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トレモロ 1巻 4章 3話

ラグーナ・ステーションを出発して数日経ち、みなカピラリイロスに陥っていた。

口を開けばピッツア、ゴンドラ乗りたい、マーサーのカップケーキ、みんなに会いたい、次々に思い出し「また行こう。」が合言葉のようになった。

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さらに数日後。
クラウンはマーサーに教えてもらったパンケーキ作りに熱中していた。
バルサと一緒に採ったハチミツをたっぷりかけた。

ブラストはルイーズにもらったお茶を淹れ、スノーは幸福の香りの中でトレーニングを終えて話し出した。
「ブラストに協力要請だけして詳細はまだ無しか?」

「そう。待ち合わせ場所は書いてたから行って居なかったら、ソッコー帰ろ。」ブラストはお茶を飲んだ。

「せっかく12日かけて行くんだからクエストしながらカフェ巡りしたいな。」クラウンはパンケーキを切った。

「それがテクノロジー制限かかって、ギルドもないし、混乱も厳しい国みたい。調べたら、要請があったポラン王国だけしか滞在できないんだよねー。」

クラウンは口いっぱいにパンケーキを頬張った。
「ほいひー。そーなほ?」もぐもぐ。

スノーはトレーニングが終わった後、シェイカーにプロテインを入れてシャカシャカ振っている。
「国からの要請っていう割には、、な文章じゃね?サイプレスー、ポラン王国のメッセージ見せて。」

モニターに表示された。

ーK2-18b、ポラン王国からの要請、重要「ご招待のご案内。ギルドでのご活躍を知り、お力添えをお願い致します。ブラスト様、御一行様、ご助力頂けましたら高額報酬をお支払い致します。ポラン王国の北門にて従者がお待ちしております。w」ー

「wって。シシッ!」

「御一行って僕たちだよね?チョコも入ってるよね?」

12日間かけてポラン王国にサイプレス号は向かった。

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ーK2-18b、ポラン王国、ベイサイド・ステーションにまもなく到着しますー
上空から見ると広大な平原、野原に大きな城壁と古めかしいお城が見えた。

クラウンとブラストは遅くまでゲームに熱中して、またもや寝不足になっていた。
「あの辺りがポラン王国かなー。ふぁああ。」クラウンは大あくびした。
「お城デカー。ふああ。うつったー。」ブラストも大あくびした。
「王国の北が湾になってるな。ベイサイド・ステーションあったぞ!海だ!」スノーは海を見てテンションが上がった。

ベイサイド・ステーションに3人と2匹は降り立った。
潮風が気持ちよく吹いた。

ベイサイドは倉庫内や路上にもマーケットがたくさん出ていた。
馬車とモーターサイクルのレンタルがあり、スノーは軍用ホバーバイク、ラプターをレンタルした。スノーは出発前に「本当はニンジャとかホークに乗りたいんだ。」とぼやいていた。

みなを乗せて、どこまでも平らで美しい平原を駆け抜けた。

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「このバイクはやー!あ、お城見える!」クラウンは指差した。
「ふー!目が覚めたー!」ブラストは目をキリッとさせた。
「シシッ!今かよ。あった。北門の看板だ。パーキングはこっちか。」
スノーは駐車場にバイクを停めて、北門の橋に向かった。

北門の石橋の下は川が流れていた。
橋の入り口、石壁のヘリに寄りかかった黒い鎧の男が小さく手を上げた。
黒い鎧の男は足をクロスして腕組みしたまま、そこでじっと待っている。
近づいてみると、中年男性で黒い長髪に腰に剣を下げていた。

お互いの顔もはっきり見えるほどに近づくと話しかけてきた。
「泥水すすれるか?」

3人は少し身を引き、挨拶できなかった。
「おじさんってやだー。」クラウンは引いた。
「何かの冗談?」ブラストは顔をこわばらせた。
「覚悟があるか?って話だと思う。」スノーが2人の顔を見た。
「スノー行って。」「行って。」スノーは2人に前に押しやられた。

