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トレモロ 1 巻 1 章 3 話

クラウンは全てが止まって感じ、死体の横の斧をみて、体が勝手に後ずさった。だんだんと後から震えがやってきた。
ブラストは震えた声で言った。
「ヤバい、犯人がまだ近くにいるかも。死体からなんか出てない?」
「ホントだ。うわっ。なんか垂れてきた。ん?あの箱からかな?」クラウンは奥の箱を見た。
「なんだ。焦った。」ブラストは険しい顔をした。
「ローディさん、殺されたって事?」クラウンは聞いた。
ディスプレイを操作しながら、ブラストは小声で話した。
「多分。今、通報したし、バンの回収もギルドが手配した業者が来るから、もう帰ろう。」
2人とも早くここから離れたかった。どう報告するか、頭を悩ませながら倉庫から出ると、チョコがプリズムを出して先導し始めた。
「チョコもういいよ。おいで。」
クラウンの呼びかけは届かず、チョコは来た道から外れて姿が見えなくなった。2人は追いかけた。

なんとか追いつくと、チョコが倉庫と民家が一体になったドーム型の建物の扉の前で止まった。
必死に追いついた2人は、扉の前にもさっき見たばかりの液体が転々と落ちているのを見つけた。
倉庫の横には車が2台、食品メーカーのマークが入っていた。
倉庫の方から悲鳴と数人の声が聞こえてきた。「やられたって?片付けに行くぞ。」別の入り口から数人が出て来て、2台の車に乗り込み、慌ただしく急発進していなくなった。倉庫から「助けてー誰かー。」男の野太い声がする。

「行こう。」ブラストが中に入って行った。
「え?怖いよ。無理無理。」クラウンが首を振って中に入れずにいると、ブラストが振り返り、小声で言った。
「じゃ見張ってて。誰か来たら合図して。クラウンも逃げるんだ。」

チョコを抱きしめて入口で座りこみ、恐怖だけが重たくのしかかった。
「やっぱり僕も行く!」
ブラストに追いつくと、倉庫の中はさっき見た食品メーカーの箱が山積みになっている。
地下に下りる階段から、こもった男の声が響いてきた。
「うわっ。」ブラストがビクッとして声を上げると、地下一階に祭壇があり、人の頭が乗せられていた。
「ローディさんかな?」ブラストがつぶやきながらディスプレイを出してログに撮った。

「誰かいるのか?助けてくれー!」壁の向こう側から声がする。
祭壇の周りは壁以外に何もなかった。
「ちょっと下がってて。」ブラストが身構え、片手を壁に向け言った。「ショックウェーブ!」
バン!ゴトゴト。
衝撃波が壁を壊した。

拘束された青い毛皮の大男がゴーグルを付けられ、檻に入れられていた。
「今、助けるよ!」ブラストが先に壁の穴を通り、2人で懸命にゴーグルを外し、手足を縛っていた拘束を解いた。青い大男は泣いていた。チョコが慰める様に擦り寄った。青い大男のポケットの中から車の鍵を見つけ、チョコのプリズムは消えた。青い大男は、縛られていたせいで手足が痺れ、なかなか立てずにいた。
「行きましょう。捕まって。」ブラストとクラウンが両脇に入ると、小さな2人には寄りかからず、壁に手をつきながら懇願した。
「自分はすぐ立てる様になるから。隣の建物にエリーさんが連れて行かれた。助けてもらえませんか?」
2人はうなずき、階段を駆け上がった。

隣の建物に入ると、バンで死んでいた者とよく似た格好をした数人と目が合った。
みな目つきが恐ろしく、テーブルにあったカトラリーを握りしめ、ゆらりと立ち上がると、クラウンに向かってきた。
ブラストが衝撃波を出し、5、6人吹き飛ばしたが、それでもゆらりと立ち上がり向かってきた。
「クラウン、アビリティーを使うんだ!」
思い出したかの様にクラウンも片手を前にかざした。
「ロージー!」バン!
フォークを持って襲って来た者の顔面に、火の球が当たり爆ぜた。
薔薇の花びらの様に火がチリチリと落ち、体に燃え移った。
「ロージー!」バン!
ブラストに襲いかかった者にも火の球をヒットさせた。そいつは燃えながらナイフを振り回し、寸前の所で燃え尽き、膝から崩れ落ちた。
ブラストも衝撃波を出しながら部屋の奥に少しずつ進んだが、火傷して暴れた者がブラストに抱きつき、そのまま倒れ込んだ。

下になったブラストが片足を首にかけようとするが、かわされた。前腕をブラストの首に当て、全体重を乗せ押さえつけてきた。アビリティを出せずにいると、膝まで乗せようとしてくる。ブラストは必死に抵抗し揉み合った。

