この作品が文学であるのか哲学であるのか、それは受け取り手によって解釈のわかれる部分だろう。
黒い穴に落ちるという行為は、誰の人生にも起こりえる出来事でありながら、同時に人間の心の在り様を表現している。
それは人によっては歓喜であり、あるいは挫折である。
浮遊であり沈殿であるし、前進であり後退である。
苦痛でありつつ快楽でもあるし、悲劇でありつつ、とっておきの喜劇だ。
相反するようでそれは融和し融合し、最終的に一つの答えとして我々の前に提示される。
受け止め方によっては、読者を突き放したように感じるだろうが、実はとても優しく寄り添っている。そういう意味では、この作品そのものもまた、「黒い穴」なのである。
人類の永遠の課題に一つの答えを突き付ける快作ではあるが、穴へ落ちる事の対比として、空を飛ぶ鳥を使った表現には、安易さも感じられるし、「鳥」という存在によってイメージの固定が行われることにより、読者の想像する余地を僅かに削いでしまったのが残念だ。
それでも、今この時代に読む価値のある一作である事には間違いないのだろうと確信させるに足る、圧倒的な魅力を持った作品でした。
りえりーの前に突如現れた黒い穴。それは穴としてそこに確かに存在している。しかし、穴なのだから勿論空洞であり、空虚であり、存在していながらも非存在で、そこに在るはずなのに、そこに無い。その存在しながらもそこには何もない黒い穴は、りえりーが大切なものを失うごとに巨大化していく。血の繋がらない弟わたるや、唯一心を開くことのできていた相手黒田、みんなりえりーの前から去っていった。黒い穴はりえりーの心なのか、それとも大切なものを奪っていったなにかなのか。
正体不明の「穴」が、ここまで恐怖心を抱かせてくれるとは。ファンタジーでありながらリアルで、最後には少し涙も誘います。人間の欲望や恨み、嫉妬、恋心など繊細な感情描写も巧みで、どきりとさせられる場面もいくつもありました。
幸せの青い鳥が穴と対峙するラストは息を飲みつつも感動的なシーンでした。穴が消滅したとき、りえりーはやっと人としての幸福を感じることができたのだと思います。
間違いなくこの夏一番の衝撃作でした。
ヒロインが壁へ開いた穴を覗き込み、嘔吐する場面から始まるプロローグにまず度肝を抜かれました。
恐らくは九龍城砦をモデルにした、遥か天まで伸びるスラム街。チンピラの黒田(彼との友情とも恋愛とも言えない距離感がたまりません)の指示で、あちらこちらの部屋を縦横無尽に飛び回る運び屋兼娼婦の鳥人りえりーが主人公です。警察を出し抜くその機転と裏腹に、いなくなった弟に執着し、探し続ける姿はまるで幼い少女のようにいたいけで、思わず抱きしめてあげたくなりました。
逞しくて、刹那的で、楽しい事には笑い、辛い時は泣く。等身大の女の子りえりーに読んでいる間中声援を送っていたので、最後の展開は非常に衝撃的でした。時折描写されるカラスの、鳴き声が不吉に響く中、彼女が黒い穴と向き合った時に見たものは、本当に現実だったのでしょうか。ただただ、自分の中に潜んでいた怪物が見つめ返していただけなのでは?と思いました。
決して後味の良い話ではないのに、いつまでも余韻に浸っていたくなる物語です。
体を張って黒い穴を見せる筒を持ち、花火を打ち上げるりえりーの、その躍動的に飛び散る汗に感動しました。髪を振り乱し、「熱いヤバイよこれちょっ服これ燃え」などのセリフのルビに「女舐めんな! あたいも一人前の職人だ!」とあるのも、本音と建前のコントラストが素敵でとても好感が持てます。
わたるが「でも少し…この風…泣いています」と言ってほの暗い黒い穴の深淵から復活させた暗黒の不死鳥が、荒ぶる右腕を制御しようとする黒田にあきらめたら? とアドバイスするシーンなど、哲学的で深く腹筋に響きました。
異世界でもスタンド能力を失わない暗黒の不死鳥がラストで、「逆に考えるんだ、『あげちゃってもいいさ』と考えるんだ」と謎のモノローグを目にすることで、三角関係を終わらせる決断をし、バロスで世界を崩壊させたのには驚きましたが、その意外性がまたこのキャラの魅力だと思います。
面白かったです。
※このレビューに問題があれば削除します。また、運営さん、問題ありなら削除していただいてかまいませんので、よろしくお願いしますm(_ _)m
巨大地震の影響で異世界へと落ちてしまったりえりーとわたる。
そんな凸凹な2人が穴から穴へと巡り廻るSF(少し不思議)なお話。
異世界の影響か、穴が産み出す歪みの仕業か。
その答えを知る「カックー」と言う不死鳥を追い求め、
りえりーはわたると共に、穴と言う穴に落ちていくのです。
協力して異世界を巡る中で突然、わたるに異変が起こり…。
この話、「りえりーside」と「わたるside」があります。
私は「わたるside」を読んだ時に、純粋なわたるが愛おしかった。
わたる→ワタル→渉へと重ねてきた健気な想いは。
涙無しでは語れないし、彼の鼓動が聴こえて来る様でした。
「穴師」である黒田穴太郎が掘る事を止めない理由は?
そして、不死鳥「カックー」は、最後に2人へ何を語ったのか。
SF(少し不思議)な、淡くて優しい体験をしてみて下さい。