「ついて来い。小僧。」黒い鎧の男はくるっと城に背を向け歩き出した。

「小僧じゃねーし。」スノーは言いながら後をついて行った。みなも続いた。

街には入らず、北門を出てまっすぐ街はずれのパブに着いた。

柵を通りパブの入り口に立つとギルドのワッペンから警告が出た。
ー利用禁止エリアですー
3人は初めて聞く警告音に驚いたが、黒い鎧の男は馴染みの店らしく、庭にテーブルと椅子を出してくれた。

「よー!ドレイク。」店主が外までメニューを持ってきたが、メニューも見ず、ドレイクはビゴスを4つ注文した。テーブルにライ麦パン、ビゴスが運ばれた。煮込んだ肉の塊のシチューで少し酸味があり、肉の塊はスプーンでほぐれる程、柔らかった。

クラウンは緊張していた。落ち着かず、食べながらドレイクの鎧をちらちら見た。
ドレイクの黒っぽい鎧の傷み具合、色んなシミがこれまでの激闘を物語っているが、クラウンには不潔に見えた。

食べ終わると支払いを済ませたドレイクが声をかけた。
「実力を見てやろう。」

3人はきょとん顔になった。
ドレイクの後ろを3人はヒソヒソ言い合いながらついて歩いた。

30分くらい東に歩いた。
古びて半分崩壊した塔にツタが伸びて絡み、木の大きな重たい扉の前に立ったドレイクは軽々と鎖を引いて開けた。

中に入ると馬小屋や納屋があり、広場にはワラで作った人形が数体あった。木刀や弓矢、的などが至る所にあり、訓練所のようだ。ドレイクは広場に向かって木刀を数本投げた。3人はぼーっと見ていた。犬達は嬉しそうに黒檀の木刀の匂いを嗅いだ。

「技に頼ってばかりか?」ドレイクは木刀を一本とり、左手の小指からゆっくり握って見せた。

3人はドレイクをじっとみた。
クラウンは木刀を拾って、左手を下、右手が上、同じように握ってみせると、ドレイクは人形に向かって真っ直ぐ打ち込んだ。ドレイクは隣の人形を指して「行け!」と合図した。
クラウンは真っ直ぐ木刀を振り下ろした。パス!
「もっと腹に力を入れろ。」バシッ!クラウンは腹に平手をくらった。

ドレイクは人形に水平斬り、返して水平斬りをして見せ、ブラストにも隣の人形に合図した。
ブラストも真似て斬り込んだ。バシ!バシ!
ドレイクがもう一度、手本を見せた。
「もっと体で斬れ!もう一回だ!」
ブラストは全身全霊で打ち込んだ。
「よし!斬ったとてだ!」
ドレイクは大人気なく足をかけてブラストをこかした。
「殺す。」と言ってブラストは砂を払って起き上がった。

ドレイクは人形を5体、縦に一列にした。
「集中して、一回脱力しろ。」スノーに「行け!」と合図した。
スノーは5体の人形をなぎ倒した。

木刀で上下、左右、回転、突きの素振りをする様に言われ、スノーだけ丸太を渡されたのに、なぜか燃えていた。

ドレイクをお手本に広場で謎の剣術稽古が始まった。10分過ぎた頃。

「ドレイクー!!いるかー!」

ドレイクは崩れた壁を一瞬で駆け上がり塀の上に立った。
「ここだ。」

「東の橋が落ちたー!拠点が落とされるぞー!」

そのままドレイクは塀から飛び降りて、馬小屋に駆け込み、馬に乗って駆け出して行った。

3人はあっけに取られて、いったい何をやっているんだろう?と、わからなくなった。木刀を置いて門の外を見に行ったクラウンは立派な馬車が向かってくるのが見えた。

「ねー。来てー。可愛い馬車が来るよー。」クラウンが呼ぶと2人も門の外に出た。
「マジで?」スノーは遠くを見た。
「本当だ。なんかスゲー。」ブラストも目を凝らした。

