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トレモロ 1巻 3章 5話

「ぎゃーー!!!」
3人はビックリして叫び、犬達も声に驚き船内はパニックになった。

「wol (水中保安警備会社ホワイト・オーロラ・ラメ)に連絡だ。」
慌ててスノーが通報した。

落ち着いてきたブラストはドーム状のフロントガラスまで近づき、氷漬けの半魚の女を見た。「ウォウォラエさんじゃない。彼女はネオンブルーだった。」

クラウンは両脇に犬を抱え。時々、氷漬けの半魚を見ては「やだ、顔怖い。もう上にあがろ。」など弱気になった。

「シシッ!しょうがねーな。浮上するぞ。」

水面に浮かぶと、ヘリコプターからwolの救難士たちが次々と降下して飛び込んだ。

「カッコイイー!!」
クラウンとブラストは、テスのフロントガラスに張り付いて見上げた。

「あ!マーサーさんに教えてあげよう。」クラウンはメッセージをマーサーに送った。「マーサーさん、家の近くで発見されたのは奥さんじゃありません。気を落とさないでね。」

すぐに返事が帰って来た。
「知らせてくれてありがとう。今、慌てて見に来た所です。封鎖されてました。違ってよかったけど、他の方の不幸を喜んではいけないね。妻の無事を祈ってるよ。」

「じゃあ、サーパスサバナの方だったのかな?探しに行ってみない?」クラウンがスノーに聞くと、スノーにwolからメッセージが入った。
「ご苦労様です。昼間に会ったメダカです。このまま、こちらで引き取ります。後ほどギルドに報告もさせて頂きます。ありがとうございました。」

「よし!オレらはクエストに戻ろう。」

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水中のカピラリイを北上し、海に出ると水上に浮かんだ。

「どうしたの?」

「シシッ!潜水艇テスは変形して飛べるんだぞ。」

「やった!ここまで来たら飛んだ方が早そうだね。」ブラストが身を乗り出した。

スノーはブラストとグータッチした。
上下にあった翼は左右になった。
海面ギリギリを西に向けて飛び立った。

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カップケーキを食べるクラウンの口元に犬達の鼻はギリギリまで近づいた。
「食べづらいんだけど。はは。」

「見えて来たぞ。サーパスサバナ地域の東側だったな。まだ冬季だから湖になってないな。」

乾いた大地に草原、山が見え雄大な自然が広がっていた。

マップを見ながらスノーは迷っていた。

「海岸沿いなのか?草原の下?山の地下?一回このまま潜水するぞ。」

少し潜っただけで、光を失った。マップのマーキングポイントに近づくと、岩壁が肉眼でも見えてきた。

「やっぱ陸からか。」潜水艇がライトでマーキングポイント方向を照らすと、岸壁に洞穴が開いていた。奥は真っ暗だ。

「洞穴があったって事は入るって事だよね?」おびえるクラウン。

「まあ、狭いと進めないから、行ける所までな。」

ゆっくり海底洞穴に入っていった。
「さすがに緊張するな。」ブラストが振り返ると、船の後ろから口を開けたエイリアンが追いかけて来た。
「うわー!」

前を見ていたクラウンもエイリアンを見て叫んだ。
「うわー!」

「やべ!」スノーは旋回して入り口が微かに明るくなっている方へ向かった。

クラウンとブラストは抱きついて、潜水艇の壁をドン!ドン!と体当たりしてくる音にビクビクした。

海底洞穴を出てもエイリアンの群れは潜水艇めがけて襲ってくる。逃げきれないと覚悟したスノーは救難信号を出した。

「こいつらワラスボ・エイリアンか?やっかいだな。今、使えるのってゴーストのアビリティくらいだよな。」スノーは考え込んだ。

「僕、スローモーションでエイリアン見たくない〜。」クラウンは嫌がった。

「大丈夫。テスならこれくらいの衝撃耐えられる。多分。」ブラストはクラウンを慰めた。

浮上する潜水艇を抑え込むようにワラスボ・エイリアンはまとわりつき、船はドン!ドン!壁を叩かれながら海底に引きずり込まれて行く。

その時、スポットライトが当たり、ワラスボ・エイリアンがガラス窓から離れて逃げて行く。

「来た!救助だ!」スノーが指差した。

wolの潜水艇が電流を放ちながら、エイリアンの群れを蹴散らした。
潜水士が出てきてテスにフックをかけて引き上げてくれた。ガラス越しに、潜水士は大丈夫?のサインを出し、みなサインを返して喜んだ。

