• SF

トレモロ 1巻 4章 4話

ビゴスを食べ終わると、ドレイクが店主を呼んだ。「今日は行商人は来たか?」
店主は首を横に振った。

会計を済ませ、ドレイクは黙って馬に乗り、クラウンは慌ててチョコを抱え、ナイトメアにまたがった。

「南に行くぞ!クバ行け!」
クバの脇腹に足首で合図すると走り出した。

南にしばらく走ると駐屯地に着いた。
ドレイクだけ中に入っていき、クバとナイトメアと門の前で待った。
数分で門から出てくると、ドレイクは「東に行くぞ!はっ!」と言い、勢いよく馬に飛び乗って出発した。

木々の木漏れ日が美しい並木街道。
若者達が川の近くでピクニックしている。
マンドリンを弾いたり、フルーツの入ったバスケットを囲んでいる。
同じ年くらいの女の子たちと目が合った。
女の子同士でクスクス、はにかんでいる。
クラウンは恥ずかしくなって、前を向いた。
女の子たちの話し声は小鳥のさえずりの様だった。

ブラストからのコールに出た。
「終わったよ。ルートが記録されてた。巡回兵のルートかな?おっさん近くにいる?」

ディスプレイにポラン王国の地図とルートが表示された。

「うん。今、パッとルート見たら、まさにこの通りに聞き込みしてるよ。おじさんすごーい。」

「マジで。野生のおっさんの勘か?!」

「シシッ!クラウン無事か?次どこ向かってんだ?」

「無事だよ。東に行ってるから、ルート通りならロイヤル・イースト?」

ドレイクがいきなり振り返った。「そうだ。ロイヤル・イーストの監視塔に向かってる。その先のホップ村に来い!」

ロイヤル・イーストは大きな街だった。
検問所を通り、監視塔に着いた。
「今日は行商人を見たか?」ドレイクは同じ質問を監視塔の兵士にしていた。
兵士は首を横に振った。
「今日はまだ見てないな。寄り道してるのかもな。」

馬舎でクバは勢いよく水を飲んでいた。
クラウンはそばで見ていた。
通りすがりの兵士がクラウンの後ろから声をかけた。
「何してんだ!」
近づいてきた。
顔が近すぎてクラウンは後ずさった。
「許可書は?ん?」
慌ててディスプレイを出すと、王家の紋章にwのサインを見て、兵士は硬直した。
「ヴェロニカ様!失礼しました。失礼します。」兵士はぎこちなく立ち去った。
クラウンは拍子抜けした。

ドレイクはクバのチェックをしてからまたがった。
「ロイヤル・イーストの周りを巡回してからホップに向かう。」
クラウンは黙ってドレイクに続いた。

常に東側を警戒しながらドレイクはロイヤル・イーストの街を回り、南西のホップ村に向かった。

⭐️

しばらくすると、スノーたちが乗ったラプターが追いかけてきた。
「イェー。追いついた〜。」ブラストがクラウンの横に並んだ。
ホバーバイクにビックリしたクバはものすごいスピードで駆けて行った。

⭐️

ホップ村の手前の監視塔が見えてきた。
石積みの螺旋階段が見える円柱の塔の周りに小さな湖がある。
その周りに敵兵が見えた。

「どうどう、クバ。」馬をなだめてドレイクは木の陰から監視塔を見ると、静かに茂みの中を進んで行ってしまった。
クラウンは後ろを振り返りながらドレイクに続いた。

慌てて茂みにバイクを隠して、ブラスト、スノー、ゴーストも追いかけた。

監視塔の方から戦っている音が聞こえた。ドレイクは塀をあっという間によじのぼり中庭に飛び込み、剣を抜いた。
クラウンは登れそうな壁の低い所を見つけ、茂みに隠れながら壁際を移動した。

叫び声がする監視塔の中庭へ、ブラストは駆け込んだ。
中庭でドレイクは向かってくる敵兵を次々に斬った。
ドレイクの後ろの壁の上からクラウンが顔をピョンと出し、中庭の塀の上に立った。ドレイクの後ろに忍び寄る敵兵にクラウンは真上からロージーを打った。バン!「アツッ!!」飛び上がった敵兵をドレイクは水平斬りで斬った。

クラウンが立っている塀の上に、ドレイクは軽々と駆け上がって遠くを見た。
振り返り「ブラストー、あと片付けとけ。」ドレイクは躊躇なく塀から湖に飛び込んだ。

ブラストは敵に囲まれた。「みんな逃げてー!」
クラウンに抱えられたチョコ、追いかけてきたスノーとゴーストも湖に飛び込んだ。
「ショックウェーブ!」ドン!
もろくなった石の壁も敵兵も吹き飛んだ。
敵兵は気絶した。

ブラストは坂を走って下る。向かい風から、焼けた臭いがした。

⭐️

ホップの村に近づくと焼ける臭いに、馬や人の叫び声が聞こえた。
村の入り口の2件の家は燃え、煙も上がり始めた。

敵兵が火をつけて略奪をしていた。
ドレイクは松明を持った敵兵を2人斬り捨てた。
「スノー!入り口の燃えてる家から住人を助けろ!」ドレイクはスノーに言った。

ドレイクはその先の家に入っていった敵兵を引きずり出し、何か叫んでいたがとどめを刺した。
「クラウン!入り口の燃えた家を燃やして壊せ。火災を止めろ!行け!」ドレイクはクラウンに言った。

