第16話
「……実は、私に一つ考えがあるのです」
「なに? いいじゃないか。それでいこう!」
「まだ、なにも言ってないです!」
「ああ、そうだな。だが玉美が決めたことなら間違いない。玉美を信じているからな」
「私の評価高すぎです。今まで無視してたのに」
「い、いや、前から玉美のことはすごいと思っていたぞ」
「本当ですか? どの辺をですか? 今まで無視してたのに」
「そ、それは先ほど謝罪しただろう! それでどういう案だ? 是非聞かせてくれ」
「その……SNSって知っていますか?」
「SNS? 『ソーシャル・ネットワーキング・システム』のことだな。知識の中にはあるが具体的にどういう物かは見たことも聞いたこともないな」
「知っていたのが驚きですが、そもそもとして、アレスくんはスマホ持ってますか?」
「スマホとは、『スマートフォン』のことか。いや、持っていないが」
「そのスマホの中にアプリというのがあるんですが――」
「ああ、アプリとは『アプリケーション』のことだな」
「いちいち、正式名称を言わなくていいです!」
「そ、そうか……。もう絶対に言わないから。続けてくれ……」
「そのSNSのアプリでは、思ったことを自由に呟いたり好きな画像や動画をアップしたりできるものがあるんですが、それを見て面白いと感じた人が『いいね』アイコンをタップして評価できる仕組みがあるんです」
「タ、タップするのか。そうか。なるほど。で?」
「その顔は、あまりわかってなさそうです……。実際に見てみますか?」
玉美はそう言うと、自分のスマホを取り出し一つのアプリを開いて見せた。
「これは、自分の思ったことを自由に百四十文字程度で呟くアプリです」
「呟く? 声を録音するのか?」
「ち、違います……。録音はしません。文字入力です。みんなに見せる日記みたいなものでしょうか。試しに私のアカウントで呟いてみるです」
そう言って、玉美は慣れた手つきで、さささっと文字入力して送信した。
《みんな、おはあり! きょうはクラスメイトとエンカしてファミレスだにゃ》
「な、なんだ、これは。日本語か?」
「それは今、重要ではないです」
「おはありってなんだ? それと最後の『にゃ』というのは入力間違いか?」
「こ、これで正しいんです。内容は気にしないでください」
「この左上の眼鏡をかけてる猫耳の娘は誰だ?」
「これは、私が描いた似顔絵キャラのアイコンです。い、今これは関係ないです。じろじろ見ないでください……」
「それでは、この『にゃん玉JK』というのは誰だ?」
「こ、これは私のハンネで……」
「ハンネとは『ハンドルネーム』の略か? 小川玉美と名乗らないのか? にゃん玉の玉は、玉美の玉だとわかるが、『にゃん』というのはいったい――」
「もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そのとき、玉美のスマホがピコピコと反応し始める。
「なんだ? 画面にたくさんの文字が流れ始めたぞ」
「こ、これです! これが『いいね』です。私の呟いた言葉に反応してくれたんですね。今ので五〇人に『いいね』されたんです」
「なるほど。『いいね』をされた数だけメッセージが表示されたのか。しかしだな、画面にこれだけの文字が表示されて鬱陶しくないのか?」
「なにを言いますか。これが気持ちいいんです! 私のフォロワー数は千人くらいで、その中で見てくれた方が『いいね』してくれたんだと思います。私は一か月前くらいからこのアプリを使い始めたんですが、この反応がとても嬉しくって。ふふふ……」
「そ、そうか……。それで、これが俺の幸せカウンターとどうつながるのだ?」
「それはですね。うまくいくかわかりませんが、人を幸せにするような配信をして『いいね』してくれたら、幸せカウンターもアップするんじゃないかと思いまして」
「なるほど……。素晴らしいぞ! よいではないか!」
「やってみないとわからないです……」
「いや、これはよいアイデアだし、やってみる価値はある。これなら一人一人相手にしなくても複数まとめて幸せにできるということだろ?」
「で、これを二人で進めるとして一つ問題があります」
「問題? なんだ?」
「アレスくんがスマホを持ってないということです。これを機会に買われてはどうですか? そ、その、お、お互いいつでも連絡できる方がいいと思いますし……」
本心はアレスと連絡先を交換したいからだと、悟られないように提案する玉美。
「たしかにそうだな。学校だけというのもいろいろ不便だ。すぐに買いに行こう」
「でも、未成年者が買うには親の同意がいるはずです。アレスくんのご両親は……」
「俺の親はこの世界にはいない。天界にいるからな。さて、どうするか……」
「親でなくても親権者であればいいのですが、アレスくんの親権者って誰でしょう」
「親権者? そこまではテミスに聞いてなかったが、おそらく親権者のことまでは考えてないだろう。あ、そうだ。あいつにお願いしてみるか」
アレスはそう言うと、ある人物へ連絡するよう玉美にお願いするのだった。
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