは、刀は伸ばそうと思えば、かなりの長さまで伸ばせる事。その伸ばす速度も一瞬である事。あとは、確証はないが、あまり伸ばし過ぎると強度と切れ味が下がる、という事も感覚で把握した。出鱈目に伸ばせばいいという物でもないようだ。

 もし折れたら身体はどうなるのだろう。

 解らなかった。だからと言って、折って確かめるわけにもいかない。

 後は『鎧』だ。

 身体の全面に『鎧』を展開してみる。今、誰かが自分を見たら、銅像か何かに見えるかもしれない。皮膚全体を微小な刀に変えているのだ。身体の表面全てが金属で覆われている。

 しかし、全身を『鎧』で覆うと、一歩も身動きが取れなくなった。おそらくだが、あくまで刀に変えた部分を動かすのは、生身の筋肉なのだ。全身を刀に変えてしまうと筋肉まで刀に変わってしまい動けなくなるのだろう。これで全身を『鎧』で覆ったまま戦うという選択肢はなくなった。流石に一歩も動けないのはどうにもならない。

 急所だけでも『鎧』で覆っておくという考えもあまりいただけない。というのも、『鎧』の展開には意外と集中力を要するからだ。おそらく、微小とはいえ多くの刀を創り出しているからだろう。『鎧』の展開に気を取られていては、まともに戦えるとも思えない。

 ただ、集中さえすれば、展開そのものは遅くはなかった。攻撃を諦め、防御に徹すれば、咄嗟の攻撃を『鎧』で防ぐ事も不可能ではないだろう。

 とはいえ、防御力そのものはそこまで期待できそうにもない。気休めくらいにはなるだろうが。

 力の確認は済んだ。

 後は、この力をどう使うか。

 こんな力を使わずに済むならそれに越した事はないと思った。しかし、この先、超能力者と対峙すれば、そんな悠長な事を言っている場合ではなくなるだろう。

「俺は『正義の味方』になるんだ……」

 自分の右手を見つめる。

 この力は誰も傷つけさせない為にあるのだ。

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