第4話 白蛇

 下校時間、普段の道を歩いてゆく。何だか、ムズムズする。あの白蛇びゃくだが案内した道をあたしは、思い出す。クネクネと曲がった先に、あの場所に辿り着く。


 

 あの時に見た彼岸花の光景はなく、ただ行き止まりで道のない場所。その前まで来て、あたしはぴたりと足を止めた。


 

 そのあとに突然現れた、謎の白髪の男性。……あれは、夢か実か。

 全てが、嘘で夢の中の話のよう。じっと見つめても、なにも変わらない景色。




「あの時のは、なんだったのだろう?」



 独り言を呟いて、あたしは帰路の方に足を踏み出した。あれから一度も会えてないのだ。顔はその行き止まりの道に向いたまま、数歩踏み出したところで、誰かにぶつかってしまった。

 さっと後ろに下がって、頭を下げる。



「す、すみません!」




 恐る恐る顔を上げて、ぶつかった人を見る。真っ白で色素の薄い、あの時のあの人だった。目を見開いて、口をはくはくとさせてしまう。言葉を紡ぎたいのに、うまく言葉にならない。




「ここには、来てはいけない。と言ったはずだ」

「あ、いえ……帰り道と言いますか……なんというか」



 両手の指先をふわりと合わせて、視線を泳がせた。モゴモゴとしながら、少しだけその男の表情を窺う。

 最初の時から、ほとんど表情の動きなどない。地図の場所に案内をした時も、今も全く変わらない。





「そうか」



 そう短い返事が返ってきて、あたしの肩に手を乗せられる。少し冷たい手のひらに、ヒヤリとした感覚になる。

 置かれた手も白くて、何度見ても背景に飲み込まれてしまいそうな儚さを感じさせる。



「えっと? また、案内しますか?」



 ふるふると首を振られて、私の申し出は断られた。置かれた手に力を入れられて、あたしの帰路の方へ押される。




「私は、キヨ」

「……!? あたしは、ひいろ。キヨさんは、神様なんですよね?」


 突然の自己紹介に、驚き返事が少し遅れてしまう。

 さらには、ゆるく首を振られて神であることを否定をされた。そして、置いていた手で肩を軽く叩かれる。その間も表情の動きは、ほとんどない。



「そんなことを言っていると、おかしな子だと思われるよ。やめた方がいい」




 子供を諭すような言い方で宥められる。とても近い距離に顔を近づけられて、赤の瞳と視線が絡む。ようやくこれで、"あたし"を捉えてくれたようだ。



「おかしな子って……」




 ぱっと顔を離されて、距離が生まれた。十分なパーソナルスペースを確保された。この距離になると、私の視線を探すように動かされる。

 


 何かを確認するようにして、手が私の顔へ近づけられた。ゆっくりと近づいてきた長くて白い指が、私の頬を掠める。



「あまり目が良くなくてね」



 その言葉を残して、白い手を引っ込められた。

 

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