穴は生まれた、りえりーによって

りえりーの前に突如現れた黒い穴。それは穴としてそこに確かに存在している。しかし、穴なのだから勿論空洞であり、空虚であり、存在していながらも非存在で、そこに在るはずなのに、そこに無い。その存在しながらもそこには何もない黒い穴は、りえりーが大切なものを失うごとに巨大化していく。血の繋がらない弟わたるや、唯一心を開くことのできていた相手黒田、みんなりえりーの前から去っていった。黒い穴はりえりーの心なのか、それとも大切なものを奪っていったなにかなのか。
正体不明の「穴」が、ここまで恐怖心を抱かせてくれるとは。ファンタジーでありながらリアルで、最後には少し涙も誘います。人間の欲望や恨み、嫉妬、恋心など繊細な感情描写も巧みで、どきりとさせられる場面もいくつもありました。
幸せの青い鳥が穴と対峙するラストは息を飲みつつも感動的なシーンでした。穴が消滅したとき、りえりーはやっと人としての幸福を感じることができたのだと思います。
間違いなくこの夏一番の衝撃作でした。

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