第10話 平花結び

「ヒイロ」

「は、はい!」



 彼岸花畑のど真ん中、白の彼岸花があたしたちの周りをぐるりと囲う。彼岸花の白が、やけに真っ白に感じる。どこか冷え冷えとした空気に、背中がぞくりとする。



「これって」



 そう言われてキヨの指には、ぷらんと垂れ下がる平花結びのストラップ。桃色と白の紐で結ばれていて、梅の形になっており縁起物のようにも見える。かなり長めなので、中国の佩玉はいぎょくともとれる。


 しかしなんの説明もなく『これ』と言われても、あたしにはピンともこない。



「なんですか?」



 よくわからぬまま、その紐を握らされた。可愛らしいビーズもついており、女性の物に見える。




「ヒイロ、見たことないか?」

「無いです」




 どこかで見たこと……と自問自答していると、ふわりとその平花結びのストラップから光が放たれた。春風のように温かな空間に飲み込まれた。




「汝、赤の血族の人間。白きものを助けよ」



 


 小さな親指サイズの金の光を帯びた人が、平花結びのストラップの上に現れる。



「はい?」

「やはり、そうなのか」

「赤の血族?」

「赤の血族の人間は、わたくしにかかれば一目瞭然」



 なんの話をしているのまるでわからない。ふたりだけで会話が成立しているかの如く、あたしは1人置いてきぼり状態だ。



 頭には、ハテナでいっぱい。手元の金の女とキヨを行ったり来たり。

 それに、『白きものを助けよ』とは一体どう言うことだろうか。あたしなんかができることは限られている。ましてや、学生という立場。




「あたしでは、力不足では?」

「いえ、赤の血族なら問題ない」



 それだけ言うと、金の女は消えた。謎の"赤の血族"というワードを残して。手のひらには、平花結びのストラップだけが残された。



「ヒイロ……

「でも、それはただの名前ですよ?」

「そうかもしれない。……それでも、"名は体を表す"」



 あたしの事のはずなのに、何ひとつとしてピンとこない。思わず、ぴたりと固まって瞬きさえも忘れてしまった。私の目の前で手を振って、意識を呼び戻される。ハッとなり、キヨをまっすぐに見た。やはりキヨの視線は、どこかを探すように動く。



 ふぅっと深くため息をついて、天を仰ぐ。綺麗な青空に、白いしっかりとした雲。風の流れに従って、ゆらゆらと形を変えながら向こう側へと押し流されていく。




「キヨ、あたしはを助けられるんです?」

「赤い血族の人間は、ヒイロのように私たちを怖がらない」

「なぜ?」



 ここでようやく、空を眺めていた視線を落とした。キヨは、袖から出した先ほどの巻物を寂しそうな表情で見つめる。触れたら割れそうな、繊細なガラスのようで手を伸ばせない。



「この巻物を読んで、どう思う?」

「読めない文字もあって、全ては分からなかったです」



 長く白い指で、そっと巻物を撫でる。巻物もかなり古い紙質で、大事に読まなければ破れてしまいそうだった。


 

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