第3話 恋バナ

 白蛇びゃくだは、あれから数日経つが全く気配すらも感じられない。あたしは、教室から窓の外を覗く。小鳥がさえずり、少し冷える優しい風が吹いている。

 頬をかする風は、髪を撫でて揺らす。



「ヒイロ、オータムフェスの紙書いた?」

「忘れてた!」



 あたしは、カバンからオータムフェスで提出する紙を取り出した。オータムフェスというけど、要は文化祭だ。

 このイベントは、願いを書いた紙を水に溶かして叶えてもらうという行事から始まる。



 特殊な紙らしく、えんぴつかシャープペンでしか書けない。薄めの紙で、向こう側がうっすらと見える。



それを書いてるの?」

「いいじゃない! 叶ってないから、また書くの!」



 薄いフィルムに書かれた文字をみた。なんなら、神様を探して叶えてもらおうとさえ思ってること。




「それぐらいのことを神様に祈らなくても……」

「それ、リア充だから言えるんだ。エリカには、私の気持ちなんてわかんないんだぁ」




 ぶつぶつと文句を言いつつ、自分の書いた文字をみつめる。確かに、こんなことを神様に願ったところでだ。

 そんなことは、百も承知の上。



「神様ぁ、彼氏をください〜」

「そんなことを願って……神様も困ってるよ?」



 

 思わず、むすっとしてしまう。エリカは、あたしの顔を覗き込んでくすくすと笑い始める。そこに、エリカを呼ぶ声がした。

 エリカのカレだ。肘で突いて、早くいくように促す。私に向ける顔と違って、乙女の顔のエリカ。その顔に手を振って、見送った。



 綺麗な青空に、ため息が吸い込まれていく。わたあめのような雲が、空に漂う。その白い雲が、なぜだか神様らしき人物を彷彿させた。



 本人は否定していたが、直感的に『神様』だと感じている。




「あぁ、でも……あの人は叶えてくれなさそうだなぁ」




 だれも聞いてないことを良いことに、そんな文句をぶつぶつと言ってしまう。薄いフィルムを空にかざして、光を透過させる。

 あたしの黒の短い髪が、少し冷える秋風に揺れた。




「ヒイロ?」




 突然私の前を手にひらが、視界を覆った。ひらひらと動かすその手は、エリカだった。



「早かったね? もういいの?」

「不貞腐れてる友人をおいてはいけないでしょ?」



 話してもなにも変わらない。それでも、何だかあたしにとっては嬉しいのだ。

 窓背を向けて、体重を壁に預けた。腕を組んで頷いて、少し得意げな顔をしてみる。



「そうでしょう?」

「そんな得意げになることじゃないけどね?」



 そんなこんなで、恋バナに花を咲かせて盛り上がった。


 

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