秀逸なレビューをカクヨム運営が選出して紹介する「これは読みたくなる! カクヨム名レビュー発掘会」のアーカイブをお届けします。
今回の特集では、2017年1月24日〜2月13日の期間でgoodレビュワーとして選ばれたユーザーによる、秀逸なレビューを一挙に掲載。作品を探す時の指針に、またレビューを書く際の参考としてもお読みください。
経済学関連の初歩を有名な某RPG風味にして噛み砕いたものになります。通信技術の発達していない中世ファンタジーであっても、遠距離の相手と連絡可能なマジックアイテムが存在するため、それほどのタイムラグが発生せずに貨幣価値が変動します。
はい、シノギの匂いがしてきましたね。
主人公たちは比較的魔王たちを倒すことを忘れていませんが、他のパーティーは貨幣価値の差額を利用して金を稼ぐことに心血を注ぐようになります。我々の暮らす社会そっくりです。というか我々の国がやった失敗をなぞっていくことになります。具体的にどんな失敗をするのかは物語をごらんあれ。
そういう生臭さがぷんぷん漂う世界観をコメディタッチで描くことで消臭することに成功しています。いや成功したのか? むしろ強化されたようなしないような?
えーと、とにかく、人間たちの良くも悪くも懸命に生きるがゆえに失敗することをコメディとして描いた物語なので、興味のあるかたはご一読ください。
ドラマのようなバランスの取れた空気感が非常に読みやすいです。
文章やストーリー展開も安定しており、一般に堅苦しく難解なイメージのある探偵ものとは異なり、常にポジティブな明るさが感じられます。
広くライト層におすすめできる作品です。
本宮君も桜井さんも魅力的で、そして何より個性的。
二人の掛け合いやその関係が物語を押し進める原動力となり、気づけば話に引き込まれています。
本宮君は今までにないタイプの探偵・ヒーロー像。
従来の価値観を一新する頼れるイケメンオネエです。オネエですがやはり恰好いいです。
桜井さんは探偵助手にピッタリの女性ですね。
ヒロインとしても視点人物としても魅力的で、割とざっくりしている部分が個人的に好みです。
そんな二人が織り成す探偵物語。
第一の事件が無事解決したところですが、どうやら探偵事務所に平穏は無縁のよう。
続きも楽しみにしております。
田舎の村。古くから伝わる伝承。村の名家である三つの家。
物語は、主人公の青年が祖母の葬儀のために久しぶりに田舎に帰ったところからはじまります。
そこで主人公が目にした、赤いもの……それが、はじまりでした。
田舎のねっとりとした濃い闇の中にとらわれて抜け出せなくなるように、ひたひたと迫る闇にまとわりつかれるように。
この物語の恐怖は忍び寄ってきます。
はたして。その恐怖の正体とは。
ジャパニーズホラーの神髄を、じっくりと味わってみてください。
私は夜中に一人で読み始めたことを後悔しました。布団の中に入って読んでたって怖いです。だって、あいつは布団の中にだってやってくるんですから。
ロシアから米国へ亡命中、乗っていたヘリがアラスカで墜落。
考古学者ヴァシリーを助けたのは、ぶっきらぼうな物言いの少女だった。
発掘中に見つけたある物のために、追われる身となったヴァシリー。
助けてくれた少女ヤコネが、とにかく魅力的です。
カタコト英語での会話は、命令口調。
誇り高い狩人で、ライフルは凄い腕前。
狩った獲物をその場で捌き、ワイルドな食材を「食え」と勧めてくれます。
彼女たちイヌピアット族にとっては、恐らくご馳走なんでしょう。
何度も吐きつつ、毎回受け取ってチャレンジするヴァシリー。
アラスカに生きる者の生の暮らしぶりを目の前で見ているかのような描写に、すっかり惹きこまれてしまい、後半で「そういや、ジャンルはSFだった」と思い出すほど。
ヴァシリーが見つけた物は何なのか?
ヒュペルボレイオスとは?