クラウンはすぐさま向かった。

村の真ん中の長屋の前に荷車がある。略奪品を乗せに来た敵兵と敵兵長がドレイクめがけて走ってきた。

「ブラスト!長屋の火を消せ!」ブラストに言うと、ドレイクは剣を構えた。

敵兵の1人が向きを変え、ブラストを追いかけると、ドレイクは剣を投げた。
脇腹に剣が串刺しになった。ドレイクは素早く間合いを取りながら、転がった兵士を足で押さえて剣を抜き取り、そのまま回転斬りした。
剣は大斧に弾かれ、激しくぶつかった金属音がした。
はじかれ体制を崩したのは敵兵長だった。
ドレイクはフルスイングで腰から首まで斬った。
ドレイクは血まみれで剣を血振りした。

3人はそれぞれのアビリティで役目を果たし、夕暮れまでホップ村の復興を手伝った。

長屋の奥にある、古い木造の教会が無事だった事が村の人にとって嬉しかったそうだ。感謝された。家を失った2家族は家を建て直すまで、長屋にしばらく住むことになり、宝物も無事だった。教会の前にランタンがたくさん灯され、日が沈むと優しい光に包まれた。村人も集まり、大鍋で作ったビゴスをご馳走になった。優しい味が染みていた。

⭐️

真っ暗のなか、駐車場にバイクを停め、ヘトヘトになって眠たい目を擦りながら、マンドリンが聞こえる方へ帰り着いた。

⭐️

翌朝、ヴェロニカに起こされ城下町イチ人気のカフェに3人と2匹はいた。

「信じられない!まだこの国に来て、ビゴスしか食べてないですって?!」
ヴェロニカはこれまでの話を聞き、怒った。

「クレムフカ下さい。」ブラストが注文するとクラウンが聞いた。「何頼んだの?」

「カスタードをパイで挟んでるスイーツ。」「僕も!」「オレも!」「私も!」
結局みな注文した。

クレムフカがヴェロニカの怒りを落ち着かせた。
「ふー。じゃあモジュールにやられた部隊はドレイクの部隊だったって聞いた?」

「聞いてない。」クラウンは即答した。
「!!」ブラストとスノーは驚きを隠せずいた。

「従者失格ね。はあ、もう。ここだけの話よ。」深いため息をつき、前かがみになってヴェロニカは小声で話し出した。
「ドレイクはその日はお休みだったの。宮廷の用事で私の所に来ていて、朝方、、訓練所に戻ると、騎士団の仲間が殺されてたの。はあ。それから私を避けてるのよ!」
ヴェロニカはまた少し怒った。

「自分だけ生き残って、責任を感じてるんじゃねーか。」スノーがぼやくように言った。

⭐️

旧市街広場に戻ると、マンドリン弾きの男が演奏の準備をしていた。
ヴェロニカに好きに食事ができる様にお小遣いをもらい、その中から数枚のコインをマンドリン弾きの開いたバッグの中に入れた。

顔を上げたマンドリン弾きは「ちょっと待って。今、準備して最高の一曲を。」と言うと、クラウンは「いつもホテルから聴いてるから、いいんだ。」と笑顔で言った。

「それは紳士方のご好意に感謝。」マンドリン弾きは深々とお辞儀した。

「あの、今少し話せる?」クラウンは話しかけた。

「なんでしょ?」

「このルートって通りますか?」クラウンはディスプレイに地図を出した。

「いやー。巡回兵のルートの様ですね。私たちが通るのは許可をもらった街と気ままに街道で演奏ですが、巡回兵と同じルートにくっついてくのが行商人です。安全だし、兵士たちはお菓子とか買ってくれるからね。」マンドリン弾きは答えた。

「そうなんだ。最近、騎士団の人達が殺されたって知ってる?」

「まさにその事件の時に、騎士団の訓練所から王国まで一緒に歩いたドワーフが酷い目にあったって話してたよ。その後、その騎士団が全滅したって噂になってる。」

「ドワーフの酷い目ってどんな?」

「さあ。ここに着いて、すぐ別れちゃったけど、この街に住んでるウーカシュっていうドワーフだよ。」

「ありがとう!」
クラウンは手を振った。
側で聞いていたスノーはコインを一枚、開いたバッグに投げ入れた。

⭐️

3人と2匹は、保安検査所に行商人のドワーフの住所を聞きに行った。
最初は渋っていたが、wのサインは効果絶大だった。
チョコのプリズム姿に街の子供たちが喜んだ。
城下町の狭い路地を上ったり曲がったり、下町のアパートに辿り着いてチョコの案内は終わった。

近くの水飲み場で見た事ある馬が、水をガブ飲みしていた。クバだ。
アパートの中から争う声が次第に大きくなって、ドレイクの声がした。
扉にバン!何かぶつかった音がした。
ゆるい扉はふわーっと開いて、中でドワーフが逃げまどっていた。
部屋の中は小さい家具に棚にドライフルーツやお菓子、瓶詰め、乾物など所狭しと並んでいる。

3人が入り口に近寄りのぞくと、ドレイクはひっくり返った鍋を足ですくい上げると盾の様に構え、おたまを片手にドワーフの頭をこついていた。
ドワーフはその辺にあるものをドレイクに投げつけ、部屋の中はめちゃめちゃになっていた。

ドレイクが3人の視線を感じた。「小僧。こいつを抑えろ。」
3人が渋々部屋に入ると、ドワーフは大人しくなった。
おでこが赤くなったドワーフを小さな椅子に座らせ、軽めに縛った。

「尋問官は俺だ。」ドレイクが机に座った。

⭐️

続く。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する