第8話 金の建物
ついていくと言って聞いてくれないエリカを、どうにかカレに預けることに成功した。しょぼんっとした顔のエリカに、手を振って帰ってきた。
そうして、毎日のように歩いたその場所まで向かう。どこからか『もう、来てはいけない』と聞こえてきそうに感じる。
何回も来ていたが、初めて彼岸花の花畑についた時と昨日の2回だけなのだ。
どこか、会えないだろうという思いが見え隠れする。
冷たい秋の風が、私の心まで冷やしていく。角を曲がるとそこには――
「はっ! ……ここはっ!!」
「また来たのか?」
少し呆れ顔をされてしまう。キヨの血の通っていなさそうな真っ白な手が、あたしの方に伸ばされた。
あたり一面に、真っ赤な彼岸花が太陽の光を探すように上を向く。キヨの周りだけ無彩色の彼岸花が、寄り添って咲いている。
ふわりと風が吹き、赤の彼岸花だけが大きく揺れた。
「また来ますって言ったじゃないですか!」
「承諾してない」
「何回か来てるけど、会えたのはこれで3回目です。たまたまここに、迷い込んだだけです!」
「
キヨは立ち上がり、服の裾を叩いて砂を落とす。白の生地に黒色の蛇が巻き付いた絵柄だ。
あたしの方にゆっくりと近づいて、赤の瞳が揺れる。あたしの視線を探しているように見えるその動きに、あたしは顔をずいっと近づけた。
かなり近づいたからか、視線が絡む。キヨは、何度か瞬きをした。
「ここは、危険だから」
「でも前回来た時、怪我もしなかったですし……」
少しため息をついて、あたしから距離を取られる。ゆっくりとした所作で、着物の胸元を整えた。
優雅なその動きに、じっと見つめてしまう。その動きがなんだか、映画の一部を見ているように感じた。
「とにかく、ここは危ない」
「どう危ないんですか?」
チラリとこちらを見て手招きをした。そんなキヨの方へ駆け寄った。
キヨが足を赤の彼岸花のほうに進めると、さぁっと道を開けるように赤の彼岸花が動いた。その造られた道をキヨの後ろを引っ付くようにして、その道を進んだ。
周りの赤の彼岸花を見渡していたら、ドンっと勢いよくキヨの背中にぶつかった。割と衝撃があったが、微動だにせず背中を伸ばしてキヨは立っていた。
「あれ」
そう言われた指の先には、崖の下に大きなる金を一面にあしらった大きな建物が建っていた。この距離でも眩しさに目を細めたくなるほどだ。
太陽の光が金の壁に反射をして、こちらに光を跳ね返す。
「なんですか……ここは」
「忘れられた場所」
その言葉を発すると同時に、蛇の姿に変化した。真っ白な蛇は、身体をくねらせて尾で地面を叩く。
すると遠くから、太鼓と鈴の音が聞こえてきた。お腹を響かせるような太鼓との音に、目を輝かせる。
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