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皆さん歴史はお好きですか? 正直な話、僕はわりとSFやファンタジーのようなフィクション色の強い小説の方が好みで、積極的に手を取ることはそんなにないんですよね。
でも、だからこそ、たまに歴史を扱った小説を読むと凄く印象に残るし、これがただの物語ではなく、我々と地続きの世界を生きていた人々の足跡だと考えると、通常の小説とは一味違った独特な感慨が得られるんですよね。
そういうわけで、今回はそこまで歴史に詳しくない僕が選んだ、歴史を扱った4作品を紹介します。「日本がアメリカよりも先に核兵器を手にしたら……?」というとんでもない設定を扱った架空戦記、最近、某人気ソーシャルゲームでも特集された十字軍をわかりやすく解説した歴史エッセイに、遥か昔からダンジョンが存在する日本の歴史を追っていく、特殊な形式の歴史ファンタジーに、実在した中国の検視官が探偵役を務める中華ミステリーなど、いずれもユニークな作品ばかり。歴史に詳しくない人間が選んだだけに、歴史ものが苦手な人でもきっと楽しめるはずですよ!
史実の戦争を題材にしながらも本来の歴史の流れとは一部違った条件を加えることで、歴史のifを描く架空戦記もの。太平洋戦争を扱った場合、敗色濃厚の日本をいかにして逆転させるかというのがポイントになるが、本作ではなんとアメリカに先駆けて日本が核爆弾の開発に成功するというとてつもない逆転劇が描かれる!
現実の戦争では最後の最後にダメ押しとして日本に投下された核爆弾だが、本作の核は日本が逆転への足がかりとして放つことになる。劣勢の戦況を覆さなければならないのだから、当然一発や二発で済むはずがない。
まずは硫黄島、そして太平洋沿岸で反撃の狼煙として上がるキノコ雲。この勢いでアメリカ本土への爆撃も視野に入れる日本だが、一方でマンハッタン計画を進行中だったアメリカも「核には核を」という姿勢で日本への反撃を試みる。
こうしてかつてないスケールで始まる全面核戦争。相互確証破壊なんて概念はなく、決戦兵器であるはずの核爆弾が通常兵器のごとく惜しみなく放たれる光景は、おぞましくも実に壮観。
戦場ごとに視点人物が切り替わり、特定の誰かが主人公というわけではなく、言うならば核爆弾こそが主役ともいえる本作。地獄への道をひたすら突き進むこの世界にどのようなピリオドが打たれるのか、狂気の歴史の証人として見守っていきたい。
(「歴史を感じる4作!」/文=柿崎憲)
最近は某人気ソーシャルゲームのイベントにも登場し、一部で大変注目度が上がっている十字軍。200年にも渡る大規模な遠征で、学校の教科書でも当然取り上げられるが、歴史的意義などには触れられる一方で、具体的な戦場の様子や実際に参加した人間についてはあまり掘り下げられない。そんな十字軍にまつわる様々なエピソードを歴史の流れに沿って紹介してくれるのが本エッセイ。
十字軍誕生の経緯に始まり、聖地エルサレムを巡る争奪戦、十字軍内部の諸侯の権力争いなど、色々と難解な部分も多いのだけれど、そうした複雑な部分を時には漫画やゲームで例えながら、軽やかで読みやすいタッチの文章で噛み砕いて伝えてくれます。
この解説によって浮かび上がってくるのが、やたらとキャラの立ったインパクトの強い人たち。獅子心王リチャードやそのライバルのサラディンといったビッグネームはもちろん、民衆を率いて一番乗りで海を越えた結果、悲惨な事態を巻き起こした隠者ピエールや、たった9人で聖地に乗り込んだテンプル騎士団初代総長ユーグ・ド・パイアンなど、印象に残る人物が次々に出てきては楽しませてくれます。
その一方で、人肉食に至るほどの悲惨な状況や聖地を巡って行われる虐殺など十字軍の負の側面にもしっかりと触れられていて、読みごたえは十分。教科書からではわからなかった当時の世界を生きた人々の視点がよくわかる、優れた読み物に仕上がっています。
(「歴史を感じる4作!」/文=柿崎憲)
ダンジョンを形成するダンジョンコアに転生してしまった日本人男性。しかし、普通の転生とはちょっと違い、彼が転生した先は異世界ではなく遥か昔の日本だったのだ! 遥か昔がというのは誇張でもなんでもなく旧石器時代にまで遡って描かれるから凄い。
ダンジョンが作られた影響で日本にはモンスターが跋扈する一方で、住人は皆魔力を持つようになり、本来の流れとは微妙に異なる歴史を歩むことになる。時代が進むにつれて卑弥呼や聖徳太子といった実在人物が登場し、歴史ものとしての楽しみはどんどん増していく。その一方で、妖怪退治などの本来後世で創作されたエピソードが、魔力の存在するこの世界では現実に起きた出来事になってしまうなど、本作ならではの歴史の再構築が大変面白い。
だがやはり本作で一番注目すべきことは、特定の時代だけを描くのではなく、日本の歴史を本当に最初からやり尽くそうとするスケールの壮大さであろう。当初は原始人が槍でマンモスを狩っていたところから始まったのに、現在はだいぶ進んで、源頼光とその四天王が鬼に挑み、陰陽師・安倍晴明が式神を使役する平安時代に話が進んでいる。当然この先も源平合戦や数多の武将が台頭する戦国時代など、魅力的な時代がいくらでも待っているわけで……。この奇妙な日本がこの先どのような道をたどっていくのか? 日本史好きには決して見逃せない一作だ。
(「歴史を感じる4作!」/文=柿崎憲)
女性でありながら軍人として前線で戦い続けた美月。しかし、ある日の戦いで彼女は片目を失い軍を去ることに。失意のまま故郷に帰り何もすることなく日々を過ごす美月の下に、都の高級官僚から登用の報せが届く。彼女を呼びつけたのは検屍を特技とする提刑官・宋慈。彼の指導の下、美月は都で起きる数々の殺人事件に挑むことになる。
中華風ミステリーは以前から人気のジャンルではあるが、本作の面白いところは架空の時代や国を設定しているのではなく、13世紀の南宋という現実の土地と時代を舞台にしており、さらに探偵役となる宋慈も世界初の本格的な法医学書『洗冤集録』を記した実在の人物なのだ!
思わず目を逸らしたくなるような凄惨な死体を前にしても、けろっとした顔で冷静に分析を行い、困惑する人々の前でズケズケと真相を解き明かす宋慈。一見冷たい人間のようにも思えるが、その裏では冤罪を許さないという強い使命感が燃えており、軍人以外の生き方を知らない真面目な美月との組み合わせが大変いい味を出している。
登場する死体も刃物によるものから、焼死体や溺死体、首吊り死体などバリエーション豊富。宋慈はこれらの死体といかに向き合って、どのように真相を見出すのか? 一話一話の分量も程よく収まった短編集で、中華ミステリーが好きな人は要チェックですよ!
(「歴史を感じる4作!」/文=柿崎憲)