海上に上がるとボートに乗せられ岸についた。
潜水ヘルメットを取るとピンクのモヒカンの半魚の男が現れた。

「潜水士のキティです。君たち無事で良かったよー。雨季が近いとワラスボ・エイリアンが大発生するんだわ。」

「キティさん、ありがとうございます。あの、海底洞穴の先ってどこに出ますか?」ディスプレイを出してクラウンが聞いた。

「この辺かな?下からはやめた方がいい。ワラスボ・エイリアンでいっぱいになってるから。雨季が近いと海底洞穴の水位もばあーって上がってくるから気をつけて。もう半分くらい水没してるんじゃないかな?そんで歩いて行ける距離じゃないからね。真っ直ぐ山の方に3kmくらい行くとピグミージェルボアの牧場があるからレンタルするのをお勧めするよ!」

キティは潜水艇テスをレッカーして仕事に戻って行った。

キティにマーキングポイントをつけてもらい、 3人はお礼を言って、牧場を目指して歩き出した。

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3人は草をちぎって振りながら歩いた。

だんだん地面の緑が濃くなり、見渡すとフワフワの丸い生き物がいた。
柵を抜けて進むと、丸いフワフワの体にくの字に曲がった足、長い尻尾の先は黒い毛が生えている。走ったり、ジャンプしたり、集まって和んでいる姿が見えた。

「逃げないねー。カワイイ!ハムスターに似てない?」クラウンは和んだ。

「ウサギじゃね?あっちの足はやーい!」ブラストは柵の周りを走る姿を目で追いかけた。

「キティが言ってたピグミージェルボアってこれじゃねーか?」スノーが遠くの建物を見ながら言った。

柵沿いを歩くと納屋が見えてきた。
クラウンの周りにフワフワの生き物が集まってきて匂いを嗅いでいる。

「あ!カップケーキだ。ははっ。カワイイー!」クラウンは集まる生き物をなでて幸せそうだ。

「ちょっとー!きみたちー!勝手に中に入っちゃだめでしょー。」

サングラスをかけた160cmくらいのグレーの毛色のチンチラがふりふり小走りで近寄って来て、柵の外に追い出した。

「すみません!」3人と2匹は慌てて柵をでた。

「入場券とレンタル券とおやつを買ってね。あと勝手なおやつをあげちゃだめです。体がデリケートなんです。券売機はパラソルの下ね。」

3人は言われた通りパラソルの下で3人分券を買った。
「チョコとゴーストの分はどうやって買うんだろ?乗れるのかな?」クラウンが振り返った。

「シシッ!聞いてみよう。チンチラさーん!犬達は?」スノーは大声で聞いた。

「そんな聞き方ある?」ブラストが呆れた顔をした。

喋りながらふりふり小走りで走って来た。

「あのねー!荷物用のバスケットがーあるからーそれ2個レンタル券買って。あとチンチラはまだ小さかった時の先祖の呼び名で、僕たちはジージョ種。妹はカピラリイでお店やってるから寄ってあげて。」

