第6話 探検隊気分

 その赤の瞳に見つめられ、吸い込まれそうになる。目を開いて、その綺麗な赤の瞳に魅入ってしまう。

 数分間見つめ合ったようにも感じるし、もしかしたら数秒だったかもしれない。


 静かな空間を割くように、キヨが動き出す。


 


「早く帰りなさい」

「はっ! 帰ります、また来ます!」



 キヨが離れていき、少し名残惜しさをあたしは感じつつも立ち上がった。

 ひらひらと手を振って、あたしは軽くスキップをした。




『来てはいけない』と言われると、行きたくなるのは人間の性だろうか。るんるんとした足取りで、家に帰った。



 エリカから連絡が入っている。

 



 ――今度、カレの友達紹介しようか?



「ううん! 大丈夫! ……っと」



 なんだか今は、そんなことよりもあの不思議な空間に入り浸りたい。浸って、自分もあの世界に溶け込みたい。

 そう思うのだ。



 椅子をぐるりと回して、カバンからオータムフェスの紙を取り出した。

 消しゴムでさっと消し、新しく書き直す。



「あたらしい世界をもっと知りたい」



 スマホが音を立てて震えた。エリカからの着信だ。



「……はい」

「えっ? 大丈夫ってどういうこと?」

「う〜ん。説明すると長いから、また明日!」



 一方的すぎる気もするが、今端的に話せないので会った時にしっかり話したい。

 きっと、エリカもあたしが断るなんて思っても見なかっただろう。実際、あたしも先ほどのがなければ二つ返事を返していた。



 るんるんとした気持ちのまま、シャワーを浴びて夕ご飯も食べ終えた。そして、そんな気持ちを纏ったままお布団に入った。



 "ヒイロ"と呼ばれたのが、本当に嬉しかった。全くの赤の他人ではないようで。

 さらには、名前を教えてもらえたのが何よりも嬉しい。



 このワクワクとした気持ちは、探検隊をしている小学生と似ているかもしれない。あたしは心を落ち着かせようとして深い深呼吸をひとつとった。


 明日、果たしてエリカに説明して伝わるだろうか。そんな心配も少し感じる。

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