後半の、全ての謎が解けていくSF展開は、最後まで息つく暇もありません。
取り残された彼は、このあとどうなるんでしょうね?
めちゃくちゃ面白かったです。
同人誌、ネットでは揶揄するように「薄い本」と呼ばれる、主に商業作品の二次創作を指します。
本作の主人公は、同級生の女の子から不意に同人誌、それも人気アニメの百合、女の子同士の恋愛ものを作らないかと迫られます。
戸惑いつつも申し出を引き受ける主人公。作画する設計図、ネームを担当しますが――――
二人のやり取りを通じて、同人誌を作る過程、印刷所に頼むところや料金、どんなジャンルにするか。
創作する上で、自分の今現在の力量、自尊心と自己満足とのせめぎあい、ほかの上手な人と自分を比べることでの劣等感。
ヒロインの色んな感情が描かれています。
それと同時進行で描かれているのが、二人の仲の進展ぶり。
資料写真を撮影するために、アニメの舞台になった海岸に聖地巡礼したり、ヒロインの原稿を手伝うために家で二人きりで作業したり。
主人公目線で語られているため、読者がもどかしい思いをすることも。
そして念願の本ができあがって、いざ即売会に。
そこでの経験は二人に何をもたらすのか。
作中作のアニメのテーマソングまで入れる凝った構成。
同人誌のことを全く知らない方にも解るように作中人物に語らせることで、プロセスがわかるお仕事ものとしての側面も。
昨今、市民権を得つつあるオタク。そんな二人のやり取りが愛おしくなるラブコメディー。
オタ、非オタともに楽しめる一作です。
出産から始まる鮮烈な幕開け、八九式小銃の重み、夜に跋扈する死獣。
息をもつかせぬ展開に引き込まれました。
ある種デスゲームのような雰囲気が漂う序盤ですが、
その後には緻密な日常が描写されます。
夜に生まれた者は夜しか活動できません。
学校へ行っても窓の向こうは真っ暗闇。帰宅すれば、夜明けとともにベッドに潜り込まなければなりません。
どこか不健全な生活は、夜生まれである「夜勤」の歪さを象徴しています。
夜勤は死獣に対する防衛手段でしかなく、一般的な労働による生産性を備えることが出来ません。
ゆえに夜勤と昼生まれの間には埋めがたい格差が存在します。
文化レベルで隔絶しているといっても過言ではありません。
「夜勤」という突拍子もないアイデアを、これらの緻密な設定が後押ししリアリティを醸し出していました。
こうした描写から描き出されるのは主人公の抱く憤りとやるせなさ。
それは死獣への憎しみよりも強く滲み、理不尽な世界への怒りが読者にさえ牙を剥きます。
死獣との戦闘や夜勤の格差社会への怨嗟、或いは若者の群像劇としての魅力も備えた本作ですが、何より印象的なのは、閉塞感への憤りと打破だと感じました。
キャラクターではなく、設定とストーリーに語らせる骨太な作品です。
是非ご一読を。
四百年間童貞を守り、魔王にふさわしい強大な魔力を手に入れた彼には、ある夢があった。
それは、『偉い人になる』『きれいなお嫁さんをもらう』『立派なお父さんになる』こと!
まずは偉い人になるべく世界征服を始めたものの、この魔王様、世界征服の手始めに諸国の様々な問題を解決することから着手するほどのお人好し。
しかも強力な魔力を持っているから攻撃を受けても涼しい顔。
四百年間生きているから弁も立つ。
"魔王"という言葉から連想されるような、邪悪さや傲慢さは微塵も感じられないところが面白いです。
テンポもよく、筆力も確かすぎるほど確かで、一話ごとにしっかり見所もあります。
現時点でも明らかに名作なのですが、この先の期待をこめての☆2です。
ついに婚活編もスタートして、何事にも動じない魔王様がどうたじたじになるのか、果たして立派なお父さんになれるのか、ますます目が離せません!
これからも楽しみにしています。