赤いゼラニウム編第9話

「……あ、ありがとう。」


「こんな所で泣いてどうしたの?」


フルーツ味のグミを受け取ると女の子に勧められ有難く開けて1つ食べる。


「……彼氏が交通事故にあって昏睡で。」


陽太とまだやりたいこと沢山あるのに。出会って間もないのに……。


「……そうなの。」


女の子は私の隣の椅子にゆっくり座る。


「私の話だけど、私、元気そうでしょ?」


女の子は手をあげて力こぶを作るけど、筋肉は全然無い。私は頭を上から下に動かす。


「その通り!病気は無いの。なのに何故、病院にいるかって?

それは、お見舞いに来たの。」


頑張って明るく演じようとしてるが、本当は何かを恐れてるようだ。


「幼なじみが病弱なの。入退院を繰り返してるの。」


女の子の笑顔は引きつっている。入退院を繰り返すっていつどうなるか分からないんだよね。今の陽太の状態も誰が見ても不安だけど、女の子の幼なじみのように入退院してるのも不安だよね。


「……でもね!最近体にあう薬が見つかってだいぶ安定してるし、沢山お喋りもできるの。

だから、もしもの時に後悔しないように頑張ってるの!」


その笑顔は吹っ切れたようでとても眩しい。私ももっと後悔しないようにすれば良かった。


「小夜(さよ)ー?」


遠くから高い男の子の声がすると女の子は立ち上がる。


「あ!ごめんね、幼なじみに呼ばれたから行くね!また会えるといいね!」


この子は小夜って言うんだ。小夜さんは幸せそうに駆け寄る。姿は見えなくなったけど小夜さんのカップルのようにはしゃいでる声がする。ただの幼なじみじゃないのかな?陽太と話したいな。とふと頭をよぎる。


「あ、帰らなきゃ。」


陽太に会いたくて慌てて、ぬるくなった飲み物を持って病室へ戻る。


「戻りました。」


扉を開けても陽太は目を閉じたまま。今にもあの太陽のような笑顔を見せてくれそうでとても昏睡とは思えない。


「心音ちゃん。さっき先生が来てね。あと少しで目を覚まさないと、覚める可能性も下がるし後遺症も残るかもしれないって。だから、早く起きてって手を握ってくれない?」


そんなにやばいの?嫌だよ陽太。

『これからは一緒に悩み事を解決していくよ。』

って言ってくれたじゃん。

私は震える手で陽太の手を握る。


「お願い……。起きて……!」


涙がポツンと陽太の手に落ちると、


「陽太!?」

「心音ちゃん!もっと声をかけてあげて!」


一瞬だけ指がピクリと動き、反応した。それに私と陽太のお母さんは気づいた。私は心臓が早く動きながら手を強く握り『起きて!』と心の叫びをあげる。


お願い!早く!早く!


陽太、目を覚まして……。


震えた声で願った。


「こ、こね?」


目を瞑っていて気が付かなかったが幻聴にしてははっきり聞こえてきて目を開けた。


「陽太!!」


私は嗚咽を漏らしながら止まらない涙をゴシゴシと拭く。陽太のお母さんは陽太を強く抱きしめている。


「……心音。大丈夫だよ。一緒に居るって言ったでしょ?」


陽太は弱い力だけど離さないように私の手を握った。


「……うん!」

そして陽太は検査をしたけど後遺症は無く、無事に昏睡から目を覚ました。



「陽太。目覚めてくれてありがとう。」


「出会った時には信じられないぐらいに甘くなったね。俺は嬉しいけど!」


今日で退院日。私は入院中も毎日通って、前より甘えることにした。だって色んな人のおかげで1秒1秒を大切にしなきゃと思ったから。

でもまだ自分からは恥ずかしいから隣に座っているだけだけど。


「陽太。ずっと聞きたかったんだけど。 」


怖い。でももう後悔したくない……!

私の重大そうな雰囲気を見て陽太も真剣な顔になる。


「どうした?」


「事故前に仲良くしてたあの女の子誰?」


陽太は誰のことか分からないみたいで悩んでいる。もしかして分からないほど遊んでいる相手がいるとか……?!


「あ!あの子はね……。

いや、来週まで待っててくれない?

もしかして嫉妬してくれた?」


心配することは何もないと言わんばかりの顔に少しほっとする。そして嫉妬してる事は分かってたけど言われると恥ずかしい!


「……うん。そうだよ。

だって、私、す、……き、だから!」


初めての愛の告白に陽太はその後、太陽がさらに明るくなるように喜んでいた。



「お邪魔します。」


退院から1週間後。約束の女の子の正体が分かる日。陽太と毎日会ってたけど、浮気をしてるような感じではなかった。

少し怖い未来を想像しながら扉を開ける。


「Happybirthday!」


そこには私の好きな料理と

私の好きな青の系統の飾りと

大量のプレゼント。


そういえば、私の誕生日が今日だ。


「この子は俺の従兄弟で心音のプレゼントは何がいいか聞くために協力してもらったけど、心音に嫉妬させるなら失敗だったかな?」


従兄弟だったのか。嫉妬はしたけど嬉しい!

陽太が今日も私を思ってくれて嬉しい!

その日の夜、赤いゼラニウムを見ると新品同様に綺麗になっていた。


赤いゼラニウム編end

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