紫のリナリア編第6話

「今は冗談なんか言わないでよ! 」


「冗談じゃない!俺は本当に昔から好きなんだ!ずっとこの恋に気づいてと思ってたんだ!」


翔ちゃんは顔に血が上り赤い顔で必死だ。それを見て、からかわれてる訳じゃないんだと思い、私も少し冷静になった。それにこの恋に気づいてって紫のリナリアの花言葉。もしかして花屋さんは翔ちゃんの気持ちにも気づいてた……?


「なら、好きな人はどうなるの?」


ずっと気になっていて聞けなかった。私は目をつぶりギュッと両手を握る。


「好きな人?俺は昔からさっちゃんだけだよ。」


翔ちゃんはさも当たり前のように言っている。


「だって、甘いもの好きな子って言ったでしょ?」


翔ちゃんは、なんのことか分からないようにポカーンとしたあと、ハッと思い出したようだ。


「あれは、

昔から(好き)、甘いもの好き(だと思っていた)って言う意味。」


えー、翔ちゃんがこんなに説明を省くとは思わなかった。私は頭を抱える。


「これで俺の気持ち信じてくれる?」


翔ちゃんは黒い雰囲気から一変いつもの温かい空気に戻る。


「うん。信じる。」


「ありがとう。それで、

俺と付き合ってください!」


翔ちゃんは手を差し出す。なんか昔少しだけ見た恋愛リアリティー番組みたいでクスッとバレないように笑う。本当に信じてもいいのかな?でも、そんな真剣なことを翔ちゃんなら冗談で言わないよね。

心臓が今までにないぐらい鳴るのにどこか冷静だ。

今までのことを思い出して、目を閉じてゆっくり開ける。


「よろしくお願いします。」


「!」


翔ちゃんは涙をボロボロ流している。私は翔ちゃんの頭を撫でる。


「翔ちゃん。ありがとう。」


そう言って頭から頬を撫でる。私も翔ちゃんを見てると涙が出てきた。



「ねえ、翔ちゃん、1つお願いなんだけど。」


付き合ってから30分近く今までどう思ってたか話した。翔ちゃんが言うには、水族館の時に居たおっつんの女友達は

照れ屋さんで友達を作るために呼んだだけで、別に翔ちゃんのことを好きという訳では無いみたい。


「何?」


「学校の人には付き合ってること言いたくない。」


これが次の難関だ。翔ちゃんがどう思ってるかは分からないけど、私はこれは譲れない。翔ちゃんは眉を下げている。


「……なんで?」


「翔ちゃんは人気者でしょ?きっと私なんかと付き合ったって言ったら翔ちゃんのファンがきっと反応する。私が怖いって言うのもあるけど、翔ちゃんに心配はかけたくないの。」


翔ちゃんは下を向いている。この反応は私をみんなに紹介したかったのかな?そしたら納得してくれないかな?


「……分かった。いいよ。」

顔を上げた翔ちゃんは、さっきの反応の割には認めてくれて、この先に何を起こすか少し不安になる。


「本当にいいの?」


「もちろん!俺はさっちゃんと付き合えたか

ら幸せ!」


あまりにも、いい計画ができたような反応の翔ちゃん。翔ちゃんも学校の人に言うの迷ってたのかな?と勝手に思い込むことにした。


「……ありがとう。」



「暁、ちょっといい?」


休み時間になったので暁に返事をすることにした。暁のクラスへ行くと暁と仲のいい子たちが『おお!』とか言うので、心の中では『これから振るんです!ごめんなさい!』と誤りながら人気のない所へ連れていく。


「な、何かな?」


明らかに声が上ずってる暁に胸がえぐられる思いを感じたけど、振らないと暁のためにならない!と意を決して口を開く。


「この間の話だけど、

ごめんなさい!」


暁は一瞬顔を下げてこちらを見直す。色々複雑そうだが、主に引きつった感情が顔に出ていた。


「……そっか。その顔はもう相手の人がいるんだな。応援するよ。頑張って!」


好きだった人の恋を応援する気持ちの辛さは分かる。だからこそ暁をさらに苦しめるから恋愛か友情かの狭間ではいたくない。


「応援、ありがとう。」


私は暁が去っていくのを見てから教室へ戻った。



「こんにちは。」


久しぶりに暇だったし、翔ちゃんもお花が好きだからついでに買おうと思って花屋さんに寄ってみた。相変わらず花のいい匂いと落ち着く花屋さんの笑顔。


「あら、お久しぶりね!その紫のリナリアを見るといいことがあったのかしら?」


「はい!付き合えました!」


顔が全体的に上がるぐらいの笑みを浮かべて、手に持った生き生きとしてる紫のリナリアを見せる。


「よかったわ!それで今日の要件は?」


花屋さんは花を手入れしていた手を止めてこちらを見る。


「時間があったので寄ってみました!あと、ついでに花を買って翔ちゃんにプレゼントしようかな。と!」


「分かったわ。どんな願いのお花が欲しい?」


「いつまでも一緒に居たいですかね。」


「分かったわ。」


花屋さんは奥へ消えて扉を何回も開ける音がする。


「では、あなたにはこの花束を。」


手にはガーベラの花を9本持って帰ってきた。

花屋さんは花を優しく撫でて生き生きしてるか確認して私に見せる。


「ガーベラの9本の花言葉はいつまでも一緒にに居てほしい。です。

プロポーズによく使われるけれど特にプロポーズじゃなくても愛情を表現するにはちょうどいいと思うわ!」


いつまでも一緒に居てほしい。私にそっくりだな。所持金が少ないけど、付き合った記念だと思って買うことにした。


「ありがとうございます。ラッピングの色選んでね。」



「ルンルン!」


私は鼻歌を歌いながら、9本のガーベラを手に持って若干スキップをしながら翔ちゃんの病室へ向かう。


「ガラガラ。」


病室へ向かっていると、翔ちゃんの病室の扉がゆっくり開く。出てきた人はクスッとにやけてたけど、次の瞬間にはなんの感情も見せない顔になった。


「?こんにちは。」


「……こんにちは。」


確か同級生の結構モテる女の子だよね?なんでその子が翔ちゃんの病室から?しかも、普段、見かける様子と今挨拶してくれた様子がまるで別人だ。なんか私が嫌いみたい。


「翔ちゃん!こんにちは!」


翔ちゃんは私が入ってきても珍しく携帯をいじってる。


「翔ちゃん?」


「あ、ああ、ごめんね。こんにちは。」


私が近づいた途端、携帯の画面を消した。何を見ていたんだろう。

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