赤いゼラニウム編第2話
「!」
私は慌てて目を逸らす。転校生の顔は綺麗だけど、綺麗すぎて目に痛いから。
「……ども。」
「もう。心音。あなたそれだから友達がいないのよ。」
「放っておいてよ。それよりなんで転校生がここに?」
「お隣に住むことになりました!よろしくね!」
見なくても誰にでも振りまいてるであろう笑顔をしてるのが分かる。
「……そ。よろしく。」
これ以上、目線を逸らしてるのも辛いから退散しようとクルッと向きを変えて扉へ向かって、取っ手に手をかけた。
「氷雨さん!仲良くしたいからこれからも声かけてもいい?」
大丈夫。ここで『うん!』と言えば今日の後悔は無くなる。誤魔化しで変な言葉を口に出すな。
「……お好きにどうぞ。」
扉を開けて顔を見ずに出る。
「あー!もう!」
またやってしまった。こんな可愛げのない女の子なんて仲良くなれないよね。でも本当は変わりたい。…もし叶うなら友達も作りたい。
「おはよう!氷雨さん!」
転校生が引越しの挨拶をしに来たその後はひたすらネットで『友達の作り方』や『口の悪さを治すには』などと調べたがあまりしっくりくるものが無かった。そして次の日、重い体で支度をしてインターホンが鳴ったから開けると転校生が居た。
「……何の用?」
突然な転校生の綺麗な瞳に早くなる鼓動を隠して目線を下げて対応した。でもまた最悪な態度にこんな態度辞めたいのに!と心の中で悲鳴をあげているのを聞こえないふりをする。
「せっかく家が隣だから、」
転校生はぎゅっと固く握った私の手を掴んで上に持ち上げる。ぎゅっと心臓を掴まれたような気分になり思わず顔を見る。
「一緒に行こ!」
太陽のような明るい顔は最初の時より眩しくてさらに目が痛い。いや、目だけじゃない。行動、見た目、全てがモデルみたいにキラキラして見える。
「……。」
じっとは見れなくて、また目線を外す。この鼓動は感じたことある。でも。
「氷雨さん?」
私は歩き出し扉を通って外へ出る。顔は見てないけど友達に置いていかれたような声がする。
「一緒に行くんじゃないの?」
「!
うん!」
私は振り返り初めてちゃんと顔を見る。ああ、目が痛い。この感覚覚えてる。またあんな目にあうのかな。それなら。私はもう二度と裏切られたくない。だから。
「……コップの蓋を閉めなきゃな……。」
これ以上、涙がこぼれないように。
「?氷雨さん?」
「……なんでもない。」
私は人と関わるには向いてない。
「きゃ!」
「……すんません……。」
人の多い時間に出かけなければよかったと今、後悔している。だって、恋愛小説の主人公のような綺麗な人とぶつかり、小さい声で態度悪く謝ったからだ。もう!こういうところが嫌いだ。しかも女の人が持っていた荷物をぶちまけてしまったから。
「……ごめんなさい。」
荷物を拾いながら謝るが、人混みに声がかき消されてしまう。
「あらあなた、手を怪我してるわよ?」
言われて見ると紙で切ったような傷ができている。
「お時間大丈夫?それなら今手当を」
この手の体温、ハーデンベルギアのお姉さんを思い出す。お姉さんも少し冷たくて手が細長くて綺麗だった。懐かしくてつい心を許してしまう。
「あれ?久しぶり!」
女の人がカバンからポーチを取り出すと男の人から声をかけられる。
「あ、……お久しぶりです。」
男の人は明るく話してるが女の人は目を泳がせている。よく知らないが私には関係ないため去ろうとすると、ぎゅっと私の服の裾を他の人にバレないように握られる。
「君、この人のお客さん?花なんてさ、どう?面白い?君も残念だな。この人の欲望に付き合ってさ?」
なんの話をしてるのか分からないが明らかに見下すような目をしているし女の人も完全に下を向いて言い淀んでいる。
「……すみません。用事を思い出したので。」
私は女の人の手を力が入りすぎないように気をつけながら掴んで荷物を持ち男の人の反応を待つ前にその場を去った。
「すみません。ありがとうごさいます。
私が引き止めたばかりにご迷惑をおかけして。」
女の人は少しだけ表情が緩んだようだ。
「……いえ。」
「ねえ。あなたお花好き?」
私が話を繋げられないから気まずいかと思ったら女の人はそんな私も包み込んでくれるような表情をしている。
「……好きです。」
「よかった!じゃあ、私のお店に来ない?きっとあなたのためになるわ。」
女の人が歩き出したから(一緒に来てもいいってことだよね?)と思いながらゆっくり私のペースで歩く女の人の後を追った。
少しだけ人気の少ない所に入るので不安になりながらも進むと真っ白で綺麗な家の入口の扉が開いていて沢山の花が見える。
「ここは?」
「ここが私のお店よ。
ようこそいらっしゃいました!
ペンタスHOMEへ!」
女の人は花のように手を広げて、転校生に負けないぐらいキラキラした顔で迎えてくれる。私は久しぶりにポロッと笑みがこぼれた。
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