紫のリナリア編第7話

「それで、その手に持ってるのは何?」


なんか誤魔化してるようだけど、きっと聞いても、はぐらされてしまうだろうと思い、今は黙る。


「これは、翔ちゃんへ。

付き合った記念だよ!」


私は両手で「いつまでも一緒に居てほしい。」と思いながら渡す。


「ありがとう!これはガーベラ?」


予想外の展開みたいだけど、翔ちゃんも花が好きだからふわっと眩しい笑みを見せる。


「うん!ガーベラ。」


花言葉は言わない。時が来たら、

ああ、こんなに好きなんだと気付いてほしい

のと、

重すぎると思われたくない気持ちの狭間のため、何も言わない。


「大切にするね!」



「こんにちは。小夜先輩。」


今日も大好きな花梨ちゃんとお昼ご飯。ニコニコしてるのによく怯えていて親しい人にしか心を許さない花梨ちゃんが可愛くて仕方ない!

「こんにちは!今日もニコニコだね!」


「小夜先輩と食べれるのが嬉しくて!」


花梨ちゃんはパァーっと光を放っている。本当にいつ会っても眩しいな。


「ありがとう!じゃあ、ご飯食べようか!」



「そういえば、小夜先輩、九東先輩と付き合ってないんですか?」


「え。

絶対に他の人に言わないで欲しいんだけど、」


私は言おうか迷ったが花梨ちゃんは約束を守ってくれてると信じてるから言うことにした。私は花梨ちゃんの耳元に近寄る。


「付き合ったよ。」


「え!本当ですか!良かったです!」


花梨ちゃんはパチパチと手を小さな音で叩く。


「じゃああの噂は嘘なんですね!」


「噂?って何?」


「え!教えますね!」


花梨ちゃんはこの事を聞きたかったようで、丁寧に説明してくれた。なんでも、とある私たちの同級生の女の子が翔ちゃんと付き合ったと言いふらしてるみたい。


「何それ……!?それって誰?」


知らなかった。翔ちゃんは今入院中。それを良いように使ってるのか、それとも……。嫌な想像が脳裏を巡る。


「確か、有名な高橋 緑(たかはし みどり)先輩ですね!」


「あ!」


分かった。昨日に翔ちゃんの病室から出てきた子だ!嫌な予感がさらに増す。だって、隠すようなことがなければ話してくれるよね?


「大丈夫ですか?小夜先輩。」


暗い気持ちになって嫌な妄想ばかりしていると、花梨ちゃんが視界に入ってハッとなる。


「ごめんね。大丈夫だよ。」


「大丈夫そうに見えません!私は小夜先輩が幸せな恋を応援してます!」


花梨ちゃんが珍しく熱くなって大きな声で話してるのを見て、翔ちゃんとの恋は公に出来なかったから(翔ちゃんのファンが居るから)私の恋を応援してくれる人がいるのに胸の奥がジーンとする。


「ありがとう……!私、頑張るね!」


こんなに励ましてくれたから花梨ちゃんに何かがあったら応援してあげなきゃね!



「お邪魔します!」


今日は翔ちゃんに高橋さんの事を聞きに来た。


「おはよう。さっちゃんは今日も可愛いね。」


こんなことを言うならやっぱり高橋さんとの噂は嘘なのかな?


「あの、さ。」


「うん?どうした?」


思わず私の気が緩む翔ちゃんの笑みに安心してゆっくり口を開く。


「最近、さ。翔ちゃんと高橋さんが付き合ってるという噂があるんだけど。」


「らしいね。大丈夫だよ。俺はさっちゃん一筋だから。」


翔ちゃんは断言してくれたのでそこは一安心。でも浮気する人って平気で嘘つくからな。いやでも、翔ちゃんはそんなこと……。

頭の中で天使と悪魔がぐるぐる戦っている。


「隠しごとは出しちゃった方がいい場合もあるよね。」


それは翔ちゃんが隠しごとをしてるのか、私が翔ちゃんとの関係を内緒にしてることなのか。


「そうだね。」


翔ちゃんの瞳は素直すぎて、私がみんなに私たちの関係を言わないことが申し訳なく感じた。



「翔ちゃん!!」


その数日後、なんと翔ちゃんの体調が良くなり久々に退院することになった。また入院するだろうけど、この時間を大切にしたい。


「迎えに来てくれたの?」


「うん!」


私はルンルンで翔ちゃんのベッドの隣に椅子を置いて座る。


「嬉しいんだけど、今日、少し予定があって家に帰って少しゆっくりしたら解散でもいいかな?」


嫌な汗が滲み出てくる。理由は3つ。

その1、おっつんたちのイツメンと遊ぶならいつも名前を言う。

その2、翔ちゃんは人嫌いだから友達は少ない。

その3、翔ちゃんのお母さんも今日は仕事。

ということは相手は?


「誰と会うの?」


「友達。」


笑った顔が私以外に向ける作られた笑顔で背筋がゾワッとする。こんな顔、私にしたことないのに。


「友達って「さっちゃん。今日はごめんね。その代わり、声に出して言うね。俺はずっと一緒に居たいよ。誰にでも言うよ。」」


いつもの翔ちゃんじゃなくて何も発言できない。これは私を安心させるためなの?


「ありがとう。」

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