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トレモロ 1 巻 2 章 2 話

攻撃を受け、弱ったスノーの横で呆然としゃがみこむクラウン。
転がったチョコは赤い液体まみれのまま、むくっと起き上がり、クラウンの元へ駆け寄った。意味がわからず、ショックで動けないクラウンの前でいつもと変わらないチョコ。弱ったスノーがチョコに手を伸ばした。チョコはスノーの鱗の手をペロペロ舐めている。

目を細めてスノーがチョコをなでた。
「そうか。ウォーターボールが弾けただけか。これだけ水分があればオレも復活だ。」

目を閉じたスノーはシシーッと音を立て深呼吸すると、重そうにお尻を上げて座り直し、本当に復活した。

先頭の2人が残りの一体を片付けた。
負傷兵も合流し、バスの運転手は興奮気味だ。「みんな無事ですね!」

補給部隊のいる車庫は坂を下りた右側にあり、やはりスピリットに包囲され抗戦していた。

「訳がわかないのは僕だけかよ?!」

ムカついたクラウンが立ち上がり車庫の真横にあるガスタンクめがけてロージーを放った。

「ロージー!」バン!

爆発音にみな身をかがめてすくみ、車庫を包囲していたスピリットは全滅した。

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7人と2匹が車庫に近づくと、シャッターが開き、兵士2人が中から手招きした。

中に入ると、出てきた兵士が負傷兵を手当てする為に、奥に連れて行った。その姿を見送った女性兵士が感謝を述べる。

「ありがとう。本当に助かったよ。曹長のジョアンヌよ。トゥーリを助けてくれてありがとう。残念ながら輸送機も全てやられてしまって、残ったのは倉庫に積んだ補給物資と、ここにあるスカイクレーン2機だけ。手当が終わったらここを引き上げるしかなさそうね。装甲バスで来たの?」

モロクリアン局員がいきなり大きな声を上げた。

「曹長殿!mcs(モロクリアン・カスタマー・サービス)はアルバ山にいます。同胞の元へ残りの物資を持ち出してもよろしいでしょうか?」

「それは構わないけど。来る時に見なかった?アルバ山の基地も壊滅状態よ。きっとここより酷い事に。うーん。ジャミングの中、ハックされて攻撃してくるバイキングとスピリットに突っ込む気?」

「自分は生き残った同胞を見捨てて帰れません!」

「一度、ここにいる負傷兵を連れて戻り、部隊を編成し直してからじゃないと、無駄死にするよ。」

「自分は戦っている同胞と共にヴァルハラへ行きます!」

「ちょっと待って、考えるよ。」

曹長がディスプレイを出し、シュミレーションをみな黙って凝視する。
見終わると各々の見解を話し出した。

クラウンはその間、スノーと機材に腰を掛けコソコソ話をしている。

「傷はもういいの?」

「シシッ!水分があれば多少の傷でも復活できるからオレたちは戦場で重宝されてる。」

「ふーん。いいね。」

「オレもできれば行きてーな。前で熱くなってるモロクリアンいるだろ?あれがジュニアで、その兄貴、フリーがアルバ山にいるんだよ。フリーには世話になったから助けたい。
つーかクラウンの技スゲーな。一緒に行かねーか?さっきもジャミングアンテナもろとも吹っ飛ばしてたもんな。」

「あれがジャミングアンテナなんだ。初めて見た。たまたまガスタンクが近くにあったからだよ。僕も行こうかな?空になったカートにスピリット回収して帰りたいな。ここの焦がしちゃったから。はは。」

「シシッ!ちゃっかりしてんな。」

沈黙を貫く曹長の顔が、すまなそうな表情に変わる。

「ジャミングかかってるから近づく事も難しいけど、アルバ山の左岸からならカートを自力で押して近づけそうね。死ぬ覚悟があるなら、物資の持ち出しを許可する。」

「あのー、曹長、そんな覚悟しなくても、もうちょっと安全に近づいて救護できますよ。」

驚いて、全員が一斉にクラウンの方を見た。

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「2マンセルで行け!クラウンとスノーの合図を待て!」

曹長の命令で作戦が実行された。
曹長と兵士たちは補給物資を積んだカートを押してアルバ山へ出発した。

アルバ山の左岸、かなり上空から、クラウンとスノーが2機のスカイクレーンの背に乗って現れた。

「クラウン、ジャミングアンテナあったぞ!」

クラウンはホバリングしながら近づき、ロージーを下に向かって放ち、ジャミングアンテナを撃破した。アルバ山に新たな煙が上がる。クラウンがディスプレイを出し合図を送る。

