第11話 言葉を飲む

 言わずもがな"白きもの"は、アルビノの彼らのこと。"赤き血族"は、一体何を示しているのだろうか。名は体を表すなんて言うが、赤にちなんだ名前だったら誰でもいい事になる。


 ぶつぶつと自分のまとまらない考えを呟いてしまう。癖なのだ。ひとりで呟いていて、キヨは不思議そうにあたしのことを見つめていた。



「はっ、すみません!」

「いや……気になることはたくさんだろう」


 

 こくこくと頷いて、どういう意味なのか聞き出す。目だけの訴えに、くすりと笑われてしまう。



「これを見て」

「赤い彼岸花……悲しい思い出?」

「そう」


 白いアルビノの迫害をしてきたという悲しい思い出。それを、赤い彼岸花が守り抜いている。

 ふわりと揺れて、赤の彼岸花が寂しそうに見えた。



「でも、赤繋がりだとして……」

「そうだ、赤繋がりだ。でも、ヒイロなら知ってるはず」


 

 何が言いたいのかわからず、目をぱちくりとさせた。キヨは、スッと白蛇びゃくだに変わった。そして、そのままあたしの足元で滑るように身体をよじった。



「白い動物は、神聖なモノ」

「はい……今の世の中だと、おそらくみんな知ってるかと思いますよ?」

 

 白蛇といえば、弁財天様の使い。宇賀神将うがしんしょうと呼ばれる白蛇が有名だ。

 それほどに、"白"というのは神聖なものとされている。それにSNSの普及にり、アルビノという存在も珍しいが存在すると知られている。



「だとして……それなら、私じゃなくても?」


 あれだけ白の孔雀に跳ね除けられたのだ。わざわざ私が、その役を買って出るのも気が引ける。



「赤の血族の人なら、不思議な力があるはず。その目覚めを使えば、白きもの達も納得する」


 ――今はもう白きモノの迫害されることはないと。



 むしろ怖いのは、迫害ではないかもしれない。



「でも、アルビノの動物は珍しいです。珍しくて、捕まえられて……なんてこともあり得ます」

「ヒイロまで、ここに閉じ込めた方がいいと言うのか?」

「いえ! ただ、外にでるなら人の姿の方がいいかと」



 

 解せない。そう聞こえてきそうな表情に、提案したあたしですら苦虫を噛み潰したような顔になる。元の姿が許されないのは、結局のところ白きモノの迫害ととられてもおかしくない。




「人間って、皆そのようなものなのか……」

「いえ、そういう人種が存在するということですね」

 



 あたしは、あえて”そういう”を強調した。しかし、こちらの人間世界を知っているから理解できることだろう。彼らからすれば、”そういう”人間が全てなのだ。



「ひとつ言っておきたいことが」



 あたしは、そう前置きを置いて一呼吸おく。キヨは、何も言わずあたしの言葉を静かに待っている。


 

「あたしが、何かできることってありません。彼らに、白は神聖な生き物だから問題はない、と言ったところで……」

「いや、が言うから意味がある」



 ――そう言ったとして。学生という小娘に何の力があると言うのだろうか。



 グッとそんな思いは飲み込んで、キヨもことを見つめる。その赤の瞳は、あたしに言葉にならない声で訴えてきているのがよくわかる。


『運を待つは死を待つに等し。だから小娘であろうとも、使えるものは全てを使ってやる』



 その気迫に、たじろいでしまいそうになる。

 


 

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