水祭 辰巳(すいさい たつみ)が入社してから、2週間が経過した頃。
カタカタカタカタ…
「吉田先輩、メッセージが届きましたよ!」
「えっ。俺に…?件名といい、知らない名前だけど…」
「『☆付きレビュー』ですよ、吉田先輩。何を戸惑っているのですか。私にとって、愛すべき下等な1人の人間として、少しは誇らしげにイキってもいい場面だと思いますよ。それくらいなら私、許容範囲内ですから。」
「そうか。」
「はい♪そうでしょう?では早速…」
「なあ…水祭。」
「何か?」
「お前に任せた仕事の納期が今日までなんだが、そろそろ進捗を教えてくれないか。」
「……。」
………8時間後
「流石、吉田先輩!1つずつ、地道にかつ確実に問題を解決していくその姿。見ていて関心しました!だから、生き残れたのかもしれませんね。」
「はぁ、しんどかった…!!!なあ、今回は俺がやったけど、次はお前がやれよ。ああ…もう、すっかり夜じゃないか…娘に拗ねられる前に帰らないと…」
「ダメですよ。忘れちゃいましたか?」
「……『☆付きレビュー』だったか。」
「!良かったです。もし憶えてなかったら、ショック療法でまた吉田先輩の事を洗濯して、無理やりにでも、思い出させようとか思っていましたので。」
「冗談でも言っていい事と悪い事があるんだぞ。なあ…今日はもう遅いから、明日にしないか?」
「はい?いや、本気でやろうとしていたのですが…愛すべき下等な人間には、分かりにくかったですかね。吉田先輩。洗濯機は冗談なんて言いませんよ。どこまでもオートマチックな存在なのです。」
「…なら、真面目に仕事をしてくれ。」
「………。」
……
「あるまん様。『汚れなら 洗ってしまえ 洗濯機』に対して、『☆付きレビュー』をして下さり誠にありがとうございます…ザマァ系か。確かに、前の会社の上司共がその…」
「町ごと浄化されてそれはもう、とってもスッキリしましたよね♪私としても、久々に洗浄し甲斐がある汚れきった町でしたし。」
「『ちとやり過ぎ』だって、書いてあるけど…」
「やり過ぎ?私はただ愛すべき下等なる人間の皆さんの心が醜い欲望で、汚れきっていたのを洗濯機として…ただ洗浄して差し上げただけなのですが。」
「いやそれが、やり過ぎなんじゃ、」
「え…納得出来ません!まだ汚れていない町に被害が出ないよう、毎回欠かさずに結界も展開しているのに〜。」
「……はは。」
「吉田先輩?」
俺は勇気を振り絞り、出会ってからずっと聞きたかった事を聞いた。
「水祭。お前は……この町を滅ぼす為にやって来たのか?」
「当たらずとも遠からずですが…そうですね。しいて言えば…」
少し考えた末に、俺を指差した。
「俺…?」
「はい。泉様から生を受けて…かれこれ数億年。私が洗濯して、浄化されなかったのは、吉田先輩が初めてでしたから、貴方に興味が湧いたのですよ。」
「…竜に好かれるなんて、光栄だが…一応言っておく。俺は妻子持ちだ。後、浮気する気もないし、重婚は法律で禁じられているからな。」
「それは愛すべき下等なる人間のルールであって、洗濯機には関係のない話なのですが…まあ、今はいいでしょう。吉田先輩…お手を。」
「……?」
俺が椅子から立ち上がって右手を出すと、それを掴むと、ぼんやりと俺の体が水色に光る。
「吉田先輩。家がある方角は?」
「ここから東側だけど…っ!?お前、何を…」
「行きますよ。舌…噛まないで下さい!!」
背中から翼を生やし、開けっぱなしだった大きな窓からそのまま飛び出し、音速を超える速度でグングンと高度を上げていく。
「こんな時間まで、私の仕事をしてくださったお詫びにと思ったのですが…あの。目を瞑っていると、愛すべき下等な人間達が無い知恵を振り絞って、創り上げた景色が見れませんよ?」
「俺…高所、っ…高所恐怖症なんだよ!?降ろせ、早く…早く…地上に!!!」
「…?よく聞こえませんが…ふふっ。楽しそうで何よりです。じゃあ速度、上げますよ。」
「た、助けてぇぇ!!!」
そんな俺の叫び声は誰にも聞かれる事なく、衝撃波の音でかき消されていった。
そうして阿鼻叫喚しながらも目的地に到着し、玄関前で別れた後…嫁が作ってくれた食事を食べながら俺が帰るまで、眠らずに待っていてくれた娘を構ってあげたり、明日使う資料をまとめたりで、遂に体力が尽きた俺は、ベットにも行けずに、机に突っ伏し泥のように眠る。
そして翌日。案の定というか…見事に寝坊した。
了
という感じで、竜に振り回されながら彼の生活は続きます。また何処かで続編を執筆する機会が来るかもしれないので…その時は、程々にご期待下さい。
改めて、あるまん様…返信が遅くなりましたが、☆付きレビューをしてくださり、本当にありがとうございました!!!
長文…失礼しました。