サイプレス号の下層で3人と2匹は泥のように眠った。
クラウンは珍しく一番に目が覚めた。
久しぶりに部屋に戻ってみるとほっとした。
鏡に写る姿を見て、少し背が大きくなっている事に気づいた。
「マザー。ただいま。僕、背が伸びたかな?」
ーはい。大きくなりました。頑張って成長しましたねー
ガッツポーズをして喜ぶクラウン。
船内のテロップが流れ続け、眺めると今まであった事を思い出させてくれた。
ーmcsからお届け物です。トロフィーが追加されましたー
小包を開けてみるとアルバ山の模型にメモが付いていた。
「アルバ山、奪還おめでとう!感謝を込めて。 フリー」
クラウンは微笑んで部屋の棚に飾った。
シャトルに戻るとスノーも同じアルバ山の模型を棚に飾っていて、2人とも笑った。
みなで食事をしているとシャトルにテロップが流れた。
ー水素工場のガリレオ氏から送金とメッセージです。「機密事項の為、明細証は出せませんが、お一人につき5000クレジット送ります。お受け取り下さい。ありがとうございました。」ー
3人はスプーンを落とした。
ーガリレオ氏よりジュピターラビリンス特製のエンジンパーツが3つ届きましたー
3人はハイタッチで喜んだ。
⭐️
ジュピターステーションのギルド。
広い部屋にポッドが等間隔で斜めに並んでいる。
3人はそれぞれポッドに入った。
水素工場、ジュピターラビリンスの廃品回収、工員の救助の特別報酬、ギルドのワッペン回収、クラウンは全ての報酬を受け取った。
全身が金色に2連続光りクラウンはレベル10になった。
「シシッ!パーツ屋に行けるー!」スノーはテンションが上がった。
スノーが運転するジュピターステーション内専用パークカートに乗ってパーツ屋「ヘイスティー」に向かった。
店内は所狭しと商品を陳列しており、スノーは体を斜めにしてズイズイ奥に進んだ。クラウンは後をついて行くが、スノーはどんどん曲がりすぐ姿が見えなくなった。振り返ると棚の隙間から、ブラストが見えた。入口の商品にすぐつかまり買い物モードになっていた。
スノーの声がする方に進むと、無精髭に黒髪のオールバック、両腕にタトゥの入った男と親しげに話していた。
「よう!スノー!今日はどうすんだ?」
「見てくれよ、これ。」
「あれお前、ギルドになったの?」
ディスプレイをみると無精髭の男は歓声を上げた。
「おおーう!すごいのゲットしたね。何倍も早くなるぞ!」
「ワリぃけど、友達の分も一緒にやってくんない?」
「そりゃーお前の頼みなら、友達価格でいーけど、まあまあ高くつくぞ?」
「大丈夫、みんな払えるくらい持ってる。」
「あんなに若くてか?」
無精髭の男がクラウンを指差すと、クラウンはお辞儀した。
「クラウン、ブッチだ。チューニングがハンパなくうまい!」
「よろしくお願いします。」
「おう。任せな。数日あずからせてくれな。」
「スノー、その間ウチに泊まってくだろ?」
「あ、いい?もう1人いるから3部屋頼むよ。」
ガサガサー。
買い物カゴをパーツでいっぱいにしたブラストが現れた。
「レジどこですか?」
「ばあちゃん、レジ。」ブッチが上を向いて声をかけると、天井から正座したままの老婦人が降りてきて、スキャンすると380クレジットと表示された。
「早。」ブラストは、いつスキャンしたのか?何か不思議な力なのか?ブッチの祖母の周りをキョロキョロみた。
スノーはブッチと軽く打合せし「後で顔出すわ。」と、手を振った。
「見に行ってもいいですか?」ブラストは興味深々だ。
ブッチも歓迎した。「おう。パーツもいっぱい買ってくれたから、同時にやっちゃおう。」
「僕はチョコと部屋でゲームしたり休んでる。」
スノーに連れられて、クラウンは店をでた。ブッチの隣の店もブッチの店だった。
「スペースパラダイスカフェ・ジュピター。すぐ隣じゃん。」
「シシッ!個室になってるから空いてる部屋使っていいぞ。」
スノーとクラウンはジュピターステーションのドックまで犬達を迎えに行き、スノーはブッチの所へ、クラウンはブッチの店の部屋に向かった。
