先日発表いたしました第10回 角川文庫キャラクター小説大賞につきまして、受賞者3名の受賞の言葉と、選考委員の澤村御影先生と望月麻衣先生の選評を公開いたします。 ご応募くださいました方々、選考にあたられた諸氏に改めて御礼申し上げます。
【受賞の言葉】
「斜陽国の奇皇后」神雛ジュン
〈あらすじ〉
「男なら宰相にもなれただろう」とまで言われた才女・徐夢珠(じょむじゅ)は、暗愚の皇帝に代わり政務を執るため皇后となった。皇帝の寵愛に興味がない夢珠は国のため、そして自分を救ってくれた皇太后のために務めに励むも、皇帝の寵妃・九歌(きゅうか)から突然「皇后に相応しいのは私!」とばかりに敵視され、さらに陰湿な嫌がらせまでも受けるようになる。困った夢珠は、皇后の座をかけ九歌と勝負をしようと仕向けるのだが――。
この度は大賞という輝かしい賞をいただき、大変光栄に思っております。選考委員の澤村御影先生、望月麻衣先生、並びに角川文庫キャラクター文芸編集部の皆様には心より感謝申し上げます。創作活動を支えてくれている家族にも、ありがとうの気持ちでいっぱいです。
今回、選考に残っていると初めて知ったのは二次選考の時でした(勘違いで一次選考発表を見落としていた)。本当にびっくりしました。その後はまな板の鯉状態で最終選考会まで過ごしたのですが、毎日賞のことばかり考えてしまうし、想像しすぎて悪夢まで見るし……正直生きた心地がしませんでした。なので受賞を知った瞬間は驚きと感激のあまり「え? え? え? え?」しか言えず、さらに半泣き状態にもなり、見事あやしい人間ができあがりました。きっと傍から見た姿は異様だったと思います。
受賞作「斜陽国の奇皇后」は、ちょっと風変わりな主人公が、滅亡寸前の国を建て直すために皇后となり奮闘するお話です。中華ファンタジーが大好きなので、宮廷・後宮の独特な面白さ(女同士のあれこれとか、事件とか)が伝えられたらいいな、と思いながら書きました。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
まだまだ未熟な書き手ですが、皆さんに手に取って貰える作品をたくさん創り出せるよう、全力で取り組んでまいりますので、よろしくお願いいたします。
最後となりましたが、あらためて感謝を申し上げます。
ありがとうございました。
「平安後宮の鬼食い姫―光の君と黒弾正」真帆路 祝
〈あらすじ〉
平安時代、貧乏貴族の娘である明乃(あけの)は、ある日突然「鬼になってくれ」と頼まれる。鬼とは、帝や后たちの食事を前もって味見するお役目、鬼食いのこと。父の懇願と、美味しいものが食べられるという誘惑につられ承諾した明乃は、女房として出仕する。幼い頃にすももをくれた光の君こと次期東宮・晴久(はるひさ)親王にもまみえ、お礼を伝えたいと願うが、宮中で不穏な事件が続発。明乃は貧しいがゆえに逆に研ぎ澄まされた味覚と食の知識を活かして、黒弾正と呼ばれる黒ずくめの青年・源蘇芳(みなもとのすおう)と事件の謎を解いていくことに……!
