赤いゼラニウム編第5話

心臓がうるさく鳴ってるのに、陽太の声が鼓膜を打つように聞こえる。


「……なんで、私、なんか……?」


「私なんか。じゃない。心音が好きだから告白したんだよ。」


陽太は私の目をじっと見つめ、私の手を人形に触れるように掴む。


「で、でも、私これからも酷いこと言っちゃうかもだよ?」


「大丈夫。心音が本当は優しいこと知ってるし、これから少しづつ本音を出せるように頑張るんでしょ?」


「反応も悪いし。」


「誰でもコンプレックスはあるからねー!」


「こんなカッコイイ陽太に彼氏になってもらう自信もない。」


「カッコイイかな?心音にそう思ってもらって嬉しい!もちろん心音も可愛いから大丈夫!」


「だから……!」


「もう無い?」


不安で暴走してる私に陽太は大人のように余裕を持って優しい顔でいる。私は馬鹿だ。こんなに私を思ってくれる陽太が恋人になりたいと言っているのに。私も好きなのに抵抗するなんて。

私の心のコップの蓋を開けてもいいのかな?


「……よろしくお願いします。」


顔が熱いのとずっと欲しかったものを手に入れたように溢れる感情を誤魔化すために初めて自分から抱きつく。


「……可愛すぎるよ!」


陽太は強く抱きしめ返してくれる。顔は見えないけど私の肩が濡れたことに気づき陽太も私と同じなんだ。とどこかホッとした。



「ねえ、友達に心音と付き合ったって言ってもいい?」


陽太は私が不安にならないように2人に関係することはきちんと確認をとってくれる。


「……嫌。」


本当は私も陽太と付き合ったと言いたい。もう陽太にベタベタ触らないで。って。でも、怖い。陽太と話しただけで、痛い視線を送ってくるのに付き合ったなんて言ったら。もう。


「……そっか。その代わり、放課後、一緒に居てもいい?」


陽太は私の考えがお見通しみたいで私の意見を認めてくれた。


「うん。ありがとう。」



「やっぱりお花は綺麗だな……。」


陽太と付き合った翌日、顔を見るだけで私の顔から火が吹きそうで、上手く話せなくても陽太は優しく包み込んでくれる。


「そういえば、花屋さんに貰ったお花が。」


家で飾ってる花屋さんから貰ったお花が元気がない。今日の放課後に花屋さんに行ってみようかな?


「君、何してる!」


突然の大声に振り返ると強そうな見た目の男の子に綺麗な清楚系の女の子が立っていた。もしかして花を荒らされてると思ったかな。謝ってこの場を去ろうかな?すると、陽太の大丈夫という声が聞こえた気がした。そうだよね。陽太以外とも仲良くしないと!


「ごめんなさい!私、花が好きで綺麗に整えられてる花だな、とつい見ていただけで。」


やった!上手く話せた!


「そ、そうか!この花の手入れは俺たちが頑張ってるんだ!」


「あなた、素敵ね。よかったら私たちと花を綺麗にするボランティア、やらない?」


久しぶりに人と関わろうと頑張ったら良い結果に進みそう?かな。

「はい!お願いします!」



「っていう感じでね!明日から放課後に会えるの遅くなるかも。」


まだ声は小さいけど陽太の練習のおかげで話せるようになった!と嬉しくなって陽太に話した。


「そっか。会う時間が短くなるのは悲しいけど頑張ってね!」


私は陽太の言葉の表面上だけを聞いて、その時の陽太の顔を見ていなかった。


「でも、可愛いもの好きとは聞いてたけど花も好きなんだ?」


「うん!あれは、昔、好きだった同級生に傷つけられて人間不信になった時、」


〜回想〜

クラスメイトも失い、反応も悪くなり1人になってしまっていつも通り公園でブランコを漕ぎながら泣いていると、


『あら、あなた、この花みたいに元気がないじゃない。』


見ず知らずのお姉さんに話しかけられとても警戒していると、


『このお花を今から元気にするの!一緒に手伝ってくれない?』


あまりにもグイグイ来すぎて戸惑っているとお姉さんは水道へ向かう。怪しい人だけど気になり除くと、


『これね、スーパーで買ったんだけど、処理の仕方が悪くて帰ってる途中でしおれちゃって。あなたも水を入れるの手伝ってくれない?』


『え……すごい量。』


お姉さんは軽そうなリュックから大量の花とキッチンペーパーとアルミホイルを取り出した。怪しいけどこれをするだけならいいのかな?付いていく訳じゃないし。


『分かった。』


私達は無言でひたすらお花の手入れをした。


『わあ……。綺麗。』


今までだって見た事あるのに自分の手で手入れした花を見ると特に綺麗に見える。


『ふふ。そうでしょ?ねえ、あなた明日もここに居る?よかったら、ここでお話しない?』


お姉さんは花の魅力に気づいたことを嬉しそうにしている。よく見ると、まだ若くて高校生ぐらい。どこか行くわけじゃないし良いのかな。


『……うん。待ってる。』


そしてお姉さんと出会った。お姉さんは色んな花の話をしてくれて本も見せてくれた。


『お姉さん!なんて呼んだらいい?』


『うーん。そうだなー!


ハーデンベルギアのお姉さんって呼んで!』


『ハーデン?』


『ハーデンベルギアはね、出会えてよかったという花言葉があるの!だから、この出会いに感謝して私はハーデンベルギアのお姉さんって呼んでね!』


そうして出会ったけど数年経ったら来なくなってしまった。唯一の友達と思っていたから心にぽっかり穴が空いたようだった。

〜現在〜

「辛かったけどまた会えたらいいなと思ってるよ。」


「いい人でよかったね。お友達作るのも頑張ってね。

……でも俺もそばに居るからね。」


「うん、ありがとう!あ、そういえば、私出かけなきゃ!」


今日、花屋さんに行こうとしてたのを思い出した!


「ごめんね!帰ってきたら一緒に居ようね!」


「うん。大丈夫だよ。行ってらっしゃい。」



「俺だけが心音の魅力を知ってればよかったから背中押さなければよかった。」

唇を噛んで涙を堪えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る