第13話 白のネズミ

 その赤い彼岸花の花弁が、ネズミの手元に落ちる。すると、花弁が赤い紙に変わった。その紙をあたしに差し出してきた。



「これは?」


 そう言いつつあたしは、その紙に触れた。すると、赤の花弁の色が消えて白色に変わった。



「"赤きもの"なのですね! それでは、全力でお手伝いをします!」

「また、"赤きもの"って……」

「赤きもの、それは我々のような白きものを助けてくれる人なのですよ!」



 小さな身体を翻し、走り出した。それをあたしはついていく。川から離れていき、小さな山を越える。山といっても丘に近いレベルだ。



 足首にも満たない小さな芝生が、空に向かって伸び伸びとしている。それを横目に、この白いネズミに聞いてみることにした。



「あのぅ……、その白とか赤とか、教えて欲しいんです」

「はい! そのためにも、お見せしたい場所があります! なので、こちらへ案内してます」



 タタッと足音を立てて、ネズミは走りあたしが歩きやすい速さを維持してくれる。



「あ、申し遅れました! わたくし、マシロです」

「あたしは、ヒイロです」

「なんと!」



 あたしの名前に驚いたかのように、あれだけ急いでいた足をピタリと急ブレーキをかけて止まった。



「名は体を表すですね!」

「……マシロさんも、ですけどね?」

「そうですよ。名前は大切ですね」



 そして、マシロはニコリと笑ったようになった。ネズミなので表情は、正直わからない。マシロの周りには、花が咲くかのように周りが明るくなった。



「そして、ヒイロさん。着きましたよ」



 そう言われた先には、金の建物がそびえ立っている。金の屋根から赤の提灯が垂れ下がり、明るく照らしている。

 その光が金の壁に乱反射して、眩しさを覚えた。




「ここ……って」

「はい! 赤きものが、白きもののために建てた場所です」



 マシロは先ほどのように足を早く動かして、金の建物の方へ走り出した。なんだか近寄ってはいけない。そう直感で感じて、足が地面に刺さり動かなくなる。




 ついてこないあたしに、不思議に思ったのあたしの方に戻ってきた。マシロは、首を傾げている。



「あっ、いや。なんと言いますか、凄くて圧倒されていて」

「あぁ、金ピカで驚きますよね!」


 可愛らしい拍手の音が聞こえてきた。それは、マシロの小さなピンクの手のひらによって出されていた。



「本当に荘厳、この一言に尽きます」

「赤きものが、建てた建物……」

「えぇ。白きものって、怖いじゃないですか」



 明るめに言っているマシロだが、先ほどまでの花が咲くような明るさは消えていた。どこか寂しさを帯びた、そんな空気感を漂わせている。



 あたしは、なんと言えば良いかわからず口を結んだ。




「赤きものっていうのは、赤の彼岸花の毒をものともしない人がいるのですよ」

「彼岸花の毒をですか?」

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