なにも起こらず仕事しかしていなかったゴールデンウィークが過ぎて早半月余り、私は相変わらずなにを起こすこともなく仕事をしています。と、人生があまりに沈み込んでいるので、この原稿がアップされた後ちょっと寄席を観に小旅行することにしました。帰ってきた後の自分が死ぬほど困ることを知りながら……
ちなみに旅行するぜーと決めた真相はゴールデンウィーク関係なく、ひと月程前にくさくさすることがあったからなのですが、いろいろ調整した結果5月下旬出発となり、今はくさくさも晴れていたりします。それで困るのですからもうなんのために出かけるのかまったくわからん状況ですが、仕方ない! うん、仕方ない!
薄暗いお話からのスタートとなりましたが、今月は金のたまご回ですよ。この春から学校や職場の新人となられた方も多いのではないでしょうか? 5月といえば慣れない環境で積もった苦辛が思わぬ形で表出してしまう時期でもありますよね。同じ“新”を掲げる作品に触れ、意気を燃え立たせて発気していただけましたら!
6歳児のロドリゴは唐突に前世を思い出した。下町貧乏暮らしの身分から抜け出し、素敵な人生を勝ち取るのだと決意した彼は、その翌日家具店に奉公へ。そして前世で得てきた社会人スキルと強靱なる心を武器に新たな生活で実績を積む。その先にある満ち足りたアーリーリタイアのために……!
ブラック企業勤めで過労死した前世を持つロドリゴ君がチートスキルで一発逆転――しないのです。よき未来を掴むため、自ら仕事を見つけに行って実行、魔法を始め知識を貪欲に学んでいって。超人的な能力よりも日本の伝統的な美徳で躍らせてくれる彼の有り様、やられましたねぇ。
異世界の表しかたもまた明確でよいのです。周囲の人は彼の異様な勤勉さを「変態」と表し、この世界の常識外であることをしっかり伝えている。そうして世界観の構築の巧さに感動すれば、改めてこんな角度から主人公像を描き出すか! とまた感動させられてしまうわけですよ。
見ていただきたいのはロドリゴ君という主人公! 彼が辿る成功の道をぜひ追いかけていただきたく!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
王太子アランに仕える侍女メアリー。彼女はアランを愛していた。男としてでなく、推しとして……。自らを腐っていると表す彼女は心を込めて王太子の世話に励む。有能な侍従に度々邪魔をされようと、飽きず、懲りず、諦めず、彼のすばらしさを直向きに愛で続け、心を滾らせる、いや腐らせ続けるのだ。
物語はメアリーこと“私”さんの独白で構成されているのですが、綴られるものは彼女がいかにアラン様を崇め奉っているか、本当にもう「それ!」なのですよ。え、こんなささいなことでそんなにときめく!? それもギャップ萌えにすり替えちゃう!? っていうか気持ち悪いんですけど!
そう、取り澄ました侍女しぐさの裏で気持ち悪いメアリーさんの思考が垂れ流されるばかりなのに、彼女が見せつけ、魅せつける、けして揺らぐことのない一途さがなんとも美しくて……気がつけばわたくし嵌まってしまっておりました。
とはいえ本作は恋愛もの。そして推し心と恋心はまさに紙一重です。その紙一枚の差が最後にどうなるものかは、本編にてご確認くださいね。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
使用人の“私”は仕えていた屋敷の主人へ辞意を伝える。理由は仕えて1年経ったから。……しかして牛鍋を貪る主人へ、彼女は「菜乃」として過去に仕えていた家のこと、自分を大事にしてくれたお嬢様のことを語り出した。そして、自分が彼女から教わった通り、欲望に忠実に生きるために辞めるのだと締めくくるのだった。
本作の謎はまさに「“私”がなぜ1年で屋敷を辞めるのか?」。おもしろいのは本来解答編として分けて語られるべきだろう真相が、“私”の口から滔々と語られることでミステリーの緊迫をホラーの悪寒が上回ってくる点です。
“私”の言葉は実に曖昧で、焦点をぼやかしながら進んでいきます。その曖昧が織り成す模糊をほろりと陰らせる得体の知れない恐さ、たまりません。
しかと語らず、されど明かして証す。ミステリーとホラーはそもそも領域を重ねるところがありますが、本作はその両者の融合が織り成した怪作と言えましょう。
“私”の欲望が果たされるとき如何様な真実が実るのか? いい意味で最悪の読後感をお楽しみください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
ウェブ小説の醍醐味でもある同志との交友。それをがんばりすぎてしまいがちな初心者へ向けて、ほろ苦い経験を積んできた先達初心者の霧原零時が差し出すがんばりすぎないことのすすめ。
ウェブ小説世界は書き手のみなさまの繋がりによって形成されたひとつの社会ですよね。魂を込めて書き上げ同志に読んでもらい、同志の作品を読んで、星やコメントを交わして輪を拡げていく。それはまさに醍醐味であるわけですが、熱量を高めるほどなにかのはずみに熱は冷めてしまう。
霧原さんは御自身の経験から、交流を「がんばらない」こと――交流が重荷になってしまわないように心を緩めることを、やわらかく伝えてくださっています。
誰かからぶつけられた悪意へも、差し伸べられた好意へも、真摯に向き合うほど追い詰められてしまうものですからね。この程々の精神は書き手さん御自身を守る最良の手段だと私なども思うのです。
日々創作にがんばっておられる方にこそがんばらない勇気を。そんな心得を授けてもらえるエッセイです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)