扉がバタン!と音を立てて開き、青い大男とチョコが飛び込んできた。青い大男は入口に転がった椅子を持ち、椅子の脚を前に向けブラストに馬乗りになった者に向かってタックルした。
倒れた相手は椅子を蹴り飛ばし、青い大男の首もとを掴んだ。青い大男も、襟元をきつく掴み力で押し返し、衝撃波で無くなった窓の外に2人とも落ちた。
「そのまま頭下げてて!ブラスト!チョコ!」クラウンが叫ぶ。
チョコがクラウンのそばに駆け寄ると同時にアビリティを出した。
「ロージー!」
「ショックウェーブ!」
ドカーン!
チョコが光り、爆発し大炎上した。
4人は倒れた。

窓の外を見ると青い大男が相手を縦四方で締め落としていた。
「終わったな。」ブラストは息が上がり、クラウンは目の前の光景を信じられずに呆然としていた。
「誰かいるのー?助けてー!ここよー!」かすかに女の人の声が聞こえた。青い大男がこもった声で「エリーさん!どこです?」「ブルマン!?ここよー!助けてー!」2階から、かすかに声が聞こえる。
階段を駆け上がり、ブルマンが部屋を開けると、エリーがゴーグルを付けられ、壁に張りつけにされていた。
3人で拘束を解くと、エリーは泣きながらお礼を言った。「拷問される所だった、酷い映像ばかり見せられたわ。こいつらテロリストよ。」
外に出ると遠くでサイレンが聞こえた。死体のあった倉庫の方からだった。2、3分で保安と救助が来て、それぞれ事情を聞かれたテロリストのグループが食品メーカーに偽装して、施設や倉庫を乗っ取り、拉致、洗脳など犯罪に手を染めていた。バンドのアンチプロパガンダの事も許せなかったらしい。ブラストが通報したおかげで、食品メーカーの倉庫にいたテロリストは逮捕され、監禁されていた従業員も無事に解放された。

みな数時間で解放され、保安に感謝された。
エリーとブラストは手当を受けて、仲良く救護車のベンチに座っている。
ブルマンはベットで眠っている。
エリーが気づいて手を振ってきた。
「クラウン!こっちよ。保安の人がこのまま送ってくれるって。一緒にトレーラーに帰りましょ。」

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トレーラーに戻りコールすると、フェイデッドがみなを招き入れてくれた。
ブルマンはバンドメンバー全員と握手とハグをして、生還の喜びを噛みしめた。
「なんか外が騒がしかったな。」DJ Senjuのヘルメットが声に合わせて光った。
「大変だったのよ!」エリーが涙目で訴える。
ブラストがH.Oのそばに行き、ディスプレイを出しサインを求めた。H.Oが笑顔でサインした。「みんな聞いてくれ。この2人のおかげでバンが戻ってきたぞー。」
フェイデッドが「イェー!フォー!」両手と歓声を上げた。
ボーカルのジュースはドレッドヘアを揺らし「お、か、え、りー!君らも飲もう!」2人は飲み物を受け取り、また緊張した。
ブラストが申し訳なさそうに話し出す。
「それでローディさんは残念な事になって。ログはあるんですけど、見ない方がいいです。」
H.Oは不思議そうな顔をした。「ローディも元気にいるじゃねーか。」
慌ててクラウンも飲み物を置いた。「H.Oさん違うんです。多分テロリストに殺されてしまいました。」
ブルマンが飲み物を吹いた。「ブフォッ!自分が?」
全員がキョトン顔になったのかは定かではない。
1人はヘルメット、1人はドクロのマスク。しかし空気が一瞬止まった。
エリーはピンと来た。
「ローディっていうのはバンドの裏方で簡単にいうと楽器の手配とかお世話係の事よ。ブルマンがうちのローディ。で、私はオーガナイザーでまとめ役。カルーセルステーションのギグも私が手配したのよ。」
バンドのメンバーは真相がわかり手を叩いて笑った。
「じゃあ僕らが見たのは別の人だったんですね。」クラウンはほっとした反面、思い出して身震いした。
「別々で事情聴取されたからな。今日あった事、みんな聞いてくれ。」ブルマンが話し出した。
「バンで寝ていた所にエリーさんが差し入れを持って来た。後を付けられたらしくテロリストに襲われたんだ。縛られて目隠しされたところで気絶した。意識が戻ってすぐ、一度バンが止まってアクシンデントが起こった。察するに他にも連れてこられた食品メーカーの従業員の1人が暴れたんだろう。激しく抵抗してる声がした後、静かになった。カーゴルームで大惨事が起きたんだな。保安の話だと首なしになったのはテロリストの方だった。従業員たちは倉庫の奥に連れて行かれ、自分たちは別の車に乗せられたんだ。アンプロの関係者を拷問するって話が聞こえて、別の建物に連れて行かれた。そこからギルドの2人が現れて、大活躍!って訳さ。」
ブルマンが縦四方で1人落とした話は大盛り上がりした。大酒を飲んだブルマンは服を脱ぎ出した。体は獣の様にふさふさの毛に覆われていた。ブルマンはこもった声でアンプロの歌を歌い、みな大合唱した。
「なんで酔うと脱ぎたがるの?」呆れた顔でエリーがブラストに囁き、横にピタリと座った。
飲み終えた2人が帰ろうとした時、H.Oが呼び止めた。「ブラちゃん、クラちゃんありがとな!何回機材持って来いって連絡してもブルマンが半日以上シカトするから頭に来てたけど、ギルドに頼んで良かったわ。」
「アンプロのファンだから!そうじゃなきゃオレらも逃げ出してました。へへ。」ブラストが照れながら答えた。
「明日、ステーション広場でギグやるけど来るよな?」
ブラストが下を向く。
クラウンがブラストの肩に手を置いた。
「チケット取れなくて。ギグ頑張ってください!」
「いいから明日トレーラーに来いよ!」H.Oが腕組みして編んだ髭を撫で下ろした。2人は見つめ合って目を輝かせた。「はいっ!!」浮かれた声が勢いよく揃った。メンバーもトレーラーから出てきてベロベロで見送ってくれた。

