自分、娘、そしてお孫さん。血は争えないというイメージを引きずりながら読み進めていくと、ポッと光った蛍の存在で「新しい」ものを築き上げていこうという爽やかなシーンに突き当たる。武蔵野を育んできた自然は時代と共に変遷したが、蛍を増やすという目標ができたことで、武蔵野の自然もまた自ずと変化していくんじゃないかと、前向きなイメージを持たせてくれた素敵な作品。
「環境を変えれば自然も変わる=自分も変われば新しい人生が見えてくる」
限られた文字数の中で、無駄なく自然と心の持ちようが表現されてて、一度切りならず何度も往復して読み返したくなります☆
かつて柳瀬川という川のさらに支流で蛍を見た女性主人公の人生が淡々とした筆致で語られる文芸作品。
離婚してひとり娘と実家に戻った主人公は、景色が自分の頃とはまるで違っていることに気づく。やがてその娘が自分と同じように実家に戻ってくる。ひとり静かだった生活は孫中心の生活と変わってしまう。そして自分を見下すような娘。
もういなくなっていたと思っていた蛍がボランティアの手で増やされており、娘と孫と三人で見に行く。幼少の頃見た蛍に思いを馳せ、涙する主人公。心配した孫が声をかける。それをきっかけに、疎外感を感じていた主人公は若い二人に少し近づくことができ、人生の光への希望を持つ。
人生を諦めかけた主人公の苦い思いが静かに語られていき、読者はその中に引き込まれて行く。寂しい主人公の気持ちが伝わってくる。最後は、主人公の希望を後押しするような無数の蛍の明るい光に包まれ、爽やかな後味に変わる。
ちょうど梅雨時に目にしましたこちらの作品は、このところずっしりとしてたり起伏の激しい物語ばかり読んでいた私には、久しぶりに出会ったすっと心に染み入るお話です。
幼い頃に見た蛍の光の記憶から綴られる名もなき女性の一生は、彼女なりに悲喜こもごもだったのでしょう。変化に変化を重ねて積み重なっていく思いが、でも子や孫に受け継がれていく様は、そこに変わらないものもあることを匂わせます。
蛍の光に包まれながら迎えるラストまで読み終えて、思いがけず暖かい気持ちになれたこと、このお話に出会えたことに感謝したい。
色々と慌ただしい昨今、こういうお話こそ多くの人に読んで欲しいと思い、久々にレビューを書きました。短いお話ですので、ちょっとした合間にも是非お目通し下さい。