海の青がだんだん鮮やになり、潜水艇の船内が少し明るくなった。みな安堵した時、ハニが悲鳴に近い声を出した。
「クラウン!背中に矢が刺さってる!」
「え?え?うわ!」クラウンは自分の後ろを見ようとキョロキョロ。
「ここで抜くなよ!」スノーが運転しながら慌てて言った。
「クラウン痛くないの?」ブラストはクラウンの背中に刺さった矢を近くで見ながら言った。
「うん。へーき。」クラウンは普段通りだ。
「シシッ!ブラスト、矢の先を少し残して邪魔な部分だけ折ってやってくれ。」スノーは半笑いで話した。
「桜島に戻って手当しよ。あそこなら安全よ。」ハニは落ち着きを取り戻した。
潜水艇で桜島の病院に向かった。
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桜島で治療をうけたクラウンは全治2週間。
着物の女性は捻挫で全治1ヶ月。
2人とも1週間入院し、その後、里山村で療養する事になった。
黒神神社の下にある宿の温泉にもよく浸かった。ハニは里山計画を進めながら2人の面倒をよくみた。
ブラストはモジュール解析の為、チェリーブロッサム・アイランド・ステーションに戻った。
スノーは虎徹とゴーストと三輪バイクを1台レンタルし、斥候に出かけた。
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満月の夜、テントを貼って野営地を作る鬼達。
崖の上から様子を見ながら、スノーは静かに口を開いた。
「どうやってホマレに入ったんだ?」
「拙者、家は茶屋の嫡男。幼い時から大蛇退治を見て育った。憧れ、13歳で弟子入りを志願した。自然学、武芸、楽器を習得し、なおかつ師匠の許可がもらえるとHOMAREに入れる。今は家業を手伝いながら民を守っている。スノー殿はなぜにギルドへ?」
「気がついたら軍人になると当たり前に思ってた。オレの種族は戦場で重宝される。けど腑に落ちない作戦や任務がだんだん嫌になってmcsに入った。周りの仲間も同じ理由で、たくさんそこに居たんだ。ただそれも任務に納得できるってだけで、単調に思えたんだ。クラウンやブラストに会ってなんか違うって感じたんだ。自分らしく、楽しそうに見えた。」
「私らしくか。」虎徹はしみじみ言った。
「侍に飽きたら、ギルドに来い。シシッ!」
2人は立ち上がると、バイクに乗り走り出した。
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山から朝日が登り、里山村は活気に満ちていた。ハニが里山計画にスカウトしてきたメンバーが新たに加わった。
「ハニいい?絶対に乗ろうとしちゃダメだよ。あと大人しくなるまで触らない方がいいかな。見るだけ、いい?」クラウンは注意深く話した。
「もったいつけずに早く見せてよー。」ハニは腰に手を当てた。
「ナイトメア!」クラウンは呼び出した。
ダダ、ダダ、ダダ。
漆黒の馬が木の影から走って来た。
「カッコイイ〜!」ハニは興奮を抑え囁いた。
ナイトメアはゆっくりクラウンの前で止まった。
「ルイージさんにも触らせてたから、ハニも平気かも。触っていいよ。」
ハニはゆっくりナイトメアを撫でた。
ブルブルいいながらナイトメアは大人しく立っている。
「私もとっておき見せちゃおうかな〜。こっち来て!」
鎮守の森に入って行くと斗鬼がいた。
「どうも。クラウンさん、調子はどうですか?」
「うん。もう治った。お見舞いのお礼です。はい。」クラウンは斗鬼に芋けんぴと書いたお菓子を渡した。
斗鬼は頬がピンク色になった。
斗鬼は何度も好物を持って見舞いに来てくれた。
「斗鬼、猫ちゃん見せて。おやつ持ってきた。」ハニはペットフードを取り出し歩き始めた。
「ハニ様が保護してから元気ですよ。」森の奥に2人は歩いて行く。クラウンとチョコはついて行った。
斗鬼が「ヒョーヒョー。」と奇妙な声で鳴いた。
森から黒煙が飛び出し現れた。
顔はフェネック、体は薄いベージュのヒョウ、白い大きなしっぽはスカンクの様な形をしていた。
恐ろしい顔と声で唸り出した。
ハニがペットフードを見せて「おやつ。」と一言。かわいい顔になった。
ハニがおやつをあげるとバクバク夢中で食べ始めた。
「どこが猫なの?」クラウンは引いていた。
「あはは。ぬえはキメラよ。」ハニはディスプレイを出しながら説明した。「分泌物を出してマヒさせるのよ。」
「クエストのやつ?」
「そう。クエストでまごろくさんとぬえを保護して、保護区を里山村に作る事になったの。その村で鬼兵に襲撃されたの。けど斗鬼のおかげで村人達のほとんどが生き残ったの。まごろくさんは斗鬼を斬らなかった。」
斗鬼は静かに小さくうなずいた。
「そこに鬼兵がまた攻めてきて、まごろくさんと戦ったんだけど、すごかった。みる?」
「うん。みたい。」
ハニはログを再生した。
「ぎゃう、ぎゃう。」ぬえのうなり声と風を切る音、ぬえの背に乗ったまごろくが鬼面姿で振り返った。
「ハニちゃん、ここらで行こか?」
「OK.」
「ハニちゃん、威勢が足らんで。さっき教えたやつや。」
「承知の助!」
画面はどんどん上空へ、地上ではまごろくがぬえに乗って、鬼兵隊にくないを投げながら、猛スピードで突っ込んで行く。
「行くで!」まごろくが気炎を上げた。