真っ白な馬車は真っ直ぐ向かって来て、やがて止まった。
中から赤毛のセミロングヘアー、コルセットにレザーパンツを履いた女性が現れた。
「初めまして。宮廷補佐官のヴェロニカ・フォックスです。ギルドの皆様お揃いですね。従者のドレイクがいたはずですが、、。」

「どっか行っちゃいました。」
「東の橋が落ちたって誰か呼びに来たんです。」
「さっき馬で。」
「あ!w!」
3人は口々に言った。

ヴェロニカは驚き、馬車に急いで戻ろうとした。
「みなさんもお乗り下さい!」

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数分で東の橋の監視塔が見えてきた。
監視塔の見張りは矢が刺さって監視台にぶら下がっている。
門は開いたままで、入り口のそばにドレイクが乗っていった馬がいた。

「クバだわ。ドレイクの愛馬よ。」ヴェロニカは馬車から降りた。

ヴェロニカと一緒に、馬車を引いていた従者がバックラーと剣を構えて入っていく。ワッペンを重ね3人と2匹も警戒しながらヴェロニカを囲い、続いた。

まだ戦っている音がする。
監視塔の中庭の花壇に身を潜め、ヴェロニカが動くなと手を伸ばした。
よく伸びたラベンダーの中で息を飲んだ。

5人の敵兵が中庭に走ってくると、血まみれのドレイクが追いかけてきた。
ドレイクは花壇を走る敵兵に後ろからスライディングしてこかし、剣を突き刺した。立ち上がり回し斬りで1人、振り返って左右から斬りかかる敵兵をハの字に斬り、振り下ろした剣は続く敵兵に下から振り上げ斬った。
そのまま回りながら水平斬り。5人の敵兵を地面に斬り捨てた。

バサッ!花壇からヴェロニカが勢いよく立ち上がり歩いてドレイクに詰め寄った。
「ドレイク!お元気そうで何よりよ!」

ドレイクは血をペッ!と吐き出した。
「お花畑から美女がお出ましだ。」

「ギルドの皆様もお花畑からお出ましよ。」
みな、ゆっくり立ち上がった。

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白い馬車の前を走る、愛馬クバに乗ったドレイクの後ろ姿は不機嫌そうだ。
北門を入り、石畳を馬車の音が心地よく響く。
石のアーチを2つくぐり、旧市街広場で降りた。

ストリートバンドの音に胸が躍った。
マンドリン弾きのまわりに人だかりができていた。
マーケットにダンサー、シックな街灯が楕円形の大きな広場を囲んでいる。

ヴェロニカが広場から見える3階建てのホテルを指差し、滞在中は使うように手配してくれた。明日、改めて会う約束をして宿に入った。
3階の部屋はシンプルで温かみのある塗り壁に木の床、窓からはマンドリンの演奏が聞こえて、広場を眺めているうちにクラウンとブラストはマンドリン弾きのファンになった。

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次の日、白い馬車が迎えに来て、訓練所に集まった。

ヴェロニカが「もうご存知でしょうけど、国境なき騎士団のドレイク。」と、それぞれの自己紹介を形式的にやってくれた。

「目立つから白い馬車で迎えにくるな。」ドレイクは今日も無愛想だった。

「ありがとうって言いたかったのね。」ヴェロニカは冷ややかに笑った。

ヴェロニカが合図すると、荷馬車からクラゲ型のドローン、バイキングが3台真っ二つに切られた残骸とモジュールを持った従者が出て来た。マーズで見た物とそっくりだった。

「ブラストさん達にアドバイスや可能なら解析をお願いします。ギルドに相談すると、探索の腕も良く、すでにモジュールを数個回収し、解析までされたと伺いました。」

「ブラストでいいですよ。探索はクラウンが得意です。簡単な解析でよければ、一度してるので。」と、言ってブラストはディスプレイを出し、過去ログを検索して、モジュールにコードをかざした。

