誰の人生にも生まれ得るからこそ、それは黒い穴なのだ。

この作品が文学であるのか哲学であるのか、それは受け取り手によって解釈のわかれる部分だろう。
黒い穴に落ちるという行為は、誰の人生にも起こりえる出来事でありながら、同時に人間の心の在り様を表現している。
それは人によっては歓喜であり、あるいは挫折である。
浮遊であり沈殿であるし、前進であり後退である。
苦痛でありつつ快楽でもあるし、悲劇でありつつ、とっておきの喜劇だ。
相反するようでそれは融和し融合し、最終的に一つの答えとして我々の前に提示される。
受け止め方によっては、読者を突き放したように感じるだろうが、実はとても優しく寄り添っている。そういう意味では、この作品そのものもまた、「黒い穴」なのである。
人類の永遠の課題に一つの答えを突き付ける快作ではあるが、穴へ落ちる事の対比として、空を飛ぶ鳥を使った表現には、安易さも感じられるし、「鳥」という存在によってイメージの固定が行われることにより、読者の想像する余地を僅かに削いでしまったのが残念だ。
それでも、今この時代に読む価値のある一作である事には間違いないのだろうと確信させるに足る、圧倒的な魅力を持った作品でした。

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