バフッ!ぬえから紫の煙幕がたち、鬼兵は硬直してバタバタ倒れていく。画面は地面に着地し、鬼兵に近づくと、殺気に満ちた顔で画面を睨みつけてきた。
「こわっ!」クラウンは背筋が凍った。
ちりんちりーん。
遠くから鈴の音が聞こえる。
「あ!行商人が来た、行こう。」ハニがディズプレイを閉じた。
「斗鬼も行こう。」クラウンは歩き出した。
小さなマーケットが公民館の周りに集まった。
斗鬼は道具屋に早速つかまった。
「ハニ様ー!大変でしたね。」
宝飾屋の店主がハニに手を振った。
「みんなも無事について良かった。」ハニは笑顔で手を振った。
「へえ。むしろこの旅のお陰で竜宮城から無事に逃げ出せたんです。誘ってもらって助かりました。こんな世じゃ秋まで身が持つか。ハニ様、早く鬼を追い払ってくだせい。」
「うん!がんばるね!」
「ハニ様、最高級の品です。見ていってくだせい。」
ハニは宝飾品を眺め指さした。
「これチャーム?」
「へえ。根付です。紐は選べますよ。」
「じゃ、これとこれと、ヘアゴムはある?」
「へい。ありがとうございます。お安くしときます。」
宝飾屋はヘアゴムを取り付けた。受け取ると、ハニはひとつクラウンに手渡した。
「はい、クラウン。」
手を開くとヒスイでできた馬の根付のヘアゴムだった。
「カッコイイ!ありがとう!」
「私のは猫ちゃんよ。」
2人はさっそく髪を結んだ。
「お似合いです。」店主は微笑んだ。
その後、クラウンは甘味屋で団子をたくさん買って、ブラストの帰りを待った。
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ブラストが夕方、帰ってきて、クラウンとハニとチョコと団子を食べた。
お茶を飲んでからブラストはディスプレイを出してハニに言った。
「モジュールの持ち主は潮汐ってやつで、鬼兵の司令官だった。またメッセージがあったよ。」
ディスプレイには潮汐の顔とメッセージが表示された。
ー目に見えないものを信じない者へ。災い来たる。エレメントは月から持ち出してはならぬ。引力を狂わせるものから我を守れ。ー
「じゃ月にエレメントストーンがあるって事?」クラウンはいきなり団子を頬張った。
「ま、可能性は高いわな。」ブラストはお茶を飲んだ。
「私の探してるやつじゃん!あー。シャトル持ってない〜。」2人の会話を聞いてハニは嬉しさと絶望が同時に来た。
「持ってるよ。スノーが。」クラウンはお茶を飲み干した。
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その晩、スノーと虎徹が斥候から帰って来た。
ハニは玄関まで駆け出した。
「スノー!おかえりなさい。見て!お願いがあるの。」
「帰ってそうそうなんだよ。おお!団子じゃん。」スノーと虎徹は居間に座った。
「おかえりー。」「おかえりー。」クラウンとブラストは笑顔で迎えた。
ハニは「月に連れていって欲しい。」とスノーに頼むと、スノーは素直に承諾した。
「今日は拙者も泊まり、これまでの話を師匠に話さねば。明日、師匠がこちらに立ち寄るまで、お待ち頂けませんでしょうか?」
ハニの話が終わるのを待って虎徹も頼んだ。
みな快諾した。
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翌日、昼食会と会議を合わせてする事になり、公民館に集まった。
座敷に仕出し屋が弁当を運んでいる。
公民館前でクラウン達はたむろっていると天狗様の一行が来た。
村人達はお辞儀をして迎えた。
昼食会は和やかに進み、順々にされる報告や相談を天狗様は聞いた。
里山計画の山の管理、林業、インフラ、農業と生物、鬼兵との戦いなど色んな話が出た。クラウン達にも順番が回って来て、虎徹が代表で話した。
斥候の報告をしたあと一息おいて虎徹は話した。
「師匠、別件のお話が。」
「よー。言ってみい。」天狗様はお酒で顔がほんのり赤くなって来た。
「拙者、ギルドに参加して外の世界をもっと見てみたいのです。しばし参加を認めて頂けないでしょうか?HOMAREの為にも、もっと精進致します。何卒。」
虎徹は正座をして手を揃え頭を下げた。
スノー以外はびっくりしていた。
「よー。ハニちゃん、ええかの?」天狗様はハニに聞いた。
「はい!ギルドになるには適正をクリアしたら2000クレジットかかりますけど大丈夫ですか?」ハニは答えた。
会場がざわついた。
「よー。わしが払おう。」天狗様が言うと、横にいた侍が酒を煽った。「虎徹だけ孫の様に可愛がっておる!」
「よー。兼定、年寄りは若い者を応援せねばならん。」天狗様も酒をぐいと飲み干した。
兼定がガサゴソ、袋から箱をとり、ゆらりと立ち上がり近づいてくる。
白い肌に褐色のおかっぱ、灰色の目で虎徹をぎょろっと見てしゃがんだ。
「わしからも小遣いじゃ。精進せい。虎徹をよろしくな。」少し寂しい目をして千両箱を置いた。ふたを開けると1000クレジットカードが3枚入っていた。
食事会は2時間ほどで終わり、最後に一本締めをして、みな解散した。
クラウン、ブラスト、スノー、ハニ、虎徹、チョコ、ゴーストはサイプレス号へ向かった。
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続く。