人とアンドロイドのしっとりとした恋模様を描いた短編。
しかし本作は単なるラブストーリーではなく、見事などんでん返しが「人工物の心とは何か」というテーマに解答をもたらす。
主人公は女学生の七海。
彼女はある日、父から執事のアンドロイドを与えられる。
七海のために紅茶を淹れ静かに語る彼は人間にしか見えない。
しかし、あくまで機械なのだ。
その心は「人工的に」再現されたもの。
たとえ情緒豊かであったとしても、造り物の感情がどのようなものなのか、七海には想像できない。
その得体の知れなさがアンドロイドへの不信に繋がる。
けれど、どこか心惹かれてしまうのだ。
人が持つ「自然な」心はふとした拍子に恋をしてしまう。
理屈抜きで誰かを好きになる。
七海はまさに、執事であるアンドロイドに恋をしていた。
これは人形遊びの延長、疑似恋愛のようなもの。
分かっていながらも火照る顔。
そんな七海はある日、メンテナンスを受ける執事のもとを訪れたのだが……。
「心の在り方がわからない」というのは結構な恐怖で、ロボットやアンドロイドに対する不信感の大半はこれに由来します。
そして、人は他者の心の在り様を理解する方法を持っていません。
人間同士であれば、ある程度同じプロセスで思考します。
思想や嗜好が違っても分かり合う余地があるのです。
ですが人工物たるアンドロイドは、おそらく全くの別物。
人間が知覚できない領域や、理解できない理屈から心を生み出していきます。
そんな相手の心を理解するにはどうすればよいのか。
本作は、その一つの解答です。
この解答を導くために大きなどんでん返しが仕掛けられていますが、さらにもう一つ仕掛けが用意されています。
ラブストーリーとしても親子の物語としても胸打たれるラストを、ぜひ味わっていただきたいです。