赤いゼラニウム編第6話
「こんにちは……。」
「いらっしゃいませ!あ!この間の!」
花屋さんはこの間と変わらないが、エプロンをしてるのは初めて見たから新鮮だ。
「何かありました?」
「お花が元気がなくなっちゃって。」
昔ハーデンベルギアのお姉さんから教えて貰った包み方で持ってきた赤いゼラニウムを鞄から取り出す。
「あれ?」
今日、来る前に見た時よりなんかしおれてる?
「あらあら。これは大変ね。残念ながら私は何も出来ないわ。」
花屋さんは花を見て手に負えないと告げる。そんなに酷いのかな?
「このお花はね、あなたと彼の関係や気持ちを表す花でもあるの。
一見、普通の花に見えるけど、私が取り扱ってるお花は不思議な力があるの。
この花が枯れたらあなたと彼の関係は終わってる。この花が元気になるにはあなた達の関係を良くするしかないの。」
花屋さんは大切そうに花を撫でて確認する。
「私たちの関係?」
「ええ。どういう関係でどういう状況かは私には分からない。
でもあなた達にはこの問題を解決して仲良くしてほしいわ。私の願いだけどね。」
仲良いと思うけど、なぜ私と陽太の関係を表す花がしおれたのか。未だに不思議。
「1つアドバイスをするなら、彼の想いはどうなのか受け止めること。変わることは時によっては悪い場合もあるわ。よく考えて。」
花屋さんは私の目を見つめて花を私に返す。花屋さんの言ってる意味が分かるような分からないような。
君ありて幸福、あなたがいて幸せという貰った赤いゼラニウムの花言葉の意味は分かった。だから花屋さんのアドバイスも分かろうと思えば分かるのかな?
「こんにちは。」
今日は初めて花のボランティアをする。約束の花壇前に向かうと女の子と男の子と担任の先生がいた。
「おお!氷雨も手伝ってくれるのか?よかった!よろしくな!」
先生はいつも私が1人で隅にいて人と関わろうとしないことを知ってるから喜んでいる。
「君、氷雨さんって言うんだな!あ!自己紹介を忘れてたな!俺は、葉月 伊織(はづき いおり)だ!」
葉月さんは見た目に反して優しく丁寧な人だな。ペコッとお辞儀をしてくれたので私も返す。
「こんにちは。私は香月 詩織(かづき しおり)よ。」
香月さんは見た目も話し方も綺麗でお嬢様みたい。スラッとしていて女子の憧れみたいな見た目。2人とは会った記憶は無いけど先輩かな?
「こんにちは。氷雨 心音と言います。」
私もペコッとお辞儀をしてなるべく笑顔になる。こんなにまともに話せるのは陽太のおかげだ。
「では、早速やり方を教えるな!」
そうして、手取り足取り花の手入れの仕方を教えてもらったがハーデンベルギアのお姉さんのおかげで何となくは分かっていてとても褒められた。
「……ただいま。」
家に帰るとお母さんはお茶会に行くみたいで玄関に居た。
「あ!心音!ちょうどよかった!陽太君のお母さんにこれを渡してくれない?どうせ今日も行くんでしょ?」
私の家には居ないんだ。珍しい。何かあったのかな?
「……分かった。」
私は早く陽太に会いたくて荷物だけ置いて急いで陽太の家へ向かった。
「お邪魔します。」
いつも陽太から合鍵をもらってるから自分で鍵を開けて今日も入る。
「心音?」
ガシャンと物が落ちる音がする。何してるんだろう。人影が陽太ともう1人見える。
「陽太、入ってもいい?」
「あ!ごめん!ちょっと俺の部屋に行っててくれない?」
拒絶されるとは思わずリビングの扉に手をかけると止められる。陽太が止めるなんて珍しい。でも、陽太にも都合があるよね!
「はーい。」
階段に足をかけた途端、
「ねえ、誰が来たの?」
知らないアイドルのような女の子の声がする。
「彼女だよ。」
「え!ヤバくない?!」
「大丈夫。上に行っててもらったから!」
陽太は聞こえてないと思っているが、少し聞こえてしまった。誰?その女。私の中で黒い感情が渦巻く。でも、問い詰める覚悟がない私は大人しく2階へ向かう。
「お待たせ!」
2階にいる間、下で何をしてるか聞いていたけど、私より反応が良い女の子と盛り上がっていた。そして、30分後に帰っていく音がしたあと上へ来た。
「……ううん。大丈夫。」
本当は大丈夫なんかじゃない。でも、私には陽太しかいないから聞いて別れるとかになったら私は日常生活を送っていける自信が無い。
「今日は初めてボランティアしたんだっけ?」
「うん。」
陽太もあの女の子の事には触れてほしくないのか明るく私の話を聞いてくる。
「そんな感じ。」
話はきちんと聞いてくれるから少しだけ安心した。
「そっか!ねえ、疲れてない?」
急に陽太は私を甘やかすモードになった。付き合ってからたまに訪れるけど、今は私も甘えたい気分だった。
「……疲れた。」
「おいで。頑張ったね。」
甘い声にいい匂いに温かい体温。友達もほしいし、葉月くん達とも仲良くしたい。でも、1
つだけ、お願いするなら、この事だけ。
陽太、1つだけわがままを言うね。
ずっと私のそばにいて。
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