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トレモロ 1巻 3章 4話

ブッチがジュピターステーションのドックに納船した。
「またなんか面白いパーツみつけたら、俺が組んでやる。持って来いよ!」

お礼を言って、ブッチと握手し、みなサイプレス号に元気に乗り込んだ。

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サイプレス号、船内。

「ブラスト、スノー、早くなったし、ここから近いクエスト行かない?」クラウンが誘った。

「シシッ!近場ならグリーゼ357dなら4日で着くな。」新しくなったサイプレス号の操縦席に座ったスノーは嬉しそうだ。

「サイプレス号、グリーゼ357dで推奨クエストってある?」ブラストが聞いた。

ーグリーゼ357d、ラグーナ地域、水の街、カピラリイで人探しのクエストがあります。生きて連れ戻せば特別報酬です。現在、グリーゼ357dは冬季です。向かいますか?ー

3人は目を合わせてうなずいた。

「サイプレス号、カピラリイに出航〜。」
スノーが操縦席で手を上げた。

クラウンとブラストも手を上げた。
「出航〜!」

サイプレス号は銀河に飛び立った。

次のクエストについてクラウンとブラストは話し出した。

「フレイヤってどこまで探せるんだろ?」
ブラストの質問にクラウンはアビリティ画面を出した。
「うーん、特に載ってないね。前にアルバ山の上から火山洞窟にいたエルフを見つけたから、チョコのイカロスより探索範囲は広いかも。」

「カピラリイ、好きな街なんだよな。たしか観測所に望遠鏡があったから、フレイヤで探したら、楽勝じゃね?」

「ブラスト天才!」

「ホテルどこにする?」

「シシッ!ステーションから近い所が便利だぞ。」

「僕、買い物したい!」

3人共、浮き足立った。

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4日後。

ーまもなくラグーナ・ステーションに到着ですー

クラウンは窓に張り付いている。
「うわっ!水の上にステーションがある。うわっ!全部茶色の屋根ー!カッコイイー。あれは?ブラストあれは?」

「あれ?教会だったかなー。落ち着け。クラウン。」

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ラグーナ・ステーションのドックに降りた。
ステーション広場から大運河が広がっている。ウッドデッキから6人乗りのゴンドラがでている。優しい運河の揺れが岸に当たる音が聞こえる。

「どちらまで?」

「有翼の獅子広場まで。」

「あの、セレナーデついてますか?」

「ごめんね。僕は歌わないんだ。」

「ブラスト、セレナーデって何?」

「オレもまだ本物を聞いた事ないんだ。」

「シシッ!風が気持ちいいな〜。久しぶりに夕暮れみた。」

スノーとゴーストはゴロンと寝っ転がった。
ゆっくりゴンドラに揺られて対岸に向かった。

対岸に近づくと、夕日が美しい街並みと時計台を黄金に染めた。

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有翼の獅子広場から歩いて2分の所にホテルはあった。
ホテルのスタッフはチョコとゴーストにも親切だった。
部屋に案内され、素敵なインテリアに3人は「わーお。」ため息まじりに感動した。

窓から広場が見え、柱の上に乗った有翼の獅子が凛々しく見える。

「明日、買い物だっけ?」

「クラウン、違う。明日は依頼人に会う日。」

「でも街中は通るよね?」

「シシッ!まあな。ご飯はピッツァにしようぜ〜。」

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翌朝。光が青い壁を美しく照らす。

「ピッツァは飲み物だね。僕、また食べたい。」

「ティラミスも最高だった。」

「シシッ!話聞きに行くぞ!」

3人と2匹は街に出た。

橋を渡って、市場を通り、教会の広場から階段を3階降り『あったりなかったり通り』に着いた。

マップのマーキングポイントを見ると、入り口にピンクの花を飾ってある目的の家の前にいた。

ブラストがチャイムを押した。
「ギルドから来ました。」

中から男性の声がした。
「ギルドのみなさん、お入り下さい。あ!わんちゃんもいる。探しに来てくれて、頼もしいよ。主夫のマーサーです。どうぞ、かけて。今、お茶を持ってきますね。」

ミントのお茶とマーサーが焼いたカップケーキが出てきた。
クラウンとスノーはカップケーキをいくつも食べるので、ブラストが話を聞く形になった。

「マーサーさんの探したい人はいつからいないんですか?」

マーサーはソファーの横の棚から貝殻の飾りがついた写真立てを持ってきた。写真に写る半魚の女性はネオンブルーに美しく輝いていた。

「僕の妻のウォウォラエです。機動救難士をしています。2週間前から帰ってこないんです。」

「オレらが来るのにさらに4、5日かかってるから、心配ですね。こんな事は初めてですか?」

「はい。いつもは1週間、船に乗って帰ってくると数日休みなのに、2週間帰って来ないし、連絡もないんです。心配になって妻の会社に聞いてみても、今いないとか、今勤務中とか家族なのに取り合ってくれないんです。今朝もダメでした。」