ー丘を越え、地上の星よ。誇り高き惑星を追って、希望の光をつかむためー
ディスプレイを読んだドレイクはがっかりした。
「これがなんだ?ただの詩の引用だな。」

「なんの詩ですか?」ブラストが聞いた。

「国境なき騎士団に捧ぐバラッドだ。」ドレイクは腕組みした。

「無礼な隣国の侵略や略奪から守ってもらった市民や行商人、音楽旅団が語り継いでいる曲や歌のことです。」ヴェロニカが説明してくれた。

「昨日も広場でやってた、あれだ。」ドレイクに言われて、みなピンときた。

「んー、国内か隣国か。そもそも、モジュールは無人探査機やクラゲ型のドローンを戦闘兵器に変えてしまう物です。」

「専門家じゃないんだな。」ドレイクは無愛想に言った。

「オレたちはマーズでもこれを発見して、その前はたまたま近くにいて回収された物を届けただけです。一回、船に戻って解析してくる。」ブラストは立ち上がった。

続けてヴェロニカに質問した。
「この国にギルドはないし、テクノロジー規制がありましたよね?門からはバイクすら通れない。どういう監視体制なんですか?」

「衛兵による保安検査と金属探知機、後は役場に行けば中身をスキャンする機械があるわ。」ヴェロニカは説明した。

「外から持ち込まれてる感じですかね。」

「たぶん。城外で発見されたのは間違いないわ。」

「巡回だ。残りの小僧は誰の仕業か探りにでるぞ。」ドレイクは歩き出した。

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馬車で駐車場まで戻り、ヴェロニカは王宮に帰って行った。
スノーはブラストとゴーストを乗せてベイサイド・ステーションに向かって走りだした。

「馬に乗れ。」ドレイクはクラウンに指示した。

「いい!僕、自分のに乗る。」クラウンは断った。

「ちっちゃい犬にまたがるのか?はっ!」ドレイクは短く息を吐き出した。

「ナイトメアー。」クラウンは無視して馬を呼んだ。

漆黒の馬がドレイクの真横を走り、クラウンはチョコを抱えギルド装備のストールを出した。チョコを斜めがけし、体の前に担いだ。

「はっ!じゃ行くぞ。」ドレイクは馬で走り出した。

ドレイクとクラウンは昨日行った東の監視塔のさらに東に向かった。
監視塔の兵士は旗を振ってくれた。
クラウンも手を振った。
落とされた橋は復興作業していた。
川面はキラキラ輝き、浅瀬を馬でゆっくり渡った。

小さな町があり、白い花が満開だった。
またパブに寄ろうとするので「おじさん待って。」警告が出る前にクラウンは呼び止めた。

「めんどくせーな。ほら。」
ドレイクは店先のベンチを足で引き寄せ、角にブーツを乗せ、クラウンに足で差し出した。

ドレイクは情報収集に来たようだが、東の監視塔での戦の話がメインだった。
「お店の人にモジュールの話を聞かなくていいの?」しびれを切らしたクラウンは小声で言った。

「この辺りにそんなの知ったやつはいない。」ドレイクは聞こうともしなかった。

町の入り口から、巡回兵たちが来た。
1人の兵士が通り際に「ドレイク!お前の子か?」からかった。
「そうだ。」ドレイクは即答した。
わはは!巡回兵たちは笑った。
「ちがう。」クラウンは否定したが笑い声でかき消された。

「国境なき騎士団はみなデザインベビーで精鋭の集まりなんだ。女にはモテるぞ。」ドレイクは自慢した。

「変な冗談ばっかり。」クラウンは顔を逸らした。

「ビゴス食おう。」ドレイクが注文した。

黙って2人はビゴスを食べた。

⭐️

続く。

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