十回目という節目の年に名誉ある賞を賜り、大変光栄です。
応募したのは平安時代の後宮が舞台のお話です。
プロットを立てるときにいくつか資料を読んだところ『更級日記』の作者である菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)のこんな言葉が目に留まりました。
「はしるはしるわづかに見つつ、心も得ず、心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、人もまじらず几帳の内にうち伏して、引き出でつつ見る心地、后の位も何にかはせむ」
菅原孝標女は、紫式部が残した世界的名作『源氏物語』の熱狂的なファンだったそうで。
引用の箇所を私流に訳すなら「待ち望んでいた本を手に入れて嬉しい! 帝から后にしてあげると言われても、今はスルーしちゃう。誰にも邪魔されずに源氏物語の世界に浸る方が尊いわ~」という感じでしょうか。
すばらしいお話と出会ってワクワクする気持ちは、千年も昔から変わらないのだなぁとしみじみ思います。
私の作品を選んでくださった選考委員の先生方、読者賞の審査員のみなさまに厚く御礼申し上げます。
『源氏物語』を手にした菅原孝標女が感じたようなときめきを多くの方々に届けられるよう、今後とも精いっぱい頑張ります。
このたびは本当にありがとうございました。
「妖血の禍祓士は皇帝陛下の毒婦となりて」柊
〈あらすじ〉
嘽(せん)皇国を治める剋帝(こくてい)姫舜(きしゅん)は、視えないものが視える体質だった。どれだけの美人でも、その顔は靄で覆われ、黒い蟲がはりついている。しかも、舜は謎の病に侵され日に日に衰弱していた。不治の病と思われたが、『呪い』を疑った侍医が、古い資料から一つの望みを見つける。それは、今は縁の切れた『禍祓(まがはら)い』の一族、姚(よう)家だった。そうして呼ばれたのが、禍祓士(かばつし)、姚流麗(りゅうれい)。黒い道袍(どうほう)に白い仮面を身につけた彼女を見て舜は驚く。なぜなら彼女の顔には黒い靄も蟲も無く……?
この度は、カクヨムテーマ賞を賜りまして、心より感謝申し上げます。
今回受賞しました、「妖血の禍祓士は皇帝陛下の毒婦となりて」は、中華ファンタジーが書きたいという思いを込めた一作となっております。私が中華ファンタジーに魅了されたきっかけは、中学一年生頃に、『封神演義』に出会ったことでしょうか。漫画も好きだったのですが、学校の図書室にあった原作にずぶずぶとはまっていました。中華ファンタジーという世界、神話の登場人物達に魅了され、いつか、自分もこんな話が書きたいと思いました。ですが、実を言うと本格的に書き始めたのは、三年ほど前です。若かりし頃は、書きたい思いだけで全く書けず、まともな話一本どころか、千文字にも至らなかったと思います。結局、二十歳の頃には創作を辞めてしまいました。しかし、WEB小説界隈が活発になったこともあり、もう一度筆をとり物語を綴ってみようと思い至った次第です。
そんな、夢を追いかけた本作が受賞とあって、感無量でございます。
本作の主人公、姚流麗は、剣を持ち悪鬼に立ち向かう強い女性です。剣を持ちながらも、恋をしたり、好きな男性の前では淑やかさを見せたりと、様々な姿を見せる女性。そんな強く逞しくも美しい女性の姿と中華ファンタジーを併せた世界を、多くの人に楽しんで貰えたらと思います。
【選評】
「小説として純粋に楽しめました」澤村御影
「斜陽国の奇皇后」は、文章力・ストーリーテリング共に優れており、小説として純粋に楽しめました。各キャラクターも魅力的で、主人公の夢珠の仕事ぶりや、ライバルにあたる九歌との勝負は、とても面白かったです。毒殺未遂事件の真相も興味深く、その顛末もきちんと納得のいく形になっており、迷いなく大賞に推せる作品でした。ただ、百合的要素については、無理に入れ込む必要はないんじゃないかなという気も……コメディ要素としては楽しく読みましたが、婚儀の場で夢珠が五娘を見て恋に落ちるシーンや、ラストで九歌が夢珠に対してグイグイくるシーンには、やや唐突感を覚えました。要素的に角川文庫の読者層に馴染むかどうかというのも、ちょっと悩みどころかと。とはいえ、そこが作者としてのこだわりポイントであるならば、別にこのままでもいいと思います。創作には、そういうこだわりも大事といえば大事です(でも、担当さんとは一度話し合ってくださいね)。
優秀賞&読者賞となった「平安後宮の鬼食い姫-光の君と黒弾正」は、王道を押さえた作品。平安時代の風俗描写には少々首をかしげる点もありましたが、テンポよく事件が起こり、読者を飽きさせない工夫がされていました。でも、全般的にあっさりしすぎていて、黒弾正と明乃の交流シーンにはもう少し深みが欲しいなという気がしましたし、明乃が黒弾正の正体に気づくくだりももっと描写が欲しいと思いました。もだもだ感や気づきの描写を入れて心情を盛り上げれば、キャラクターの魅力がさらにアップするはず!
