第34話
「いや、ほんと信じらんない! やっぱあたし、これ絶対無理だし!」
アレスとテミス、そして玉美と早霧の四人は、屋外のとある公園に集まっていた。
その片隅で真剣な表情をして早霧をなだめるアレスたち。
彼女は玉美が持参したかわいらしい垂れ耳の犬耳カチューシャを付けている。そして真っ茶色の全身タイツで、胸と腰そして手足だけがフカフカの着ぐるみで隠されていた。
早霧はその変な格好をさせられたことで、恥ずかしさで怒りが爆発していたのだ。
「なんであたしが? アレスかテミスさんがやりゃいいじゃん! こんな格好、親や友達に見られたら恥ずか死ぬわよ! それに犬人族の設定なんてガチで無理!」
「私、猫人族で頑張ってるんですけど……」
そう言って涙目になる玉美。
それを見た早霧の顔は『しまった』という表情に変わる。
「あ! ち、違うっ! 玉ちゃんのことじゃないから! 玉ちゃんはすんごい頑張ってる! 今のはアレスに言ったのよ! こいつが全部悪いんだから!」
そう。この犬人族キャラはアレスの発案だったのだ。
今回の配信企画は早霧が提案した《JKが行方不明の犬を捜索してみたにゃ》に決まったのだが、人や動物を探す魔法は存在しなかった。ではどうやって探すのか、という話になったとき『近くの野良犬に話しを聞き、目撃情報を集めながら捜索すれば』と玉美が提案する。
するとアレスが『猫人族のにゃん玉JKが犬と会話するのはおかしい。だから犬人族も必要だ』という変なこだわりをみせ、今に至るのだった。
また、ちなみにこの配信からはテミスが同行している。これは、屋外だとアレスが撮影しながら犬語の翻訳結果を伝えるのは難しいだろうという理由から、玉美が彼女を説得し撮影担当を引き受けてもらったからであった――。
公園にいる早霧たちの周りには、彼女の格好を見た子供たちが取り囲む状況となる。しかし、かわいいはずの犬人族がマジギレしている姿を見て泣き出す子供も出始める始末。
それを見た早霧は、これはまずいと笑顔に変わりハイテンションで挨拶するのだった。
「な、なんちゃってぇ、だワン! みんな嘘だワン! 怒ってないワン!」
すると、そんな彼女をみて笑顔に戻る子供たち。
『なんだぁ、嘘だったの?』
『ワンちゃん、ほんとに怒ってなぁい?』
「そうだよ。ワンちゃんは全然怒ってないよぉ。本当はみんな仲良しだワン! あ、お嬢ちゃん、お腹殴らないでね。そこは生身だから」
『やったぁ! 握手してぇ』
『僕が先だぞ! 順番守れよ!』
『ねぇねぇ! ワンちゃん、お名前は?』
「え? あたしの? 名前は、早霧……じゃなくて、えっとぉ。サ、サギーだワン! みんなサギーって呼んでねぇ! ちょ、ちょっと僕、変なとこ触んないで……」
公園内がパニックになるのを見た玉美は、たまらずアレスに声をかける。
「こ、これはまずいですよ。配信開始の時間ってまだですか?」
するとアレスの隣では、すでに撮影を開始しているテミスの姿があった。
彼女はスマホのカメラを二人に向けながら、指で輪をつくりOKの合図をしている。
「え。もう始まってたんですか?! 早霧……じゃなくてサギーちゃん! ライブ配信もう始まってたにゃ!」
「んなっ! いつから?! ま、まだ準備がぁ!」
「サ、サギーちゃん! 笑顔だにゃぁ! ライブだからにゃ! あははは……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! か、顔映ってるしぃ!」
早霧はそう言った後、変装用に持参した黒ぶち眼鏡をかける。
しかし彼女は気づいていない。
すでに三千以上にまで膨らんだ視聴者の中には、同級生や後輩も多数含まれているということを。
結果、視聴者のメッセージ欄には、彼女のリアルばれ情報が入り乱れるのであった。
『にゃん玉さん、やっぱ天河高の制服着てる』
『誰?! 美人すぎる! このワンちゃんも天河高?』
『天河ってどこ?』
『サギーって……どう見ても早霧ちゃん』
『やっぱり渋谷先輩!』
『眼鏡あんま関係ない』
『早霧さぁぁぁぁぁん! 犬っ娘、きたぁぁぁぁぁぁ!』
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