春は野球の季節! WBCがつい昨日終わったと思ったら、今日からは甲子園で春の選抜大会がスタート! さらに来週はプロ野球の開幕も控えており、まさに球春到来。そこで今回は野球小説4作品を紹介しよう。いずれも高校生が甲子園を目指すという王道の展開を描いた作品だが、目指す過程はいずれも個性的!
悪魔と契約して異常な力を手に入れたものの常識の範囲内でプレイしなくてはいけない3人組から、昭和にタイムリープした現代の一流球児、怪我といじめが原因で転校したけれど転校先で再起を目指す少年。中には元KGBの拷問官という前世持ちの球児という変わり種まで……! どれも似たテーマを扱っているだけに比較して読み進めるのも面白いですよ!
神の野球チームと戦う要員として、悪魔によって改造された高校生3人。常人離れした力を身につけた彼らに悪魔が命じたのは、高校野球の公式戦全勝。ただし、現世の野球の秩序を乱してはいけないという条件つき。その気になれば1000キロ超えのボールも投げられるが、そんな秩序を乱すプレイは当然許されず、真の実力を隠したまま高校野球に挑むことになるのだった……。
悪魔によって無茶な縛りプレイを課せられるという前提の時点で、それ以上に楽しいのがとにかく際立っている3人のキャラ。特にリーダー格であり物語の中心である田中東志がいい。傍若無人な性格と威勢のいい関西弁で他人を煽り、周囲を上手くコントロールしようとするのだが、家に帰ると頭を抱えて泣き言ばかり吐くというギャップがとても愛らしい。ちなみに残りの二人は勉強のしすぎで一般的な常識に欠けていたり、悪魔の改造の失敗のせいで「ぴよぴよ」としか喋れなくなってるので、この東志が3人の中で一番マトモな人物である。
こんな3人が周囲の人間を巻き込んで甲子園優勝を目指すのだが、周囲の人間も肩の消耗を避けるために高校では試合に一切出る気がない天才投手や、世界一の代理人を目指す美少女などいずれも変人ばかりで、彼らが織りなす日常の会話のやりとりがいちいち面白い。
もちろん、ちゃんと野球の試合もするし、悪魔の無茶ぶりに隠されたある秘密によって思わぬ苦戦も待ち構えている。シュールな設定とそれに負けないキャラのアクの強さで楽しませてくれる、コメディ風だけどしっかり熱い異色作だ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)
日本代表に選ばれるレベルの高校球児・東堂龍は、突然昭和時代の野球部員・西大路英虎の身体に憑依してしまう。令和に生きる彼からすれば当時の練習は非効率の極み。龍はその非効率さを監督に正面から指摘し、さらに体罰を行おうとする監督にカウンターパンチまで決めてしまう。
しかし、このことをきっかけに野球部の中心となった龍は、最新知識を活かした指導によってチームを改革していくことに。根性論や精神論が重視される当時の高校野球だが、現代っ子の龍はそうしたやり方をロジカルな形でズバズバと切っていく。
しかし、口先だけでは誰もついてくるわけがなく、当然中には反抗的な態度を取る部員も。本来なら二刀流のスーパーエースだった龍だが、いま彼が宿っているのはあくまで一般的な高校生である英虎の身体。この英虎の身体能力で、いかにして周囲から認めてもらえるだけの実力をつけるかという練習風景も見どころである。
また本作が優れているのは、昭和のやり方を全否定するのではなく、当時の部活動の美点にもきちんと目を向けている点だ。未来的な視点から正論を語る龍だが、その考えが常に正しいとは限らない。そうしたバランス感覚を備えているからこそ、本作は単なる知識チートにとどまらず、リアリティがある青春スポーツ小説として楽しめる作品だ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)
高校野球。それは夢にときめき、明日にきらめく球児たちが三年間をかける青春の舞台。そんな舞台に場違いにも現れたのは、旧ソ連の情報機関『KGB』の拷問官だった記憶を持つ黒鉄零。
前世で国の駒として使い倒された彼が新たな人生で望むのは、今度は自分が支配する側に回ること。その手始めに彼は自身が所属する弱小野球部を支配し、甲子園優勝を目指すのであった……そういうのは別の分野でやってもらえませんかね?
元KGBということもあって、この零のやり口がとことん狡猾でとことんあくどい。まず自校の部員に言うことを聞かせるために弱みを握って脅迫するし、当然敵チームにも同様の手を使い、さらには審判にまで及ぶ。しかし、野球はただ脅迫ばかりしているだけで勝てるような甘いスポーツではない! なので零は父の会社が開発したサプリだと言って、怪しげな薬物を部員に投与していく……。
一事が万事この調子で、表向きは快進撃を続ける零率いる灰谷高校だが、その裏では高校野球の秩序が徹底的に破壊される。野球に対する愛情を一切持たない男による、勝利のためにあらゆるものを冒涜していく超異色の野球ドラマ。変わった野球ものが読みたい人は是非どうぞ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)
スポーツ推薦で名門校に入学したものの、怪我によってろくに投げられなくなり、さらに他の部員からいじめを受けて転校することになった村雨慎吾。転校先では野球をするつもりのなかった慎吾だが、中学時代のクラスメートだった雪白芽衣と再会し、野球部のマネージャーをやっている彼女の誘いを受けて、再び野球と向き合うことに。
とはいっても慎吾がすぐに復帰するというわけではなく、その裏では芽衣の奮闘がある。中学時代から好きだった慎吾を野球の世界に戻すために色々とアプローチする芽衣の様子は大変可愛らしい。また個人的には慎吾を支える大人たちの描き方がとてもよく、無口で何を考えているのかわからない父親や、野球の素人ながらも意外な観点から野球部の在り方について語る顧問の先生がいい味を出している。
物語序盤は、復帰するまでの人間ドラマ要素やヒロインとの恋愛要素が多めだが、以前に同じチームにいたライバルとの関係性や、途中から入って来る大物ルーキーなど野球もののお約束はしっかり踏まえていて、物語の後半になると本格的に試合描写も多くなって、野球好きにも充分楽しめる内容に仕上がっている。
主人公の性格がやや淡泊なこともあって、泥臭さや執念といった要素はあまりないけれど、その分野球や部活動の楽しさがしっかりと描かれているスマートな一作だ。
(「球春到来! 野球小説特集!」4選/文=柿崎憲)