カクヨム10周年おめでとうございます。もう10年も経っていたのかと、月日の過ぎる早さに驚くばかりです。こちらの特集記事も初期の頃から書かせていただいてました。当時、編集部に呼ばれて、担当さんから書き手と読み手の間を取り持つ特集コーナーが欲しいという話を持ちかけられたのがきっかけでした。半年から1年ぐらいで終わる仕事かなと思っていたのですが、まさかここまで長い付き合いになるとは自分でもびっくりです。ユーザーページで確認できる読書データでは、読んだ文字数91,429,620。本914冊分となっています。2020年からのカウントなので、1年間あたり平均150冊分ですか。リアルで購入している本よりも多いかもしれません。10年の間にさまざまな人気作や流行がカクヨムから生まれました。これから10年後、カクヨムはどう変わっていくんでしょうか。できることならまたその変化を間近で眺めていきたいです。皆様、今後とも末永くお付き合いくだされば幸いです。

ピックアップ

壊れた道具、直します。ゴミ捨て場から始まる異世界修理ファンタジー

  • ★★★ Excellent!!!

 工場で作業員として働いていたレントは、ある日、異世界へ転移してしまう。田舎の村のゴミ捨て場で目覚めた彼は、廃棄されたゴミの「再利用率」が分かる不思議な能力を得ていた。前世で培った技術を活かし、修理屋として働き始めたレントの評判はやがて村中に広がり、次第に周囲の暮らしを変えていく……。

 動画サイトではサビついた道具を綺麗に直すレストア動画が人気だったりします。そんなSDGsに通じる精神で異世界を変えていくという物語の切り口に、時代性を感じました。

 レントのもとに持ち込まれるのは、刃の欠けた包丁や折れ曲がった農具など、どこにでもある日用品ばかり。しかし貧しい農村では、壊れた道具が再び使えるようになるだけでも生活は大きく改善する。毎日、叩き、削り、整える地道な作業を繰り返し、死んでいた道具が、再び息を吹き返し、人々の生活に戻っていく光景に、どこか素朴な癒やしを感じます。

 口下手で不器用ながら、ボロボロの道具を見捨てられないレントの人柄にも好感が持てます。次第に評判が村を越え、ついには街の職人たちでさえ「修理不可能」と匙を投げた難物が持ち込まれる……。捨てられた物に新たな命を吹き込む彼の仕事が、どのように世界を変えていくのか、続編に期待します。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)

あなたの強みはなんですか? 就活女子大生の異世界インターン

  • ★★★ Excellent!!!

 女子大生の如月繭は就職活動の真っ最中。しかし、自信がなく周囲に誇れる特技もない繭は、いつも自己PRに詰まってしまう。落ち込む繭に母親が手渡したのは、亡き父親のノートだった。父親の迷いや葛藤が綴られたノートを読むうちに、突然、異世界に転移してしまい……。

 最前線へ物資を運ぶ輸送隊。兵隊たちが屯す酒場。通信を伝達する魔導研究所。大使をもてなす迎賓館……。異世界で繭が放り込まれるのは、常にトラブルが耐えない仕事の現場です。仕事の喜びや楽しさよりも、責任の重さに怯える悲痛な心情が丁寧に描かれているからこそ胸に迫るんですよ。

 現場では悩んでも立ち止まっている暇はない。とにかく手足を動かし、働き続けるうち、少しずつ仕事の勘や要領を掴んで、何もないと思っていた自分が持っていたもの、自分に足りなかったものの形を次第に掴んでいく。異世界で奮闘しながら、働くことの絶望と希望を経験して成長する姿に引き込まれました。

 「自分に何ができるのか」、「自分の強みとは何か」。社会に出る前に、多くの学生が一度は立ち止まる問いです。しかし立ち止まっていては、いつまでも正解は出ません。まずは目の前の仕事に真剣に向き合うことで、見えなかった自分が少しずつ見えてくる。将来に悩んでいる人に是非おすすめしたい作品です。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)

社畜よ、立ち上がれ! ブラック企業に正義の鉄槌を

  • ★★★ Excellent!!!

 ブラック企業で身も心も疲弊した会社員・遠藤悟。そんな彼を地獄から救い出したのは、退職代行屋『ミッドナイト・エグジット』を営む青木裕里子だった。どんなブラック企業からでも、手段を選ばす必ず依頼人を救い出す。ただし報酬は超高額。多額の借金を背負った遠藤は、返済のため青木のもとで働くことに……。

 暴力や威圧で社員を縛りつけるブラック企業を、さらに強烈な手段で叩きのめして依頼人を救い出すストーリーが痛快でした。

 IT業、飲食業、デザイン業、アイドル業……さまざまな業界で横行するブラック企業。パワハラ経営者には労働基準法も世間の常識も通じない。そもそも話が通じない。理屈ではなく恐怖で人を支配しようとする。そんな理不尽な悪党たちを法律と実力の両面から懲らしめていくのです。こんなの絶対スカッとするに決まってるじゃないですか。

 かつてはブラック企業に押し潰されかけていた遠藤も、同じような理不尽に苦しむ依頼人たちの涙を目にし、「これは俺の戦いだ」と義憤に燃え、弱い立場の人々のために立ち上がる姿に勇気づけられるんです。社会の理不尽に立ち向かう人間の強さと、労働者の覚悟を描いた物語でした。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)

最強なんて目指さない。VRMMOで最高の一皿を。

  • ★★★ Excellent!!!

 貧乏大学生の窓下涼介は、毎日コンビニ弁当ばかりの食生活にうんざりしていた。そんな折、五感を再現したVRMMO『ガーリックファンタジー』の広告を目にし、「美味しいものを食べたい」という理由だけでゲームを始める。しかし、彼が選んだ「料理人」は不遇ジョブだった……。

 ゲーム世界で「最強」でも「効率」でもない、ただ「美味しい」を追い求めていく展開が面白いんですよ。

 この世界ではポーションにも味がある一方、NPCの料理は不味く、プレイヤーが作る料理も効果が微妙という理由で、料理人は不人気なジョブです。けれど涼介には関係ない。稼いだ金はすべて料理に費やすこだわりっぷり。ゲームの攻略よりも自分の趣味に振り切ったプレイスタイルが小気味いいんですよ。

 さらに料理はオート生産ではなく、焼き加減や味付けまでプレイヤー自身が操作するリアル仕様。ほんの少しの手違いで、いままでの苦労が台無しになりかねない。毎回、苦心して一皿を作り上げる過程がハラハラ、ドキドキします。

 初心者ゆえの失敗さえ楽しみながら、「次は何を食べようか」、「このモンスターはどんな味だろう」と世界を旅する涼介の姿に、冒険への期待が膨らみます。果たしてどんな「美味しい」と出会えるのか。是非自分もプレイして味わってみたくなりました。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)