予定調和の物語を装飾して重厚感を高める作風 ―― それが作者の真骨頂

  • ★★★ Excellent!!!

殻に閉じこもった少年に接することで、彼の心を開こうとする少女。紆余曲折がありながら、両親や親友、さらに、亡き祖母に助けられながら、彼女はミッションをやり遂げ、最後は静かながら幸せなエンディングを迎える。

言い方は悪いが、「どこかで聞いたようなストーリー」。その設定を見た瞬間、展開やエンディングもある程度予想が付く、いわゆる「予定調和物」。普通に考えれば、お世辞にも食指が動くものとは言えず、可もなく不可もなくの評価が付いて回る。

しかし、作者の小説についてはそんな一般論が当てはまらない。それは、ストーリーの幹はもちろん枝葉の部分もさほどいじらないにもかかわらず、物語が重厚で興味深いものに変わるから。予定調和のストーリーをなぞりながら、その過程にある情景描写が楽しめる作品に化けるから。言い換えれば、一つ一つの景色や心情を丁寧かつ抒情的に描写することで作品が重厚な雰囲気を醸し出すから。

口で言うのは簡単だが、当該描写はそのさじ加減がとても難しく、足りなければストーリーが薄っぺらいものとなり、やり過ぎればくどいものとなり、いずれも読者は興醒めする。突飛な事件やイベントなどが盛り込まれる、アクションものであれば誤魔化しもきくが、フラットなストーリーでは、情景描写の善し悪しにより作品が駄作にも傑作にもなる。

そんな中、本作は読者を飽きさせないところがあり、それは作者の描写力に負うところが大きい。個人的に、作者の別の作品「星作り」と比べると、本作の描写はその表現方法や構成がイマイチに映るが、それは本作の経験を生かして「星作り」が書かれているものであり、本作を作者の原点として捉えてその変化を楽しむことができる。要は、良いところを見ながら読むか、粗探しをしながら読むかで評価が異なるわけだが、後者ははっきり言って、全うな人間がする読書ではない。

作者独自の作風により読者が心を動かされ感銘を受けたのは、他のレビューからも明らかであり、本作でも「物語の過程を楽しむ」といった作風が十二分に発揮されている。

本作を味わいながら、次回作に期待を抱いた、「一粒で二度美味しい」有意義な読書体験だった。

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