第5話 赤い瞳

 キヨは、綺麗な所作で羽織を整える。キヨの肩についた赤い花弁を掬い上げた。その花弁は、真紅の赤さは白いキヨと対立している。

 確立された、紅白にどことなくあの景色を思い起こささせる。



 中央に咲く白い彼岸花。




 独特の空気感だった。あの冷たさを感じる白の彼岸花と、温かな美しさの赤い彼岸花のコントラスト。




「神様になにを願いたかった?」

「キヨさんは、願いを聞き入れてくれるのですか!」



 

 怪訝な顔をして、眉をひそめられた。表情の変化が全くなかったキヨが、あからさまに嫌な顔をする。眉間に皺が寄り、ようやくここで初めて人間味を感じさせた。




「何度も言うが、私は神様ではない。それに、もし神だったとして……しょうもないことは聞かない」




 あの必死さから藁にでも縋る何かだと思われていそうだ。と感じて口を詰むんでしまう。きっとこの質問は、答えるまで解放してもらえないだろう。いっそのこと、顔を見るのはまだ2度目。この早い段階で、そんな大したことでは無いと言った方が良さそうにも感じる。



 口を薄く開き、息を吸い込む。あたしの言葉よりも先にキヨの声が声を発した。







「まあ、年若い娘だし。彼氏が欲しい、あたりか?」

「うっ」




 もはやこの反応は、肯定をしている。なんとなくの空気感で察したのか、キヨは目を閉じて唇の端を持ち上げた。



「だって! 羨ましいんだもん!」

「どんな神様でも、その願いは聞き入れないだろうな」



 そんなことなら帰れ、とでもいいたげに手であたしを追い払う。そもそもあたしは、帰る途中なのだ。

 神様が私の願いなんて、聞いてくれないのも重々承知の上。それでも願わずには、いられないのだ。

 ただ、それだけのこと。



「帰ります!」



 あたしは、キヨに背を向けた。歩き出そうとしたがひとつ言い忘れていたと思い、パッと後ろを振り返った。そこには、人の姿はなく代わりに白蛇びゃくだがいた。




「なんだ?」

「えっと。キヨさんは、蛇なんですよね?」



 返事をするようにして、赤い舌をチラリと覗かせた。シュルリと音を出して、あたしの方に近づいてくる。



「蛇姿は、怖い?」

「いいえ! 白い蛇って、綺麗じゃないですか!」



 キラキラとした目で、白蛇を見る。視線を合わせるようにして、屈んだ。



「そうか」




 屈んだが、それなりに距離はある。それでも、赤の瞳と目が合っている気がするのだ。


 

「蛇の姿だと、見えるんですか?」

「こちら方が、幾分か見える」

「じゃあ、常にそのままにしましょう!」




 その言葉に反応は無し。なんだか失言だったか、と思いにこやかにした表情が引き攣ってしまう。




「えっ……と?」

「いや、普通なら人間の方が見慣れてて良さそうだと」

「あたしは、どちらも好きですよ!」



 何も言わず、しゅるりと音を立ててあたしの足元を一周する。そして、あたしの膝に顔を乗せて赤の瞳を光らせた。


 

 

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