紫のリナリア編第8話
「お邪魔します。」
誰も居ないけど人様の家だから挨拶はきちんとする。翔ちゃんは『この置物買ったんだ。』とか言いながら上に上がる。私も後を追って翔ちゃんの部屋に入る。
「翔ちゃんの部屋久しぶりだなー!」
「俺もだよ。なんか部屋に物が沢山あるのが変な感じ。」
翔ちゃんと2人でジロジロ辺りを見渡す。
「これって懐かしいねー!」
部屋にある写真が目に付いたから話を振る。この写真は小さい頃の写真で友達と翔ちゃんと私で写ってる。
「懐かしいな!この時、翔ちゃんとお揃いの服を着てたよね!」
当時、翔ちゃんは今ほど入院はしてなくて、よく一緒にいて服も身につけるもの全て翔ちゃんと同じだった。全部翔ちゃんが選んでたから完全に翔ちゃん好みだったけど、私はいつもツリーにライトがついて輝く瞬間のように笑っていたな。
「それ、さっちゃんはどう思ってた?」
翔ちゃんがまばたきもせず私をじっと見つめるのに私は戸惑った。
「嬉しかったよ?」
「本当?」
「うん。」
私の返事に翔ちゃんは頬の力が抜けていつもの顔になった。
「翔ちゃん「ブーブー」」
この質問の意図を知りたくて聞こうとしたら携帯が鳴った。
「ごめん、少し電話してくる。」
「はーい。」
翔ちゃんは携帯画面を見てなんの感情も出さずに部屋を出ていく。
「まだかな?」
翔ちゃんにしては長い電話をしてるので、気になる。喉が渇いてきたから翔ちゃんの許可は得てないけど、いつも好きに冷蔵庫見てって翔ちゃんのお母さんに言われてるしいいよね?私はゆっくり下へ降りる。
「小夜なら今、上にいるけど。」
リビングから翔ちゃんの声がする。翔ちゃんが小夜って言うのは初めて聞いた。相手は誰だろう。聞き耳を立てるのは良くないけど気になって耳をドアに付ける。
「ダメだ!小夜には絶対言わないで。」
私には言わないで?翔ちゃんの焦ってる声に何の話かさらに疑問が湧く。
「ああ、まだ言える自信が無いんだ。」
「分かった。付き合うよ。」
付き合う!?それって恋人の話?すると微かに電話先から女の子の声がする。この声を私は知ってる。その瞬間、嫌な予感が的中した気分だ。この声は高橋さんで、翔ちゃんは高橋さんと浮気をしてるんだ。私は力が抜けそうな体に力を入れて2階へ戻る。
「ガチャ。」
私が荷物を持って下へ降りてきたタイミングで翔ちゃんも電話が終わって部屋から出てきた。
「あれ?さっちゃんもう帰るの?」
「……うん。またね。」
これ以上口を開いたら関係が壊れそうな気がしたから口を閉じて急いで家を出る。
「おはよ!」
「おはよ。」
翔ちゃんが居るから学校に行くのが憂鬱だったけど、なんとか来た。しかも翔ちゃんは察したのか、朝、私の家に来なかった。
やっと一緒にいられると思ったのにと思う反面、
行き場の無い気持ちをどうしたらいいか分からないので安心した気持ちがあった。
「小夜?大丈夫?だいぶお疲れだねー。」
翔ちゃんのことが気になっていた百花が話しかけてきた。百花はあの後、好きな子ができて『九東君は推しだから!』と切り替えて、今は彼氏持ち。
「ありがとう……。少し疲れて。」
「そっか。そういえば、あの写真見たー?」
百花は携帯を操作して推しのチケットが当たったような顔でこちらへ携帯を向けてくる。
「え、これって……!」
そこには、カフェで翔ちゃんと、恋人のように話してる高橋さんが居た。
「2人の噂を聞いてたけど、この写真を見たらお似合いだよね!」
昨日、翔ちゃんの用事って高橋さんのこと?本当に私たちって付き合ってるんだよね……?
「小夜?大丈夫?」
「あ、……うん。少し調子悪くて。」
頭が回らない。翔ちゃんのことを考えたいのに考えたくない。
今日は翔ちゃんに話しかけられそうになったら逃げていた。
そして、この感情の行き場が分からず、その日は一日中ボーッとしていた。
「七海さん、少しいい?」
翔ちゃんのことで困ってるのか分からないが体調が悪くてホームルーム後に早めに帰ろうとしたら高橋さんに呼び出される。
「はあ。少しだけなら。」
1人でこの人と話すのは怖いけど、辺りを見渡しても翔ちゃんは居なかったので、仕方なく1人で向かう。
「話って何?」
「九東君にベタベタしないでくれる?」
はい?予想外の言葉に私は口が塞がらなかった。
「なんで?」
「なんでってもちろん私が九東君と付き合ってて、あなたが九東君を奪おうとするからでしょ?」
高橋さんは頭がおかしいのかな?それとも翔ちゃんが二股してるの?どちらにしろ翔ちゃん本人が居ないと話が進まないので困ってる。
「ガラガラ」
「高橋さん呼んだ?」
タイミングよく翔ちゃんが現れた。翔ちゃんの顔は夕日が当たっていて分からないけれど待ち望んでいたことが起きたようだ。
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