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トレモロ 1 巻 3 章 1 話

mcs(モロクリアンカスタマーサービス)取調室。

ジュニアが部屋に入った。
「優秀な狙撃兵アスティ。随分、評判が悪いんだな。カルーセルの調達係は良く喋ったぞ。」

「痛い。」
アスティは拘束されたまま、太々しく座っている。

「もう連合軍の内戦は沈静化してる。お前の居場所はなくなった。しゃべるなら軟膏、とってきてやる。」

「、、、痛い。」アスティはトンガリ耳をぴくっとさせ、声が小さくなった。

「弱みでも握られてんのか?優秀な狙撃兵だったのに。何やってんだよ。」

「ふん!、、軟膏、とってきてよ。」

「すぐ軟膏持って来い。」ジュニアはスピーカーで指示を出した。

「連合軍の奴ら、最初から成績の良い狙撃兵をねたんでんだ。戦闘で割り込むな!だの、時間に遅れるな!だの、武器を盗むな!だの、ちょっと借りただけなのに、ごちゃごちゃうるさくて。ついに私を追い出したんだ。だから、逆にあいつらを基地から追い出してやったんだ。自業自得だ!」

「自業自得はお前だ!」

アスティは泣き出した。

ジュニアは軟膏を持って来た救護班員に軟膏を塗ってやるように指示した。

「手作りのモジュールは?誰にそそのかされたんだ?」

「うう。自分で材料集めてやっただけよ。」

「そうじゃない。前からmcs局員とは知り合いか?」

「ぐすっ。ビックラットとは最近、連合軍募集の集会で会った。そこに取材に来てた男が『あなたが最後になにかを盗んだ時のことを話してください。』って聞き回ってた。私とビックラットは競い合って自慢した。それから連合軍の訓練所で偶然2人と会う様になって、元々不満のあった私とビックラットでムカつく局員や兵士に仕返ししてやろうって話になっただけ。彼は話を聞いて時々意見を言うだけで、この件とは関係ないわ。」

「うーむ。その男の外見とか話してくれたら、ケーキも持って来てやるぞ。」

「ほんと?」アスティは狂気の笑顔を見せた。

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サイプレス号、船内。

スワンが落としていった羽根を拾ってクラウンは顔の前でくるくる回している。

ブラストは操縦席に座ってはしゃいでいた。
「ヤバーイ。やっぱシャトルは早いね。」

「近くのパーツ屋にチューニングが上手いヤツがいるんだ。そこのパーツ着けてると性能がぐんと上がる。」

「マジ?そこでパーツ替えたらオレ達の船にも使えるやつだね。」

マニアな2人は大盛り上がり。

「船は早くしたいよな。シシッ!せっかく太陽系来たならジュピターステーションのパーツ屋スゲーよ。行くか?5日で着くぞ。」

「行く!ついでにクエストないかな?、、あった!これよくない?」

「廃品回収。専門スキルは要りません。内部機密を厳守できる方。シシッ!よし、行こうぜー。」

「クラウンも行くよな?」

「行くー。」

顔の前で羽根を回し、クラウンはぼんやりしたまま答えた。

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ーもうすぐジュピターステーションに到着ですー

クラウンは窓に近づき驚いた。
「おっきいね。こんな近くまで初めて来た。色すげー。」

「シシッ!天空の父たる神だっけ?」

「どこに降りるの?」クラウンは見回した。

「水素の星だから、着陸はできないけど、水素工場にジュピターステーションがあるって。」ブラストが指差した。

「シシッ!水素工場、見えてきた。」

「工場ってゆーか、宮殿じゃん。はは。」クラウンは笑った。

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ジュピターステーションのドックに3人と2匹は降りた。

無機質なドックから伸びる広い通りは、水素工場にまっすぐ繋がっていた。

大きなタンクが数台、工場を照らす光、玉ねぎ型の宮殿が数棟、四角い建物も数棟、カラフルな装飾タイル、白い煙が工場の土台をぐるりと囲い、クリアなパイプを通る様は、雲の上に浮かぶ宮殿のようだ。

