原色メタファ

　コミカルな語感も面白いのが作者様のご手腕、今回は笑わせてくるのかっ……と思っていたら、一首一首を詠んでいく内に惹き込まれ、ラストには切ない余韻が残る……。
　今回も思いっきり、してやられました……心に残る名作、お見事です！

　一首ごとに色がついている感覚。コミカルなら明るい色、疾走するような情動カラー、切なさには深く涼やかな色味……短歌それぞれにメタファを織り込むのは、本当に深く考え込まれている、と思います。

　そうして詠んだ人の中に生まれた色たちが、混ざり合い、多くの色彩を生んでいく……。
　色彩の海に揺蕩うような心地よさ、是非とも作品に触れてみて、体験して頂きたいです。是非ともご一…続きを読む

『原色メタファ』は、現代都市の雑踏と、そこに生きる人々の感情を、鋭く、鮮烈に切り取った連作です。

パンケーキに自由を問う冒頭から、渋谷の猥雑さ、空港の人混み、駅のホーム、メールの「ありがとう」まで、日常の風景に潜む「感情の原色」を抽出しています。

短歌という器で、色鮮やかに、疾走しています。

私が惹かれたのは、「最善の孤立とは、あらゆる人が手を合わせている初日の出のいっとき」。

読むたびに、言葉の温度が変わる。読むたびに、自分の感情が揺れる。
そんな、「読む行為も原色になる」作品でした。

メタファ(暗喩)の咲き乱れる短歌の連打に打ちのめされました。

時に激しく突き放され、
時に激しく巻き込まれ、
その守備範囲の広さと潜在能力の深さに感嘆するのです。

口語自由律短歌と言えなくもないのですが、
それとは一線を画した斬新な独自の歌風で、
ワードチョイスも抜群。

見たこともない世界が、
どこまでもどこまでも広がっていくようです。

どの短歌も秀逸ですが、
特に心に響いた短歌2首を紹介しておきましょう。

ちりあくた東京のすみ軽々に、きもいコンプラかざすヒャッハーさん達

連続した絶望を印字する毎日よ、チャリンコの立ち漕ぎなら負けない

是非声に出して読んでみてほしい

そして、作者様の感性にぶん殴られてほしい


どの言葉を手に取っても、
色があり、音があり、動きがあり


私はその言葉を綺麗な箱にいれて
持ち歩きたいほど

お読みになられましたあなたが感じた色は？
どの首が、どのことばが？　とおたずねしたい気持ちにもなりますが、きっと、そっとお心に、という方もおられることでしょう。
そんなふうに、とてもうつくしい色と、ことばたちが溢れた10首連作でございます。

とりどりの首たちの色を、ことばを楽しんで、味わって読んで頂けたらと存じます。

すばらしい色たちと、ことばたちを。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

日々の都会がまとう、煩わしい喧騒と。
特別な日にだけ訪れる、最善の孤立と。

絶望を連ねた毎日への、ささやかな抵抗と。
世界が柔らかくなった君の、心の温もりと。

対比感を兼ねつつ、その思いの底に眠る恋の帯がほどかれていく連首。
それぞれの光景が原色を帯びようと、メタファへの委ねが心をゆるがしていくのが印象的です。
乾いた心に靡く風が心地よいように。

原色とは混合することであらゆる種類の色を生み出せる元になる色。

この作品は、シンプルな言葉の積み重ねで、たくさんの感情の色を表しているのではないかと感じました。

私はいつも福山様の作品には、柔らかく濡れた印象を感じ取るのですが、これは涙を流すことのない乾いた哀しみや孤独が表現されているように思います。

まさしくメタファ（隠喩）。
おすすめです。

現代の喧騒と孤独、そこにある心の隙間を描いた詩的な表現達が印象的な連首です。

「真実の自由」や「最善の孤立」など、自由や関係性に対する懐疑的な視点が私の心に響きます。

都市の無機質な風景の中に、微細な人間的な情感が溶け込んでいるために、無機質なのにどこか温かい、でもとてつもなく孤独な感覚を抱かせる作品群です。


個人的には最後の一首が心に残りました。

なぜだろう？
過去の恋愛の感情が怒涛のように押し寄せてきて
あのときの切なさや孤独やさみしさが
リアルに蘇って
わたしは涙を流したのです。
捨ててしまった、或いは蓋をした感情が開いて、わたしをすっぽり包み込んだのです。

たとえば「パンケーキ」という言葉から、昨日食べたパンケーキじゃなくて、
ずっと若い頃、大好きだった人と食べたパンケーキが蘇ったのでした。
味も匂いも。笑顔も。
そのときの思いも。

多分これ、読み手によって全然違う印象になるのでは？
非常に興味深い。

悲しくなる？
切なくなる？
きゅんとする？
嬉しくなる？

とても興味深いです。

さぁ、まずは読んでください。
あなたには何色に見えるのでしょう？

楽しませていただきました。
コメント欄が楽しみです。