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トレモロ 1 巻 2 章 5 話

シャトルに戻り席に着いた。

「サイプレス号、アルバ山基地へ向かえ。」

アルバ山基地に着陸し、スノーは局員の目撃者にバイキングが飛んできた方向を聞いた。ロージーで破壊したジャミングアンテナそばの土手はまだ焦げた匂いがしていた。

スノーが話し込んでいるので、クラウン、チョコ、ゴーストが焦げた土手を辿って登ると、土手の上に轍を見つけた。

引きずった車輪の様な跡。ジャミングアンテナは上から飛んで来たのではなく、山の上から投げ落とされていた。クラウンはディスプレイを出しマップを確認すると、火山洞窟が近くにあった。マグマの中心部分にはエレメントポイントが表示されている。

「チョコ、イカロスを使え!」

火山の中に数名のマーキングポイントが動いている。
「スノーすぐ来て。」メッセージを送った。
スノーは局員との話を切り上げて走って向かった。

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火山洞窟入り口。
クラウンはスノーとワッペンをぶつけて同士討ちを解除した。

洞窟をかがみながら静かに進んで行く。
最初の曲がり道の茂みに全員身を潜めた。
マップを見ると1人近づいて来る。
あと2m。
スノーはゴーストに合図を出した。
茂みからゴーストが姿を現した。
ヒューマノイド兵が武器を構えようとした時、スノーが囁いた。
「フリーズ。」

ヒューマノイド兵がゴーストに向かって武器を構える動きがスローモーションの様に遅くなった。

「シシッ!武器構えちゃって。」
スノーが茂みから立ち上がり、拳でこめかみを打ち抜いた。
兵士はグシャと音を立てて茂みに倒れ込んだ。

先に進むと道は緩やかに下り、溶岩川が見えた。
幅は8m。

「シェル!」ドボン!
溶岩川の浅瀬の真ん中に飛び込むスノー。
全身が岩肌で覆われている。
「ゴースト、来い!」
ゴーストが全力で飛びつき、スノーが受け止めタイミング良く放り投げ、崖の上にちょん。ゴーストは軽やかに着地した。
「チョコ、来い!」
チョコは後ろ足でしっかり蹴ってスノーに飛びつき、放り投げられると、ピョーンと長い胴体が伸びて浮き、チョコは着地してそのまま走った。
「クラウン早く来い!」
少し丸まった姿勢でスノーめがけて飛び込んだ。
重みでぐっと沈み「うわっ!」とクラウンは声を上げた。すごいパワーで放り投げられ、飛び上がったクラウンは地面を滑りながら着地した。

スノーは自力で壁を駆け上がって来ると、みなが小さく喜んだ。
スノーは静かに。と合図して、次の崖の下をちらと覗き込み、飛び込みながらヒューマノイド兵の上にドカーン、体当たりで気絶させた。
崖の上にあったハシゴを降ろして、クラウン達も崖の下に降りた。

元の姿に戻ったスノーが静かにマーキングポイントを数えた。
「残りのマーキングが4つになった。オレのアビリティが使える様になったら作戦インパクトだ。」

「もう?4つ並んでるよ?おかしくない?」

「たぶんコイツら軍人だ。シシッ。おもしれーな。」

「別に面白くなくない?」

「静かに行けよ。gogogo.」

崖下の奥にテントが張ってあり、4人仲良く並んで寝ていた。
少し離れた所から、中の様子を見てクラウンはクスクス笑った。
4人に静かに近づき、あと7歩。
ヒューマノイド兵士がムクっと起き上がり、テント入り口のもう1人を起こす。
「交代の時間だ。」
目を覚ましたばかりの兵士とスノーは目があった。
「誰だ!」
立ち上がった2人が武器を構えようと銃を手に取った時。
「ロージー!」
「フリーズ!シェル!」
一斉にアビリティを発動させ飛び上がると、チョコが光り出しプリズムが広がった。
次の瞬間、舞い上がったクラウン、スノー、チョコ、ゴーストは燃える石の塊となってそれぞれ4人の兵士に激突した。
ボムッ!!!

岩が土の様になって砕けて落ち、みな元の姿に戻った。
「作戦インパクトすごいね。」クラウンが土を払って立ち上がった。
犬達もぶるぶるぶる。

テントの下が盛り上がり、スノーより大きなモロクリアン局員がテントを剥いで現れた。
「ブシシシッ!!」
テントの布を引き、足がすくわれたクラウンがよろけて倒れると、座ったままクラウンにロープを投げつけ、首元にかかると立ち上がって引きずった。

「うわっ!」クラウンはよろけながらなんとか立とうとする。
「スーツの襟があるから大丈夫!」懸命に答えるが、次の瞬間、ロープを勢いよく引っ張られ、顔面から床に倒された。