「妖霊調査官の受難記」は、非常に勿体ない作品。ストーリー展開自体は悪くないものの、描写すべきシーンや説明すべき設定が全てふわっとしたまま流されていくので、盛り上がりに欠けました。特にアリが勿体ない。彼は、描きようによってはとても魅力的な人物になれたはず。あらすじ的な文章でごまかすのではなく、きちんとシーンとして描かないと、キャラクターや物語の魅力は読者に伝わらないのです(……と、厳しいことを言いましたが、前回投稿作と比べると明らかに成長しているので、これで諦めずにぜひ次回もチャレンジしてほしいです!)。
「妖血の禍祓士は皇帝陛下の毒婦となりて」は、黒い霞とそれを喰う蟲、そしてそれを指で巻き取るヒロイン流麗のビジュアルイメージは大変良かったと思います。しかし、言葉の誤用や文章上の難が目立ちました。設定やキャラクターを使いこなせていない部分も多く、こちらもまた色々と勿体ない作品でした。
「素晴らしい作品に触れて」望月麻衣
最初に、大賞の神雛ジュンさん、優秀賞&読者賞の真帆路祝さん、カクヨムテーマ賞の柊さん、おめでとうございます。また、最終選考に残った平本りこさんは、昨年も最終選考に残り、大きな成長を見せてくださったのですが、あと一歩及ばずというところでした。ぜひ、来年もチャレンジしていただけたら、と勝手ながら思っております。
(以下敬称略)
「斜陽国の奇皇后」神雛ジュン
イキイキとした主人公の言動と、ユーモラスな語り口調で軽快に展開していく物語がとても楽しく、最後までページをめくる手が止まりませんでした。「上手い作品」はこの世にたくさんありますが、「面白い」「もっと読みたい」と思わせる作品となると、そう多くはない。
「斜陽国の奇皇后」は審査を忘れて楽しませていただき、もっと読みたいと感じた作品で、結果は文句なしで満場一致の大賞でした。
「平安後宮の鬼食い姫―光の君と黒弾正」真帆路 祝
候補作の中で、真っ先に手に取ったのはこちらの作品です。平安後宮を舞台にしていること、そこで鬼喰いと呼ばれる姫がいて活躍するらしい。そんな内容がタイトルから伝わってきて、「読みたい」と思わされました。これは素晴らしいことです。
設定・世界観共に申し分なく、キャラクターも魅力的。ただ、事件の結末の予想がついてしまうという点が少しもったいなかったなと感じました。この辺りは編集者のアドバイスでさらに磨かれるのではないでしょうか。書籍となるのが楽しみです。
「妖血の禍祓士は皇帝陛下の毒婦となりて」柊
作品の舞台やキャラクターの心情をとても丁寧につづっており、皇帝の苦悩や、禍祓士の女性の想い、さらに作品に対する強い想いも伝わってきました。しかしその一方で、テンポが悪く感じられたのもたしかです。書き込まれた部分をもう少しブラッシュアップすることで、読みやすさと、文体の美しさがさらに際立ってくるのではないかと思いました。
「妖霊調査官の受難記」平本りこ
マイペースなアマルに、不運な美男子マシュアルなど、キャラクターがとても魅力的でした。アマルの瞳の謎など、物語を牽引する仕掛けはあるのですが、序盤からもう少し「どういうことだろう?」「どうなるんだろう?」という『引き』があればさらに面白くなると思いました。冒頭でもお伝えしましたが、前回に引き続き、最終選考に残る作品を作られたということで、『書き上げる力』がある方だと、選考会でも非常に評価は高かったです。本当にあと一歩。ぜひ、次回もチャレンジしていただきたいです。
最後に、皆様の作品に触れて大きな刺激をいただきました。
素晴らしい作品を本当にありがとうございました。