クラウンがバスケットのレンタルチケットを2枚買ってジージョに渡した。

「準備するからお待ちくださーい。」小走りで店に戻っていった。

しばらくすると支度ができたジージョが呼びにきた。

「おまちどうさまー。はい、わんちゃん達はこれに乗って。みなさんお並びくださいー。あなたは間に入って。あなたはもうちょっとこちらへ。」

「撮りますよー。」パシャ。パネルが光った。
「はい、転送しました。ログでいつでも見れますー。いってらっしゃいませー。」

「一緒に撮りたかったなー。一緒にいいですか?」クラウンがジージョの方を見た。

「僕?ルイージとですか?」

「ルイージさんって言うんだ。僕、クラウンです。」

「僕、初めてこの星に来たんです。最高です。」

「それは光栄です。」

ブラストがディスプレイを構えて記念撮影した。

「クラウンとルイージさんに送ったよ。」

ルイージが柵を開けて見送ってくれた。
最初は揺れたが、スピードが出るとオープンカーに乗っているような心地良さがあった。

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スノーとバスケットに乗ったゴーストが先頭を行き、次にブラスト、そしてクラウンとバスケットに乗ったチョコが後を着いていく。

草原の先に小高い丘と小さい山が見えた。どこまでも乾いた草原が続いている。

近づくと段々の丘が重なり、所々、水溜りもあった。ピグミージェルボアはS字に器用に登って行く。

小高い丘の上に立つと、さらに緩やかに勾配した草原が広がっていた。
小さい山の周りには馬の群れがいくつか草を食べに来ていた。

「なんて雄大な景色なんだー。」クラウンは大自然に感動した。

山の麓に着き、ピグミージェルボアから降りた。
チョコのイカロスを使うと、山と海が繋がった洞穴にマーキングポイントが1つ点いた。慌てて中に入って行き、坂道を下ると海の匂いがした。いくつか分かれ道になっていて、チョコのプリズムを頼りに進むと海の匂いが濃くなり水没した道が現れた。

相談しようと思った時、洞穴内が急に臭くなった。今まで嗅いだ事のない匂いだ。

「ガガーー!!」どすどす地響きが聞こえてきた。

どすん、どすん、隣の洞穴から、身長の4倍はある巨人が入り口に向かって走っていった。

あまりの匂いに3人は咳き込み、巨人が振り返って丸太のような棍棒を振り回して向かって来た。

「ガガー!!」

3人はワッペンをぶつけあった。

「ショックウェーブ!逃げろ!」

巨人は後ろによろけて壁にずり落ちた。
その間に隙間から逃げ出した。

後ろから巨人がむきになって追いかけて来て、棍棒が空をきった風に背中を押された。

広い空洞に巨人の声が響く。
「バーー!!」

「シェル!」

スノーが振り返り体当たりしたが、巨人は手ではらい避けた。
スノーは壁に投げ飛ばされ、床に落ちた。
もう一度、足を狙って突撃していった。
足を振って巨人はスノーを振り飛ばした。
スノーは立ち上がり、巨人の足の間をスライディングですり抜けた。
「クラウン来い!」
スノーが低い姿勢で構えた。
クラウンが思いっきり走って、スノーに飛び込んだ。スノーがトスを上げた。
舞い上がったクラウンは巨人の顔面にロージーを押し当てた。足にタックルしたスノーが巨人を後ろによろめかせ、クラウンはアイアンクローで床に叩きつけた。

巨人が顔を押さえながら仰向けで足をバタつかせ叫んでいる。
洞窟内で反響した叫びは体に響いて恐怖を感じた。

入り口側の広間まで来た。

「フレイヤ!ウォウォラエさんを探して!」

出現したフレイヤは答えた。「私は水中は探せない。時間稼ぎをしてやろう。」

目を擦り、頭を振りながら巨人が立ち上がって来た。
フレイヤが火の玉を打ち込み、手を交差させ巨人は嫌がり、立ち止まった。

表に逃げたクラウン達の目の前に、襲われた馬達が苦しそうに倒れていた。

少し離れた所にピグミージェルボアも避難していた。
全速力でみな走ったが、フレイヤの時間ぎれと共に巨人はものすごい速さで追いかけて来た。火のついた体をバシバシ叩きながら迫ってきた。ピグミージェルボア達、馬達も巨人が向かって来るので逃げまどった。

追いつかれそうになったブラストはショックウェーブを放つが、巨人は少しよろめくだけで、またすぐに追いつかれた。

棍棒を投げて来て、チョコとゴーストは斜めに走って避け、徐々にクラウンとスノーに近づいた時、スノーの合図で一斉にジャンプした。4つの火の玉となって巨人に激突した。
ボムッ!!

