第9話 忘れた街

 金の建物の方から聞こえてた太鼓と鈴の音は、どんどんこちらに近づいてくる。近づいてくるにつれて、笛の音も聞こえてきた。



「なんだか、お祭りのようですね」

「お祭りになると、もっとうるさい」

「それは、華やかですね!」

 


 赤い舌をシュルッと出して、蛇らしさが増す。表情の変化はないのに、なぜか不満そうなのを雰囲気で感じた。



 近づいてきた音がぴたりと止まり、真っ白な孔雀が赤色の駕籠かごを地面に置く。バサバサと音を立てて、真っ白な孔雀が羽を広げる。優雅なようにも見えるし、威嚇のようにも見える。



「ご苦労様」

「キヨ様。よろしいでしょうか? 人間は連れてきては……」

「これは……うん、人間じゃない」

「キヨ様! 無理がございますよ!」



 キヨは、ぐるりと身を捻って人の形に変わった。そして、私の腕引っ張り孔雀の目の前に差し出された。



「あ、えっと……」

「人間はだめでございます。ここは、危険です」

「キヨさんも言ってたけど、危険ってなにがです?」

「キっ!? キヨさん!? ……なんと無礼な!」



 孔雀は広げた羽を閉じて、くちばしで私の足をついばむ。カチカチと硬い嘴の音を立てた。当たるたびに、硬い嘴が容赦なくあたり傷を作っていく。



「いっ、いたい!!」

「ほら、危険だと言ったじゃないか」

「危険ってこういうこと!?」

「こいつは、返してくるから」



 孔雀は、怒りで耳を塞いでいるのかキヨの言葉が聞こえてないようだ。ぶつぶつと念仏のように小言が聞こえてくる。



 駕籠の後ろ側から同じなりの孔雀が、軽く会釈をした。そして、羽の中から黒い巻物を取り出してきよに渡す。さっと受け取ると、その巻物を片手に今来た彼岸花の道を戻っていく。




「キヨさん?」

「これを」



 先ほど受け取った黒の巻物だ。おそらくこれを読めということだろう。おずおずと手を伸ばしてゆっくりと開いた。




 そこに描かれたものは、"白きは悪"というものだ。要は、アルビノの迫害。今でこそ、神聖なものとして白い動物を見ている。

 しかしなんの知識もない人が見たら、真っ白という無彩色に恐怖を感じたかもしれない。




 どうやらあの金の建物がある街は、迫害を受けたアルビノの住む街なようだ。きっと、迫害を受け育った彼らはその影響で迫害をした人間に攻撃をしてしまうだろう。





 それが、キヨの言う『ここは、危険』に込められていた。赤の瞳は、確かに少し不気味に感じる人もいるかもしれない。私にしてみれば、赤の瞳はキラリとして美しいと感じるのに。




「人間はこれまで、私たちを迫害してここに追いやってきた」

「……そうなのですね」

「だから、人間が立ち寄らないように彼岸花が守っている」

「彼岸花には、毒がある……ですか?」




 ゆっくりときよは、頷いた。そして、あたしが読み終えた巻物を着物の袖に仕舞った。



 



 

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