過酷な社会派現代ファンタジー

出産から始まる鮮烈な幕開け、八九式小銃の重み、夜に跋扈する死獣。
息をもつかせぬ展開に引き込まれました。
ある種デスゲームのような雰囲気が漂う序盤ですが、
その後には緻密な日常が描写されます。

夜に生まれた者は夜しか活動できません。
学校へ行っても窓の向こうは真っ暗闇。帰宅すれば、夜明けとともにベッドに潜り込まなければなりません。
どこか不健全な生活は、夜生まれである「夜勤」の歪さを象徴しています。

夜勤は死獣に対する防衛手段でしかなく、一般的な労働による生産性を備えることが出来ません。
ゆえに夜勤と昼生まれの間には埋めがたい格差が存在します。
文化レベルで隔絶しているといっても過言ではありません。
「夜勤」という突拍子もないアイデアを、これらの緻密な設定が後押ししリアリティを醸し出していました。

こうした描写から描き出されるのは主人公の抱く憤りとやるせなさ。
それは死獣への憎しみよりも強く滲み、理不尽な世界への怒りが読者にさえ牙を剥きます。
死獣との戦闘や夜勤の格差社会への怨嗟、或いは若者の群像劇としての魅力も備えた本作ですが、何より印象的なのは、閉塞感への憤りと打破だと感じました。

キャラクターではなく、設定とストーリーに語らせる骨太な作品です。
是非ご一読を。

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