「シシッ!クエスト済ませて報酬もらってから商業施設に行くか。」スノーは提案した。

「そうだね。」ブラストはうなずいた。

「うわー。宮殿の中庭キレー。」クラウンははしゃいだ。

中庭の四つ角に丸くカットされた木、真っ直ぐ伸びた道の両側は植物が四角にきっちりカットされ柵の門まで続いている。中庭の先の柵の門の前に着いた。
ブラストが入門証にサインすると門は静かに開いた。

案内ロボが建物前で待っている。
3人は「ギルドから来ました。」と、挨拶してロボに案内された。
中は普通の工場でシルバーの装置が続く廊下を進み、椅子も何もない部屋に案内された。

ロボから音声案内が流れた。
ー水素工場にようこそ。ギルドの皆さん、機密保持誓約にまずはサインくださいー

3人はサインしてあたりをキョロキョロした。

ー数分の動画をご覧くださいー

モニターには『工場の歴史』とタイトルが出て。クラウンが噴き出した。
ブラストは静かにのジェスチャーをした。

『約400年前、水素エネルギーのコストが高い時代にコストを下げるべく、水素工場が創立されました。創立当初、宙族が無数にやって来て、水素エネルギーを無断で盗まれ、工員の被害が多い時代がありました。水素エネルギーを利用した無限の再生システムが作られ、侵入者のブロックに成功し、安定した稼働が実現しました。技術の進歩と共に最初の宮殿工場を改築し、工場が拡張され、ジュピターステーションの発展と共に新たな宮殿工場が建ち、今もなお発展を続けています。』

ー工場長のガリレオ氏からのメッセージですー

「えー、え、えーと、ギルドの皆さんには最初の宮殿、ジュピターラビリンス内に廃品が落ちていると危ないので回収をお願いします。身の危険を感じたら撤退して下さい。回収物の量で精算します。カートと回収袋、鍵をお渡しするので深層部にお進み下さい。」

扉が開き、案内ロボについていった。
近代的な工場内には廃品どころかゴミひとつ落ちていない。
「回収するものないね〜。」
クラウンは残念そうな声を出した。

最初の施設を出ると吹き抜けの広い空間に出た。とんでもない高さの工場のはしごや骨組みを見て、スケールの大きさに足がすくみそうになった。

スロープをおり、次の工場内も少し狭くなった感じがするだけで、中は問題なく稼働している。

エレベーターでさらに下層へ。クラウン達は工場見学を楽しみ出していた。

羽橋を渡り切ると薄暗い中から宮殿工場が現れた。
表で見た近代的なデザインの宮殿工場に比べ、古めかしい重厚な石のアーチや使われていない噴水、金やクリスタルの装飾がついた扉の前で案内ロボが止まった。

ージュピターラビリンスに着きました。ここでお待ちしていますー

スノーは案内ロボに渡された金色の鍵を差し込んだ。
重たく扉が開いた。
空気はひんやり、薄暗く、稼働している音が時々聞こえるだけで、おかしい様子はなさそうだ。
ギルドのヘルメットがあれば十分な明るさだった。
チョコのイカロスを使ってもマーキングポイントの反応はなかった。
先頭に犬達、クラウンとブラストが続き、その後ろでスノーがカートを引いた。

「あ!さっきの動画で見たとこじゃん!」

「ほんとだ!ホワイエゾーンに着いたね。」マップを見ながらクラウンが答えた。

「よし!はじめるか?」スノーはカートを部屋の中央に置いた。

「おー!ささっと終わらしてパーツ屋行きたい〜。」ブラストは楽しそうに部屋に何か落ちてないか捜索を始めた。

しばらくしてクラウンはため息をついた。
「トレーとか備品がちょっとで片手でおさまるくらいしか見つけられなかったよ。」

部屋の中央に集まって来たブラストもスノーも身軽なものだった。

チョコとゴーストが何かくわえて走って戻って来た。

クラウンはなでなでしながら受け取った。

「よしよし!何かの棒かな?」

スノーもゴーストから棒を受け取った。

「げっ!骨だ!」

「うわー!」クラウンは骨を放り投げた。

嬉しそうにチョコは拾って戻ってきた。

⭐️

続く。

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