「アンプロをかけて!」

スカイクレーンのスピーカーから戦場に鐘の音が2回、響き渡った。
爆音で”For Whom the Bell Tolls”が流れ出す。

スノーのテンションが上がる。
「おー!メタリカじゃねーか!」

「アンプロのカバーだよ。チョコ、イカロスを使え!」

チョコのアビリティ、イカロスは対象をマーキングする。mcs局員の居場所が作戦チームに共有された。スカイクレーンに吊るしてあるカートにクラウン、スノーはそれぞれ飛び降りた。

2人は高い高度を保ったまま戦場上空から地上を見た。
地面に倒れている30名ほどのmcs局員たちが見える。
クラウン、チョコ、スノー、ゴーストがウォーターボールを次々に投下した。
地面に落ち、割れて飛び散るウォーターボール。赤い砂埃がたち、戦場が水蒸気に包まれると、地面に倒れていたmcs局員たちが次々に立ち上がった。

立ち上がった局員はすぐ横にいたスピットの首の根元に手を回し、ねじり伏せ、へし折った。

岩陰から立ち上がった局員は、岩を駆け上がり、そのまま飛び上がった。両手を組んでバイキングのクラゲ頭に叩きつけ、地面に落とした。

武器を持った局員もスピリットやバイキングを追い回しながら、徐々に基地に向かっていく。
「ウォー!!」雄叫びを上げながら赤い砂煙を上げて走る局員達。

曹長達は岩陰で待機していたが、後方支援に入り、全隊でアルバ山基地へと一斉攻撃にでた。

「シシッ!戦況は良さそうだ!クラウン、降りるぞ!」

「行こう!」

スカイクレーンを下降させ、基地の屋上に降り立った。

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「ゴースト、ウォーターボールを背負え。」
スノーは手際よくゴーストにウォーターボールをストラップでくくりつけ、辺りを警戒した。

「制御室にマークがある。行ってみよう。」
スノーとゴーストが階段を降り、クラウンとチョコが追従する。

すぐ下の司令室の扉に聞き耳を立てるスノー。
「やけに静かだな。開けるぞ。」

うなずくクラウン。

「誰もいねーな。」スノーとゴーストは階段を警戒しながら降り、制御室の扉に聞き耳を立てる。

お互いに目を合わせてうなずく。

スイン。扉が開くと、机の下から横たわったモロクリアン局員の足が見える。
「フリー!」スノーが駆け寄り、ゴーストもそばに座ると素早くウォーターボールを割った。

「シ、シシー、、シー、シー」

「なんとか間に合ったな。動かなくていい。ジュニアも来てるぞ。」

フリーは重い手でスノーの手を払って、机の裏からモジュールを取り出し、スノーの手に力なく乗せた。

「なんだコレ?」スノーはじろじろ見た。

「僕、コレと同じの見た事ある。どこでだっけ?」クラウンは呟いた。

フリーはクラウンを薄目で見てまぶたをピクっとさせた直後、眠りに落ちた。

スイン。扉が開き武器を構えたmcs局員が3名入ってきた。

「無事か?!おい、フリー!奪還したぞ!」

心配そうにフリーを覗き込む局員達。

「回復したから大丈夫だ。体力が戻るまで時間かかりそうだ。」スノーの言葉に安堵し、眠ったフリーをみなでキャスターチェアに乗せ、押しながら表に出た。

表に出ると屋上からスカイクレーンに乗ったジュニアが降りて来た。
局員達は音楽を流したまま全員で喜び合っている。

スカイクレーンから降りたジュニアに局員が駆け寄り言った。
「ジュニア!俺の腹にボール当てたのお前か?!」

「違う!断じて!」

歓喜の中、フリーを見つけたジュニアが抱擁した。

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続く。

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