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翌日、2人はギルドに向かい、ポッドに入った。コンテナ回収、ローディを生きたまま連れて帰る特別報酬、テロリスト一掃、人質解放、全ての報酬を受け取った。全身が金色に2回連続で光った。クラウンはレベル5になった。
ポッドからでた2人は目を合わせ、にんまりした。「トレーラーに早く行こう!」クラウンが走り出し、ブラストとチョコが追いかけた。
トレーラーの前にエリーと回収されたバンが停まっている。中から文句を言いながらフェイデッドが降りてきて、軽く手を挙げると2人にグチを漏らした。
「おい、見てくれよ。カーゴルームのウッドパネルがひどい事に、なんて有り様だ。」
「ウッドパネルなんて贅沢な仕様にしてるからでしょー。いーから乗って!」
エリーが大きく手招きした。
2人はこれに乗るの?と、息をのんだが、フェイデッドと乗り込み、ステーションに向かった。ステージの裏側の横にバンを停めると後ろが開いて、ブルマンが「ウッス!」と挨拶をして、テキパキ仕事をしている。
「始まったらエリーとバンの上でギグを楽しんでくれよ!ハシゴかけたから。」ブルマンはハシゴを取り付けるとフェイデッドとステージ裏に消えて行った。
「登っていい?」チョコを抱えたクラウンは、ステージと同じ高さの光景に胸が熱くなった。
カルーセルステーションのリングが緑色に光り、ステージから赤いビームが放射状に広がり青色に変わったり、流星になったり。ステージでジュースがマイクテストをしている。クラウンに気づき指をさし、クラウンは手を振った。ドキドキが止まらなかった。

下を見るとエリーがブラストの腕を掴み、アングラのコーデを褒めちぎっていた。僕も同じブランドなんだけどな?と首をかしげた。
「じゃあまた後で戻って来るから。飲み物なんでもいい?」エリーはブラストから離れステージ裏に消えて行った。
「よいしょ。」ブラストが登ってきた。
「おー!ステージ丸見えじゃん!」足を投げ出し座り、チョコをなでる。
「オレ、もう少しカルーセルステーションにとどまるわ。クラウンはどーすんの?」照れくさそうに話す。
たくさんの事が起きて、この後の事は、正直何も考えてなかった。
「僕、アビリティー強くする。」口からまたカタコトがでた。
「そっか。行くんだな。無茶して死ぬなよ?はは。」
「ブラストも。」
「オレは調達専門っ。フレンズで繋がってるし、ゲームで会おうな。」
「うん。」
本当は怖くて怖くて、このままクエストなんかせずに元の回遊ルートに戻りたい、そんな考えがよぎるけど、けど、頭のどこかでアビリィーがもっと強くなれば色んな事ができるのかな。そんな考えが頭の中でぐるぐるした。

色んな種族がステージめがけてぞろぞろと集まった。
しばらくしてエリーが飲み物を持って現れ、数分後にステージの照明が全て消え、歓声が上がった。

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目覚めると昨日のギグの光景が蘇り、感動と興奮がまだ冷めないでいた。

メタリックなヘルメットが光りDJ Senjuからビートが流れ出す。H.Oが縦に揺れると観客も縦に揺れ、分厚いベース音が響く。フェイデッドがギターをかき鳴らすと最前列はもみくちゃになった。王冠にサングラス、マントをつけたジュースにスポットライトが当たり、観客のボルテージは最高潮に達した。

にたにたしながらご飯を食べていると、アンドッキングの準備を済ませたブラストがチョコのオーガニックフードをたくさん抱えて入ってきた。
「ここに置いとくよー。チョコー、クラウンを頼んだぞー。」なで終わると、2人はハグをした。
「またな。」「またね。」

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出発の時。
エリーも見送りにきていた。たぶん僕の見送りだよね?笑って見送る2人に手を振った。

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2章に続く。

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