巨人はゴロゴロと後ろの林に転がり、燃え移る火を払いながら、その辺に散らばった倒木や岩を投げて来た。逃げ遅れた白い馬は転がる巨人の体に飛ばされ、黒い馬は捕まれた。巨人が立ち上がり、クラウン達めがけて黒い馬を投げようと空に振りかざした時、巨人は苦しみだし、掴まれた黒い馬はいなないた。「ヒヒーン!」「ガーガーガーガー!」巨人は何かに苦しみ、うわごとを言いながらよろけ、クラウン達も立ち上がり後ろに下がった。巨人は力なく膝をついて、つかんでいた黒い馬を地面に落とした。横に倒れた黒い馬は立ちあがろうと必死に前足で地面をかいている。
クラウンが黒い馬に駆け寄り、立ち上がれるように後ろから押し出した。
そこに巨人が倒れて来て、間一髪クラウンと一緒に黒い馬はその場から走り去った。

動かなくなった巨人に、スノーとゴーストは近づきフリーズを使った。
ブラストが怯えて逃げれなかったピグミージェルボアを連れて来て、バスケットを縛っていたロープを解き、巨人の手足を縛った。
フリーズが消えても巨人はうめくだけで動く様子はなかった。

スノーが慌てて声を上げた。「洞穴に戻るぞ!」
黒い馬をなでて別れようとした時、黒い馬は銀の涙を流し、地面に落ちると足で踏み、シルバーの蹄鉄になった。鼻先でクラウンに差し出すと、林の中に走り去ってしまった。クラウンは気持ちが伝わった気がした。蹄鉄をポケットに入れて走り出した。

洞穴に戻ると潮が引いていて、先ほど行き止まりだった下り坂の先に影が見えた。
走って向かうとネオンブルーの半魚の女が傷だらけになって倒れていた。
スノーが仰向けに寝かせ、意識確認をした。
「息はしてる。起きてくださーい。」
ブラストがライトを照らして呼びかけた。
「ウォウォラエさーん、ウォウォラエさーん。」

突然、ウォウォラエが目を覚まし、咳き込んだ。
「マーサーさんの依頼で探しに来ました。」
背中を摩りながらスノーが話かけた。

衰弱しきったウォウォラエは力なく話した。
「海はエイリアン、外にギガスが。」

スノーは摩りながら優しく話しかけた。
「もう大丈夫です。救助を呼びました。」

抱きかかえて、洞穴をでるとピグミージェルボアに乗せた。
スノーがwolから連絡を受け取り、今すぐここを離れて、ルイージの牧場に戻るように指示された。

1人あぶれるからとブラストが残ろうとした時、黒い馬が現れた。
「僕、この馬に乗せてもらうよ。」クラウンはそう言って近づいて、鞍に足をかけた。乗ってみると、とても心地よくフィットした。

「馬になつかれたんだな。さっき鞍ついてたっけ?シシッ!」スノーは不思議に思った。

夕日の草原を走った。

⭐️

ルイージの牧場に救助隊も駆けつけた。
担架が飛行機に乗るためにスノーの前を通った。
「あ!いけねーウォウォラエさん、これ。」包みを渡すとウォウォラエは涙を流して喜んだ。
「船で働く私を元気づけてくれるレモンキャンディーよ。残りはみんなで食べて。見つけてくれてありがとう。」

「あ!これも食べますか?」クラウンが潰れたカップケーキを出すと、また涙を流した。クラウンは渡し、手を振った。「マーサーさんに連絡してね。」「ええ、飛行機で連絡するわ。」ウォウォラエはカピラリイの病院に運ばれて行った。

飛行機を見送って、レモンキャンディーを頬張ると、口の中がキュ!っとなって元気が出た。「ホントだ。甘酸っぱくて美味しー!」クラウンはレモンキャンディにハマった。

まったりしているとルイージが小走りで来た。「あの、ナイトメア誰のです?」黒い馬を指した。

「え?えーー!」クラウンが驚いた。

⭐️

続く。

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