「ならヘルメットごと叩き潰してやる!」ロープをたぐりよせ、クラウンが引きずられると、2匹がロープに噛み付いて離さない。

死角からスノーがタックルした。衝撃で局員は吹っ飛び、ロープから離れたクラウンと2匹は転がり、一つ下の崖の段差まで落ちた。

立ち上がった局員はタックルでスノーを倒した。
スノーはタックルから離れる局員の顔面を蹴り、局員は後ろに倒れ、手をついた。

スノーは局員にタックルしたが、タックルを切られた。
立ち上がった局員がタックルし返すと、スノーの膝を顔面でもらい、再び座り込んだ。

スノーが腕を左右に振って殴りかかる。
身をかがめた局員に再び膝蹴りを浴びせた。
食らった局員は仰向けになり、下からスノーに足をかけると、スノーは上からパンチを連打で打った。
下から蹴りが飛んで来て、スノーはギリギリで身を反らせてよけた。
局員が立ちあがろうとした時、背後から駆け寄るゴーストが見え、崖から這い上がるクラウンと目が合った。
「フリーズ。」
「ロージー!」バン!
局員の背中が炎に包まれ、ゆっくりと燃え続け、後ろを振り返る事なく真っ黒焦げになって動かなくなった。
みなへたり込んで座った。

スノーはディスプレイでアルバ山基地に応援を呼んだ。
スノーと戦った局員以外は生きていて、mcsに連行された。

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片付けが進む中、チョコからプリズムがでている。
クラウンたちがチョコを追いかけると、一度落ちた崖の下の先に茂みがあり、道が続いていた。
岩壁の先が明るく開け、溶岩の池が眩しく広がっていた。

チョコは池の中央を見てはくるん!と回り、尻尾を振っている。

「スノーのシェルまだ使える?」

「シシッ!復活したからもう使えそうだ。」

「溶岩池の真ん中あたりに何かあると思うんだ。スノーしか取れないよね。」

「よし、見てろー!シェル!」

ドプン、ドプン、ドプン、ドプン。
「意外と深いな。これか?」

戻って来るスノーの足が遅すぎて、クラウンは「頑張れー!」と大声で応援し、犬達はジャンプが徐々に高くなっていった。
ドプン、ドプン、ドプン、ドプン。
「よいしょ。」
溶岩池から上がると手に持った石を地面に置いた。
直後、スノーの岩肌が土になって崩れ落ちた。

「まだオレンジに光ってるね?」
待ちきれない様子のクラウンにゴーストが鼻先で石を転がしそばに持ってきた。
クラウンは指先でちょんちょん。
「あ!もう熱くない!」
「シシッ!ギルドに持って帰れるな。」
「ありがとう!スノー!ゴースト!チョコ!」

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アルバ山のmcs局員に見送られ、シャトルに乗り込んだ。
クラウンは椅子に深く座り、チョコが膝に乗ってきた。
チョコからプリズムは消えている。
ひとしきりチョコを讃えながら撫でた。
美しくオレンジに輝く石をシャトルのライトにかざして見た。とても美しかった。

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2人は再びアルカディアステーションのギルドへ向かった。
クラウンはポッドの中にエレメントストーンをセットすると「フレイヤ」がアンロックされた。

モニターにフレイヤのモーションがループする。
丸い火の玉から丸まった姿の炎の女神に変わり、浮遊したまま立ち上がる。近くの敵を蹴り、少し離れた敵には手をかざし火の玉を放った。
ー30秒戦闘に加わりますー
ーチョコの影響でフレイヤが探索を手伝ってくれますー
ービッグラットのログ解析ですー
モニターにスノーが倒した局員の顔が映し出された。
ーモロクリアンのビッグラットは数年前からmcsを裏切り、情報漏えい、複数の同胞の命を奪っていた事が判明。アルバ山襲撃の実行犯です。ビッグラットを倒しました。特別報酬ー

クラウンがポッドからでると、先に出ていたスノーの顔は鼻筋にシワを寄せ、悔しそうに立っていた。「アイツ、ビッグラットってヤツだった。同胞の仇を撃てたな。フリーにも知らせてやろう。」

クラウンはうなずいた。

mcsに着くと、車椅子に乗ったフリーが局員に囲まれていた。
スノーが手を挙げると、フリーも手を挙げた。

フリーに近づく前に、局員が残念そうに呟く。「フリーやめるらしいぞ。」
驚くスノーに車椅子で近づいて来るフリー。
「お前たちがやったんだな!ありがとう!」

mcsのロビーに拍手が湧く。

「フリー、やめるってなんだよ。」

「俺だってまだ続けたかった。適正テストにパスできなくて、これからしばらくセラピー三昧だ。」

騒いでた局員達が理由を知ってしんみり静まり返った。

「手当もらって、スポーツでもやるかな。」フリーは明るく言った。

「フリーがじっとしてるのは似合わないな。」スノーはうなずきながら言った。

「ジュニアには続ける様にスノーからも言ってくれ。スノーの方こそ、もうmcsに戻って来ねーんじゃねーか?ギルドになったんだな。がんばれよ。」

ゴツい手を回してお互いにハグをした。
帰り際にフリーは自身の報告書をスノーに転送した。

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続く。

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