深淵を覗き込んだ時

ヒロインが壁へ開いた穴を覗き込み、嘔吐する場面から始まるプロローグにまず度肝を抜かれました。

恐らくは九龍城砦をモデルにした、遥か天まで伸びるスラム街。チンピラの黒田(彼との友情とも恋愛とも言えない距離感がたまりません)の指示で、あちらこちらの部屋を縦横無尽に飛び回る運び屋兼娼婦の鳥人りえりーが主人公です。警察を出し抜くその機転と裏腹に、いなくなった弟に執着し、探し続ける姿はまるで幼い少女のようにいたいけで、思わず抱きしめてあげたくなりました。

逞しくて、刹那的で、楽しい事には笑い、辛い時は泣く。等身大の女の子りえりーに読んでいる間中声援を送っていたので、最後の展開は非常に衝撃的でした。時折描写されるカラスの、鳴き声が不吉に響く中、彼女が黒い穴と向き合った時に見たものは、本当に現実だったのでしょうか。ただただ、自分の中に潜んでいた怪物が見つめ返していただけなのでは?と思いました。

決して後味の良い話ではないのに、いつまでも余韻に浸っていたくなる物語です。

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