紫のリナリア編

紫のリナリア編第1話

「さっちゃん、そばにいて……。」


私はベッドで横になっている翔ちゃんの熱いおでこを撫でる。


「大丈夫。小夜がそばに居るから……!ずっと!」


私の声が届いたのか熱で真っ赤のぷくぷくほっぺは口角が上がり頷く。熱なので反応が薄いが仕方ない。


「安心して、寝てね!

おやすみなさい。」


私が手を握ると翔ちゃんは大きな目を閉じた。



数年後……。

「翔ちゃん!おはよう!」


私はガラッと扉を開けてベッドに寝てる翔ちゃんに挨拶をする。


「おはよ、さっちゃん。今日も元気だね。」


翔ちゃんはいつも通り大仏様のような雰囲気で少し咳をしながら笑顔で私を見つめてる。


「今日は、翔ちゃんの好きなサスペンスの小説を持ってきました!」


私はカーテンを開けてカバンから小説を取り出して翔ちゃんに渡す。


「ありがとう。」


やっぱり小説好きなんだな。って顔してる。大好きな小説を受け取っても私が話そうとしてる時は読まないのは偉いよね!


私、「さっちゃん」こと、七海 小夜(ななみ さよ)は少しだけ光のように明るくて少しだけ人より傷つきやすいただの女子高校生だ。そんな私には大切な人がいる。

彼、「翔ちゃん」こと、久東 翔(くとう しょう)は生まれつき病弱で入退院を繰り返していて人生のほとんどを病院で過ごしている。翔ちゃんは親が忙しいので、生まれたときから毎日会ってる、私が1番、翔ちゃんといると思う。

大好きだけど、最近その愛情の変化を感じてる。


「翔ちゃん、今日の調子はどう?」


翔ちゃんはもう高校生なのに思春期が無くどこまでも優しいので今日も私の目を見つめる。愛情の変化が起きてからは少し照れるけど。


「大丈夫だよ。さっちゃん、今日も可愛いね。」


「ありがとう。」


翔ちゃんは昔から可愛いと言う。でもその中にあるのは友情で、決して私みたいなドロドロの重い感情では無い。

恋を自覚した時はとても戸惑った。

なんで、こんなに意識するのか、

なんで、こんなに色んな感情が渦巻くのか、

なんで、こんなに

胸が高鳴るのか。

翔ちゃんはいつまで生きられるか分からない。だから後悔しないようにしているが告白する勇気は無いし、昔から誰か好きな人がいるのは気づいてる。

でも、それが『私』か、他の子か。

聞く勇気は無い。なのに待ってる自分がダサい。やらない後悔よりやる後悔だよね!

言ってしまおうか。


「しょ、「プルプル」」


なんでこういう時に電話がかかってくるの?


「翔ちゃん、ごめんね。電話してくる。ついでにグミとか買ってくるね!」


翔ちゃんはグミが大好きだけど、今日忘れてきたから電話ついでに買ってこよう。


「ありがとう。でも、そんなに何回もお見舞い持ってこなくてもいいんだよ?俺はさっちゃんが来てくれるだけで嬉しい。」


翔ちゃんは笑うけど本音が昔ほど分からない。


「ありがとう。でも、翔ちゃんに少しでも幸せになってほしいの。気にしなくてもたまにだからね!」


そして、私は病室を出て電話に出た。



「これかな?」


電話は親からの何時に帰ってくるかの電話だった。今日は休日で家を出る時にお母さんが出かけていたから家に帰る時間を言い忘れていた。

そして、今はグミを見てる。翔ちゃんの好きだったはずの種類があったから選ぶ。私は甘いもの苦手だからこういうのは食べないんだよね。でも、翔ちゃんは昔、勘違いしていた。

翔ちゃんが甘いもの好きだと思っていて、(甘いものは普通の男の子ぐらい好き)

私は翔ちゃんが気を使わないように分けるね!と言って渡していたら、

翔ちゃんはてっきり私が甘いもの好きだと、思い込んでいたの!

今は勘違いが解けたけど気づいた時は大笑いした。


「あれ!?小夜!」


「あ!やほ!」


聞き覚えのある声に振り返ると友達の百花(もか)が病院にいる割には元気そうな姿でいた。


「百花なんでいるの?」


「友達のお見舞いだよ!小夜は?」


翔ちゃんは人気者でモテるけど、入院してる病院はイツメンと私しか知らない。


「絶対周りに言わない?」


百花は何でこんなに厳しいのか頭に、はてなマークを浮かばせている。


「?うん。いいよ!」


あまり言いたくないけど百花を信用して意を決して口を開く。


「翔のお見舞い。」


「ええー!?九東君、この病院にいるの!?」


ほら、やっぱりこうなった。でも、百花は約束守ってくれるよね?


「会いたいな!」


「はい?」


私は予想外の言葉に思わず首を傾げてしまった。


「お願い!会いたいな!」


百花はお願いを良くしてくる。でも、私も助けてもらったことがあるからつい叶えてしまう。でも、今回は話が違う。


「だめ。」


「お願い!

……会えなかったら『もしかしたら、』口を滑らす。かも……!」


おお。小さな声でとんでもないこと言うな。でも、それを言われたらどうしようもない。


「分かった。少しだけね。あと、内緒にしてね。」


「うん!」


私は百花を連れて病室へ戻った。


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