「ギルドなら何か話を聞けるかも知れません。調べてみますね。」

最後の一個のカップケーキを食べようとするクラウンをブラストが睨んだ。

「あ、はい。」クラウンが手を引っ込めると、マーサーさんの不安そうな顔が笑顔になった。

「まだありますよ。落ち着かなくていっぱい焼いてしまいました。たくさん食べてくれて嬉しいよ。それと妻に会ったらこれを。頼みます。」包みを渡された。

結局、マーサーさんはカップケーキを一つも食べなかった。
お土産にカップケーキを頂くと、口の周りにカスをつけたままクラウンは固い握手をした。

「よーし!ウォウォラエさんの会社にまずは急ごう!」クラウンは歩き出した。

「ちゃんと話は聞いてたのね。カップケーキ食べ過ぎ。」ブラストはつっこんだ。

ディスプレイを出したスノーが、桟橋近くにあるwol(水中保安警備会社ホワイト・オーロラ・ラメ)にマーキングポイントをつけた。

細い路地が多く迷いやす街並み、チョコのプリズムを追いかけた。

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wolに着くとスノーが呼び出しチャイムを押した。
ビショビショに濡れた半魚の男が現れた。上半身は肩から斜めにベルト、腰にもベルト。下半身は白くオーロラとラメに輝き足先は2つに分かれペタペタ音を立てて歩いてきた。足の側面の白く透けたヒレ、青いウェーブヘアからポタポタ水が垂れている。

「お待たせしました。ご用件は?」

「ギルドのスノーです。急務でウォウォラエさんにお会いしたいのですが、今どちらにいらっしゃいますか?」

「ちょっと確認しますね。」カウンターデスクのpcを操作しながら半魚の男は答えた。「あれ?ラグーナ地域に戻って来てる?ちょっと連絡してみますね。」ロビーにコール音が響く。待てど呼び出しには応じなかった。
「今、潜水中?取り込み中かな?任務中なので、待っててもらうか、ギルドの方なら場所教えるので、直接行ってもらっていいですか?」

「ああ。助かるよ。」スノーはマップにマーキングポイントをつけてもらい出発した。

桟橋近くに港があり、ゴンドラや潜水艇テスが停泊している。
休憩中と看板が出ていた。

「シー。あと1時間はあるな。」スノーがため息をついた。

対岸を見ていたブラストが気づいた。
「あ!観測所の定期船は自動船だから休憩ないよ。待ち時間に行かない?まだウォウォラエさんの声を聞いたわけじゃないし、念の為フレイヤで。」

「僕も試してみたい!」

「シシッ!ちょうどこっちに船が来てるし行くか。」

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定期船はクリアなドーム型の開放感のある窓があった。
対岸のカピラリイ観測所は木々に囲まれた離島に浮かぶ巨大なドーム型で、観光地にもなっている。

階段を上がって行き、中に入るとドーム内は薄暗く、天井にグリーゼ357dのマップが映し出されていた。望遠鏡のクレーンに行列はなく、観光客もまばらだった。

クラウンは望遠鏡の係員に天井が焦げないか心配して確認すると、無事に許可が降りた。クラウンはドームの中央、クレーンの先端でフレイヤを呼び出すと、炎の女神は望遠鏡の周りを飛び回った。優雅な姿に観光客が拍手した。

3人はディスプレイでマップを見るとグリーゼ357dのマップに2ヶ所、点滅が現れた。

クラウンはマップを見ながら驚いた。
「2ヶ所?点滅?ラグーナ地域のカピラリイの地下と乾燥地帯、サーパスサバナ地域。」

やがて乾燥地帯の方の点滅は消えた。
フレイヤも消え、もう一度観光客から拍手が起こった。
照れながらクレーンから降りてくると、2人も不思議そうな顔をしていた。

「シシッ!近くの点滅から行ってみよう!」

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桟橋の港に戻ってくると営業再開していた。
スノーは潜水艇テスをレンタルした。

船内は3人と2匹が入っても十分な広さがあった。
スノーは操縦席に座りマップを確認してゆっくり潜水を始めた。
カピラリイの街並みに沿って進む。

「スゲー!初めてテスに乗ったー。水中にも街あるー。あ!流氷!」

「ブラスト見て!水中のアパートの人が手を振ってる!おーい!」手を振ってクラウンも答えた。

「もうすぐ雨季が近いからな。ん?もうすぐだな。あったりなかったり通りの近くだ。家のすぐそばじゃねーか。」

潜水艇テスは通りの真下にあるアーチ広場についた。小魚の群れが通り抜けた。柱やアーチ、タイル床の装飾がライトに照らされ水中の街並みも綺麗だ。

「シシッ!もうちょい下りるか。」

広場の下の橋下にくるとマーキングポイントに到着した。
下の方は氷の塊や流氷がゆっくり流れている。
旋回し氷の塊にライトが当たると、半魚の女が氷漬けになっていた。

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続く。

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