紫のリナリア編第9話

「九東君!まってたよ!」


翔ちゃんは少し私たちから距離を置いて立っている。


「2人は何してたの?」


翔ちゃんはどちらへ向けてか分からないけど、明らかに声色が震えている。


「うん?九東君にしつこい虫がいるから払ってるの!」


私はだんだん自信がなくなってきた。本当に私が浮気相手で高橋さんが本命じゃないか。って。


「そっか。さっちゃんはどう思ってるの?」


「九東君。その子の話は「ちょっと黙って。」」


私の話を聞こうとしてるのが気に入らないけど、翔ちゃんに止められて静かに口を閉じた。どう思ってるか?もちろん嫌だよ。


「何も言わないならもう行くね。高橋さん行こうか。」


「ま、まって!」


一瞬で頭が動いた。ここで諦めるのか。やらない後悔よりやる後悔か。私は迷ったが手を伸ばした。嫌だ!私は翔ちゃんと付き合っていたい!


「何?」


翔ちゃんは冷たい表情をしたので一瞬怯んだけど勇気を出して口を開く。


「行かないで……。私が翔ちゃんと付き合ってるから!」


震えた手で掴んだけど、下を向いて大粒の涙を流してると、


「良かった!俺だけじゃないんだね!」


ふわっといい香りがした次の瞬間、温かく包まれる。


「は?九東君!どういうこと!?」


私が顔を上げると、翔ちゃんに抱きしめられていて、高橋さんが近づいてきた。


「九東君「触るな。」」


虎が吠えるように高橋さんに向かって叫んだ翔ちゃんは私を離さない。


「九東君……?」


「俺はお前なんかと一緒にいたくない。時間は有限だからさっちゃんと一緒にいたい!」


いつも温厚な翔ちゃんが声を荒らげてるのを見て、私のために!と目頭が熱い。


「そんな態度を取るなら私だって言うよ?いいの?」


「ああ、それを握られてたからそばに居たけどもう大丈夫だ。」


高橋さんは狼狽えてる。握られてた?翔ちゃんが?どういう話か気になる。


「もういいよ!

あんたなんか選んだ私が馬鹿だった!不幸になれ!」


高橋さんはドスドス音を立てて去っていく。


「さっちゃん大丈夫?ってなんか熱くない?」


「そう、か、な……。」


「さっちゃん!!」


高橋さんが翔ちゃんを諦めてくれて気が抜けたのか体中の力が抜けて翔ちゃんに全体重を預ける。


「あっつ!熱あったの?ごめんね。すぐ家に帰ろう。」


翔ちゃんは軽々とお姫様抱っこする。恥ずかしい気持ちもあるが今は体中が熱くて動けない。そして、私は眠りについた。



目を開くと、翔ちゃんの部屋のベッドに横になっていてだいぶ体が楽になっていた。


「あ、起きた?」


ゆっくり体を起こすと、翔ちゃんがベッド横に座っていた。


「あ、ごめんね。どれくらい寝た?」


「大丈夫。3時間くらいかな?」


翔ちゃんは自分が病弱だから手当は何をしたらいいか分かるみたいで、おでこに冷たいシートが乗っていて保冷剤で首も覆われていた。そして水を渡してくれた。


「ありがとう。もう大丈夫。」




「それで、高橋さんとは付き合ってなかったの?」


落ち着いたので翔ちゃんに気になったことを聞く。


「うん。もちろん。しつこくて嫌いだったけど少し弱みを握られてさ。」


弱み!?翔ちゃんの弱みってめっちゃ気になる……!私がキラキラした目で見つめてると翔ちゃんはベッドに押し倒す。


「ほら、寝てないと明日学校行けないよ?」


「えー。」


結局、翔ちゃんに誤魔化されて聞けなかったけど、翔ちゃんは浮気もしてないし私、一筋だからいいかな!



side翔

「そっか。誤解を解けたんだね。良かった。」

おっつんとさっちゃんについて話している。

「ああ、あれを握られたさっちゃんに逃げられなくてよかったよ。」

俺の弱みとは……。

昔の話だけど、さっちゃんが好きすぎて、

男の子に対しては、さっちゃんとお揃いの服を着て圧をかけて、

女の子に対しては、俺のことが好きでさっちゃんを攻撃する子は心が折れるぐらい振ってきた。

「本当に翔は腹黒だからね。私も驚いたわ。さっちゃんへの執着に。」

「そうか……?」

「まあ、さっちゃんが幸せなら私は応援するよ。でも。

あの子は翔より好きだから何かあった時は無事でいられると思わないでね?」

いつの間にかおっつんもさっちゃん派になったか。さっちゃんは人気者で困るな。

「分かってるよ。俺が一生大切にするけど。」



END

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