⭐️
廊下は静かだった。
クラウンはペットスペースのあるシングルタイプを選んだ。
部屋はいたって普通、モニターにイス、シングルベッド、ペットスペース、シャワーとトイレがあり、飲み物を注文するとトロピカルジュースがスペースシャトルのミニチュアに乗って運ばれてくる。
チョコはペットスペースで丸まって寝始めた。
久しぶりにクラウンはゲームに没頭した。
数時間後。
「休憩〜。」
ベッドに倒れ込むとチョコが飛び乗ってきた。
まったりした時間が流れた。
モニターにテロップが流れた。
ーイブさんからメッセージです。「ギルドのイブです。いきなりですみません。明日、ジュピターステーションで調達のクエストが終わるので、その後会ってお話できませんか?」ー
クラウンはベッドから飛び起きた。
どうしよう?部屋中見回しても飲みかけのトロピカルジュースしかなかった。
「ギルドのクラウンです。いいですよ。ギルドで待ってたらいいかな?送信。」
心臓がバクバクしている。
すぐ返信がきた。
ーイブさんからメッセージです。「クラウンさんありがとうございます!ドックで待ち合わせして私の部屋でお話ししませんか?その後ご飯も行きませんか?欲張りですか?」
「いや、大丈夫。明日、何時にしますか?送信。」
「10時には終わる予定なので、11時はどうですか?」
「わかった。明日ね。送信。」
「うわー。どうしようー。」
声に出してうろたえているとブラストからのコールが鳴った。
「クラウンー、みんなでご飯食べない?」
「わ、行く行く。今どこ?」
「ブッチさんのガレージでBBQするから、チョコも連れて来てー。場所チェックしたー。」
「は、あ、うん。マップのチェックの所ね。」
「寝てたか?待ってるぞー。」
クラウンはオロオロしながら合流した。
ブッチの店の裏は広いスペースの奥に工場、重機、ガレージがあり、ガレージ前に炎が見えた。
ブッチは肉の塊に遠くから塩を投げて豪快に料理していた。
スノーたちが手を振って合図した。
記憶がないままクラウンは席についた。
「どした?まだ緊張してんのか?ブッチはこう見えていい人だぞ。」心配そうにスノーが話しかけた。
「おい!スノー!」ブッチは肉をひっくり返しながら煙たそうに言った。
「違うんだ。女の子に初めて誘われたんだ。」クラウンはもごもご言った。
「えーー!!」ブラスト、スノー、ブッチの声が揃った。
クラウンがディスプレイを出してログを見せた。
「ホントだ。」ブラストがクラウンの顔を見たら、嬉しそうではなく微妙な表情をしていた。
「僕、明日どうしたらいいんだろう。」
「声ちっさ、しかも簡潔なやりとり。シシッ!明日、初デートか。」
「皿、出しな。こりゃモテないやつのなんだ?その、アレだな。」ブッチが焼きたてのステーキを差し出し、クラウンは皿に乗せてもらった。
「シシッ!ブラスト、こんな機能ギルドにあったんだな。」スノーはステーキにかぶりついた。
「機能としてはあるけど、知り合い以外でいきなりってないな。オレは一回もないね。」ブラストがディスプレイを出しギルドのメンバーリストをチェックし始めた。「ギルドのイブちゃんね。あ!いた!可愛いーー。調達がんばります!だってー。いいなー。」
「ほんとだ、、カワイイ。」クラウンはのぞき込んだ。幼い顔の少女はクラウンと同じ歳。明日、ジュピターステーション到着予定となっていた。
「シシッ!オレも自己紹介書こうかな。」
「モロクリアンの戦士です!寝相が悪いです。って?」ブッチがくしゃっと笑って言った。
「ブッチもういっかい言ったらお前の部屋で寝るぞ。」
「聞いて、僕どうしたらいいか教えて。」
3人が少し黙って考えた。
焚き火のパチパチする音がゆっくり流れた。
「モテるには、豪快にご飯を食べるんだ!」スノーが閃いた顔で言った。
「明日、女の子の部屋に行くんだから、いい匂いで行けよ。後は女の子の話を聞いてやればいいのさ。相づちもしろよ。」ブッチが真面目に答えた。
