武蔵野の蛍を軸に女性主人公の人生の変遷と心の移ろいを綴った秀作

かつて柳瀬川という川のさらに支流で蛍を見た女性主人公の人生が淡々とした筆致で語られる文芸作品。

離婚してひとり娘と実家に戻った主人公は、景色が自分の頃とはまるで違っていることに気づく。やがてその娘が自分と同じように実家に戻ってくる。ひとり静かだった生活は孫中心の生活と変わってしまう。そして自分を見下すような娘。
もういなくなっていたと思っていた蛍がボランティアの手で増やされており、娘と孫と三人で見に行く。幼少の頃見た蛍に思いを馳せ、涙する主人公。心配した孫が声をかける。それをきっかけに、疎外感を感じていた主人公は若い二人に少し近づくことができ、人生の光への希望を持つ。

人生を諦めかけた主人公の苦い思いが静かに語られていき、読者はその中に引き込まれて行く。寂しい主人公の気持ちが伝わってくる。最後は、主人公の希望を後押しするような無数の蛍の明るい光に包まれ、爽やかな後味に変わる。

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