紫のリナリア編第2話

「さっちゃん、おかえり。」


扉を開けると百花は一瞬で借りてきた猫のようになった。


「君はさっちゃんの友達だね?どうしたのかな?」


今の翔ちゃんは愛想良く振舞ってるけど、結構ピリピリしてる。


「しょ「あの!」」


謝ろうとしたら百花が遮る。


「突然なんですけど、

好きな人っていますか……!?」


胸が嫌な音を鳴ってる。冷や汗が出てくる。でも、私が今日、聞こうとしたことなので、私の口から聞かなくて済むから少しホッとしてる。

「……居るよ。昔から。甘いもの好きな。」


え、いるの?しかも昔から?それに甘いものってことは絶対私じゃない。私は甘いもの苦手だから。私は崩れ落ちそうな膝をなんとか耐える。


「そうなんですね!気になっただけです!叶うといいですね!」


「うん、そうだね。」


百花は全然ショックを受けてなく、まるで、私のために聞いてくれたようだ。


「あ!時間だ!わざわざ通してくれたのにごめんね!そろそろ行くね!また学校で!」


百花は嵐のように去っていった。翔はいつも通りのんびひとしている。


「ごめんね。連れてきちゃって。」


「仕方ないよ。さっちゃんの友達だからね。」


「……ありがとう。

……あ、ごめんね。用事があるからもう今日は帰るね。」


翔ちゃんの目に全てを見透かされそうで、私は用事なんて無いのに理由をつけて逃げた。


「知らなかった。」


ずっとそばにいたのに知らなかった。好きだけど、翔ちゃんの気持ちを思うと応援したい。この気持ちはどう処理したらいいのか。


「きゃ!」


「あ!ごめんなさい!」


ボーッと歩いてた私が悪いけど、掃除をしてた人の水がかかってしまった。冷たい水が悩んでいる頭を冷やしてくれたから怒りは湧いてこなかった。


「大丈夫ですか!?」


水を止めて私の様子を見に来た人はエプロンを付けた綺麗な女の人。その瞬間、


『さっちゃん!幼なじみ君は今日も元気?』


ハーデンベルギアのお姉さんという人が頭をよぎった。


「ハーデンベルギアのお姉さん!」


ずっと探していた。ある日から急に消えてしまったから。


「ハーデンベルギア?素敵なあだ名ね!」


女の人はポカンとした後、何かわからないけど名前が気に入ったのか褒めてくれた。この反応は違うのかな。


「話はあとで、とりあえずこれで体拭いて!せっかくならここ私の店だから入って!飲み物用意するわ!」


遠慮する暇もなく女の人はグイグイと笑顔で勧めてくる。本当は申し訳ないけどこの人の圧には勝てない。そう思い大人しく入る。


「わあ!」


お姉さんの店は花屋だった。私は昔から花は好きだったけどハーデンベルギアのお姉さんに色々教えてもらったんだよね。

ハーデンベルギアのお姉さんとは、私が幼い頃に近くに住んでいたお姉さんでよく遊んでくれてたがこのあだ名で呼んでいたため本名は知らない。だが、ある日まるで存在しなかったように跡形もなく消えてしまった。ずっと探しているけど花屋さんはよく似てるんだよね。私はジーッと見つめる。


「そんなに見つめても何も出てこないわよ。」


花屋さんはフフフと微笑みながらお茶を私に渡す。


「あ、すみません。」


「いいのよ。

……ねえ、お時間あるかしら?良ければ私は休憩時間だから、話し相手になってくれない?」


「いいですよ。」


私も時間あったし、ハーデンベルギアのお姉さんみたいで話をしたくなった。


「あなたも恋に悩んでるでしょう?」


その瞬間まるでブランコに大きくなって乗ったようにドキッと心臓が上がった。


「……はい。

好きだけど、彼も好きな人がいて、諦めなきゃって……。でも。」


私は初対面な人だから、顔を隠して静かに涙をこぼす。


「そう。話してくれてありがとう。辛いよね。」


花屋さんは立ち上がり何か探している。


「そしたら、あなたにはこの花を渡すわ。」


そう言ってひとつの花を差し出す。私は不思議すぎて涙が引っ込んだので受け取る。


「これは紫のリナリア。花言葉は、この恋に気づいて。よ。きっと叶うわ。」


「ありがとう、ございます。」


花の1個1個が小さくてかわいい。この恋に気づいて、か。私はどうすればいいのかな?

この花は私の気持ちを代弁している。好きだけど応援したいから私の口からは言わない。でも気づいてほしい。と。

わがままだよね。本来は違う意味だと思うけど、今の私にはこういう解釈が出来た。


「ちなみに私の店にある花は特別なの。

あなたと彼の愛情を表しているの。

だから、花が枯れる時、あなた達の恋はもう……。」


花屋さんは最後一瞬過去の切ない記憶を思い出したようなな顔をしたがすぐ戻った。


「だから、丁寧に育ててあげて。」


そんなに不思議な花とは思ってなかった。私は花を撫でる。



その後、話し方も考え方もお姉さんみたいで、口角が上がりながら雑談していると、


「幼なじみ君、元気?」


「……え?」


花屋さんは何を考えているか分からない笑顔で思わず言ってしまったという感じではなくて意識して言ったようで、

私は言葉が出てこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る