「ブラストも何か言ってやれ!」スノーがブラストに言うと、ブラストは力強く言った。「自信もてよ!」
「自信ないよ〜!」情けない声でクラウンは笑い、みなも笑った。
BBQと焚き火を楽しみ、解散する時、ブッチが祖母にコールした。
「ばあちゃん、クラウンの部屋にとびきりいい香りのシャンプーセット置いてやってくれ。」ブッチはクラウンにウインクした。
「シシッ!オレ達にもくれよ。」
「お前らは明日もここだろ?いい匂いしなくていいんだよ。」ブッチは半目を下げて言った。
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「回って、OK!」ブラストのお見立てが終わり、デート服にクラウンは着替えた。
ドックで待ってると11時にコールが鳴った。
「クラウンさん準備ができたので203に来て下さい。待ってます。」
「うん。わかった。今から行くね。」
ドキドキしながら203ドックに入ると、体がフワーっと浮いた。
扉がスイン。
開くと小柄な女の子がフワッとやってきた。
ゴーストのフリーズをかけられたみたいにゆっくりに見えた。
「初めまして、イブです。今日は来てくれてありがとう。」
「初めまして、クラウンです。誘ってくれてありがとう。」
笑顔で振り返りながら前を飛ぶイブについて行き、部屋に入ると無重力は消えた。
「ソファーにどうぞ。」
女の子の部屋だ。いい香りもする。
「ソーダ飲みますか?」
「うん。」クラウンは部屋をキョロキョロ見てはソーダを少しずつ飲んだ。
イブから話し始めた。
「同い年なのにすごいな。って思って、話がしたくなってメッセージ送りました。迷惑じゃなかったですか?」
「ぜんぜんっ。迷惑じゃないよ。あと、すごくもないよ。」
「だってレベル二桁でしょ?私なんてまだ一桁だから。」
「二桁になったのなんて本当、最近だよ。」
「そうなの?この仕事って孤独も多いじゃないですか?だから時々、誰かと直接話がしたくなって。」
「それでリストで見てメッセージくれたんだ。」
「そーなんです。無視されたりする事もあるけどね。」
「びっくりしてるだけじゃないかな?はは。」
期待していた話じゃなくてクラウンは少しがっかりした。
その後は、ブッチのアドバイス通り、女の子の話を聞いた。
「あ!もうこんな時間。ご飯に行きませんか?」
「そ、そうだね。」
「私、ジュピターステーション内にオシャレなカフェ見つけたんです。行きませんか?」
「うん。そーしよう。」
若くて幼い2人はギルドあるあるで少しは盛り上がった。
オシャレなカフェからは宮殿がよく見えた。
オーガニックプレートを注文した。
思い出したクラウンはご飯を豪快に食べ切った。
「うふふ。私は調達系のクエストばっかりなんだけど、クラウンはどうやってクエスト選んでるの?」
「なりゆきとかーなりゆきばっかりだな。」
「どーやって早くレベルアップしたの?」
「早いって思った事はないけど、今できる事をしただけかな。」
「ふーん。そーなんだ。」
「クラウンはどの銀河系が好き?」
「えー?えっと、太陽系以外出たことないかな。」
「それで、そんなに?私もがんばろっと!」
クラウンの自信のなさがイブに伝わってしまい、食べ終わると、それぞれ会計を済ませ、イブは次のクエストに向った。
「クラウン、今日はありがとね!また近くになったら遊ぼうね!」
「イブも元気でね!じゃまた!」
クラウンは走りだした。
急にみなに会いたくなってブッチのガレージまで走った。
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「おー!デートどうだった?」すすで汚れたスノーとブラストが駆け寄った。
「デートかなんかよくわからなかったけど、終わった。緊張したー。また遊ぼうねって。」
「この広い銀河でまたね。だとー?!」ブラストはクラウンと肩を組んだ。
「こっち来いよ!」ブッチが立ち上がり、後ろにチューニングが終わった3船が輝いていた。
⭐️
続く。