第17話 物語の表紙を捲る

「ヒイロ、ありがとう」



 太陽を見上げたまま、キヨはつぶやく。今度は、あたしにしっかり向かって言ってくれてるそんな声だ。

 雪が溶けるように、あたしの心の中にじわりとその言葉が広がった。



「あたしは、……なにも」

「ここに来れたのは、ヒイロのおかげ」



 そうして、光の中に身を投げだした。




 ****



 目を開くと、赤の彼岸花が揺られている。頬に掠る落ちてきた花びらが、くすぐったい。

 赤の彼岸花の赤さが、どこか輝いて見える。きらりと光るのは朝露だろうか。



 上半身を引き起こして、周りを見渡す。




「キヨ!」

「ヒイロ、無事に」


 優雅に瞬きをして、ルビーのような赤の瞳の薄い水面が揺らめく。白く陶器のようなサラリとした肌が、血色を映し出した。



 優しく笑みを浮かべると、周りの赤の彼岸花は散り散りになり消える。白の彼岸花だけが、太陽の光を浴びて上を向いていた。




 ここは、深くなんでも包んでくれそうな青色の空だった。白の綿飴のような雲がふわりと浮かぶ。そんな綺麗な空が、あたしたちを見守っている。




「ヒイロ、これからよろしく」



 ようやくここから、スタート地点に立ったんだ。あたしヒイロの物語の表紙を開く。




「白きもののために」



 

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